年下とのキス
高校の正門が見えてきた。
俺は息を整え、体を少し揺らし始めた。
そして校門をくぐるなり…。
「センパイ! おはようございます! 愛してます!」
ヨーイ…ドンッ!
「あっ、何で走って逃げるんですかー!」
捕まりたくないから。
ウチの高校、土足OKで本当に良かった。
そのまま校舎の中に入り、本当はいけないけれど廊下や階段を走る。
「ちょっ…待ってくださいよー! センパイ!」
周りの生徒は心構えていたように、避けていく。
…まあ毎朝恒例だからな。
だから俺もスピードを緩めず、校舎の中を走りまくる。
途中、声をかけられるので短く返答しながら走り続ける。
ふと後ろを振り返ると、アイツも返答している。…笑顔で。
化け物め! と心の中で思いながら、走る。
やがて屋上へ出てしまい、俺は逃げ場を失った。
「ぜぇぜぇ…」
「今日はここまでですか?」
俺はキッと後輩を睨み付けた。
「おっ前、おかしいんじゃないのか?」
「んっ? 何でですか?」
ケロっとした表情で、アイツは俺に近付いてくる。
「男の、しかも年上の俺を好きだなんて…。頭おかしいだろう?」
「―そりゃ恋に狂っていれば、誰だっておかしくなるよ」
出たっ! 二人きりでいる時、コイツは『後輩』から『男』の表情になる。
「センパイこそ、いい加減諦めなよ? もう学校公認なんだしさ」
「それはお前が毎朝、ああいうことをするからだろ!」
「だってセンパイを他のヤツに取られたく無いしー。牽制はしといて損は無いから」
そう言ってニヤッと笑う…。
くっ…!
コイツの二面性に騙された!
思い起こせば今年の春。
校庭の隅で、クラスメイトがコイツを取り囲んでいた。
抜群の運動神経と明るさから目立っていたコイツが、気にくわなかったらしい。
一応生徒会に入っている俺は、ある程度なら顔が利いた。
だからクラスメイトを止めたんだが…止めなきゃ良かった。
まあケンカなんてなったら、コイツが所属している剣道部は泣きをみるんだが…。
「ねぇ、センパイ。オレにしときなよ? オレ、実家金持ちだし、後悔させないって」
そう言って笑顔で抱きついてくる。
「わあ! センパイの鼓動、ドキドキしてる」
「走ったからだ!」
アレだけ走って息一つ乱さないなんて…。
しかも顔は笑顔だが、目は笑っていない…。
コイツの本気は怖過ぎる。
怖くていつも、俺はコイツの姿を捜してしまう。
「ねぇ、センパイ。オレのこと、好き?」
「好きなんかじゃっ…!」
「ウソ。信じないよ、そんなウソ」
…何を言っても信じないくせに。
今までどんな断りをしても、聞き入れなかったクセに。
「センパイはオレのことが好きなんだよ。いい加減、認めなよ」
真正面から、俺の目を見つめながら言って、そして…いつもの熱いキス。
「んっ…」
噛み付くようなキスを何度もされると、頭の中がぼうっとしてくる。
抵抗なんて出来ない。
許してくれない。
「…ふっ」
いきなり唇は離された。
…相変わらず勝手な。
「他のヤツなんて好きになるなよ。なったら、殺す」
「…誰を?」
「もちろん、そいつを」
ニヤッと嫌な笑みを浮かべる。
「センパイはオレ以外、好きになっちゃダメ」
「ワガママだな」
「ヤダな~。センパイだって分かってるでしょ?」
…俺をまるで睨み付けるような目線で見てきた。
「オレが狂っているのはアンタのせい。アンタがオレを狂わせたんだよ」
「…なるほどな」
一理あると思ってしまう。
「かわいそうなセンパイ…」
俺を哀れむような手で、頬を撫でてくる。
「あの時、オレを助けなきゃ良かったのにね。でなきゃオレ達二人、出会うことも無かったのに」
…それもそうだ。
でも…。
「…それでも、俺はお前と出会ったことを後悔しない」
「…っ! …あなたって人はっ!」
息苦しいほどの抱擁。
もう…諦めてしまった方が良いように思えてきた。
人間、諦めは早い方が傷は浅いだろう。
…何だか投げやりになってしまったケド、これでコイツが少しでも落ち着くなら…。
「あっ、そうだ! センパイ!」
「なっ何だ?」
「オレっ、亭主関白が良いです!」
…何を言い出すんだ? コイツは。
「だからセンパイは嫁入りしてくださいね!」
「………」
「それでオレの言うことには絶対で!」
「ふっ…」
思わず口から声が漏れた。
笑みも浮かぶというものだ。
「ふざけんな!」
ばきぃっ!
「男のプライドまでは捨てられるか!」
「じっじゃあ、オレと一緒に生きてくださいよ!」
「…それなら」
まあ良し、か…?
…いや、コレってもしかしなくても、プロポーズ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます