甘々なキス・1

「遅いぞ!」

「あっああ、ゴメン」

 …って、オレ、何で謝ってんだ?

 家を出たのはいつもの時間。

 なのにアイツは家の前で、本を読んで待っていた。

「…ちなみにいつから待ってた?」

「十分ぐらい前だ。待ち合わせはそのぐらい早目に来た方が良いんだろう?」

「えっ? いつ待ち合わせしてたっけ?」

 そう言うと、アイツの顔が真っ赤に染まった。

「いつだっていいだろう! それより行くぞ! 学校に遅れる!」

 叫ぶなり、オレの手を掴んで早足で歩き出す。

 …ヤレヤレ。今日も一日がはじまる。

 手をつないだまま、高校に到着。

 そのまま教室のある三階まで、連行されるカタチで連れてかれる。

「…じゃあ、後でな」

「ああ、うん」

 微妙な空気で、手を離される。

 オレとアイツは別のクラス…と言っても、隣だけど。

 朝別れると、次は昼休みまで会えない。

 そのことをアイツは悲しく思っているらしい。

 でもオレは…まあオレも寂しいケドさ。

 教室に入って、自分の席に座ると、深くため息をつく。

 …どうしてこうなったのか、振り返ること1週間前のことだ。



「好き…なんだ!」

「…はい?」

 放課後、いきなりアイツに呼び止められ、屋上へ行き、第一発声が告白の言葉だった。

「えっえっとぉ…。友達としての?」

「恋愛感情として、だ」

 顔を真っ赤にして、怒りながらの告白って…。

 そもそもアイツとは、あんまり接点がなかった。

 高校二年の今は、同じ図書委員。

 一年の頃は、オレがコンビニでバイトをしてた時に、常連として来ていた。

 だから顔見知りではあったし、話も少しはしてた。

 でも…惚れられる理由が分からない。

「あの…さ、オレのどこが良いの?」

 だから思いきって、聞いてみた。

「フツーのところ」

「…はい?」

「だから、普通のところが良いって言っている!」

 …普通って、褒め言葉だっけ?

 でもコイツから『普通』という言葉を聞くと、確かに別の意味に聞こえる。

 学校で有名な美少年だから。

 それでいて、とても気が強いから。

 ヘンなヤツにからまれたとしても、自分1人で解決できる強さを持つらしい。

 男女共々人気があるコイツが、『普通』のオレを好きになる。

 まあそういうことだってあるだろう。

「…で、どうだ? ボクとこっ恋人にならないか?」

「あっああ、そうだな」

 頭をかきながら、改めてコイツを見る。

 確かにキレイな顔をしているし、この性格もキライじゃない。

 付き合えば、いろんな一面を見れて、好きになるだろう。

 …って、オレ、付き合う性別を最初に考えるべきじゃないのか?

 ああ、でもそんなの関係ないのか。

 一目惚れって、そういうモンだろう?

 コイツを一目見た時から、何となく気にはなってたし…。

 改めて今、惚れ直したって、一目惚れって言えるよな?

「…じゃ、これからよろしくな」

 オレは笑って、手を差し出した。

「えっ…。いいのか?」

「ああ、オレは一目惚れだし」

 そう言うと、ボロボロ泣き出してしまった。

「わっ! おっ驚いたか?」

「嬉しいっ…!」

 泣いてオレの胸に飛び込んできた。

 だからオレは頭を撫でながら、ぎゅっと抱き締めた。

 しばらく泣いていたけれど、ゆっくりと顔を上げて、オレの顔をじっと見てきた。

 オレはアイツの赤い唇に、キスをした。

 涙に濡れて、少ししょっぱかったけれど、ぬくもりと気持ちが伝わってきた。

 唇を離した後も何だか嬉しくって、ハンカチでアイツの顔を拭きながらも、笑っていた。

 ああ…オレはコイツのことを、大好きなんだって、自覚した時だった。



 …今思い出せば、何ちゅー恥ずかしいことをっ!

 でも後悔はしていない。

 アイツのことは、一緒にいるたびに好きになっていく。

 何よりオレを本気で好きでいてくれることが嬉しくって…。

 …でもちょっと、抑えるべきか?

 周囲の視線を、最近痛く感じるようになった。

 皆はほとんど黙認しているけれど、本心としては、何でアイツがオレなんかを選んだのか、不思議でしょうがないだろう。

 オレだって、未だに不思議だ。

 だけどアイツがオレを好きって言うのは本気だし、そのことを他人にどうこう言われたって、別れるつもりは無かった。

 ―オレも本気になったから。

 絶対に諦めないし、別れたりしない。

 昼休みになると、アイツはすぐにオレのクラスに来る。

 だからオレは弁当を持って、すぐに教室から出る。

「今日も屋上?」

「ああ、あそこが1番人気が少ないし…」

 …意味ありげなことを、真昼間から言わないでくれ。

「じゃ、行くぞ」

 そう言うと、またオレの手を握って歩き出す。

 こんなことしなくても、オレはお前の側にいるのに。

 そう思うけれど、あえてオレは言わない。

 手をつなぐことを、嬉しく思っているから。

 でもコレはナイショ。

 言うと顔を真っ赤にして、怒鳴られそうだから。

 途中でお茶を自販機で買って、屋上へ行った。

 青空の下、屋上には人気が少なかった。

 そのまま裏の方に回り、二人で食事をする。

 2人っきりでいる時、ほとんど会話はない。

 家に帰って寝る前に、電話で話をする時ぐらいしか、コイツはしゃべらない。

 理由は本人が目の前にいると、緊張するからだそうだ。

 …まあまだ1週間だしな。

「なあ、今度の休みなんだけど…」

「うん」

「ゆっ遊園地にでも行くか?」

 男2人で遊園地か…。

 行くと逆ナンされそうだな。…主にコイツが。

「遊園地かぁ」

「ほっ他に行きたい場所があるなら、そこでも良いぞ? ボクはお前の行きたい所なら、どこだって良いし…」

 と言われましても。オレが良く行く場所はゲーセンとかボーリング。

 あんまりコイツのイメージに合わない。

「あっ、行って見たい場所があった」

「どこだ?」

 オレはアイツを見て、にっこり笑った。

「お前の部屋」

「えっ!?」

「次の休みはお前の部屋に行く。決定な!」

 そう宣言すると、アイツの膝の上に頭を乗せた。

「おっおい! 何を勝手に!」

「良いじゃん。どうせいつかは行くんだし、な?」

 オレは戸惑い顔のアイツの頬を撫でた。

「まったく…。しょーがないヤツだな」

「そのしょーがないヤツに惚れたお前が悪い」

 オレは手をアイツの後頭部に回して、引き寄せて、唇にキスをした。

 間近で見るアイツの微笑んでいる笑顔が、とてもキレイだった。


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