真っ直ぐなキス

「オレ、お前が好きだ」

「はいはい」

「本当に好きなんだ。他のものなんてどうでもいいぐらいに好き」

「分かった分かった」

「ずっとお前のことばっかり考えてる。一瞬たりとも忘れたことはない」

「それはどーも」

 高校からの帰り道、幼馴染のコイツと帰るといっつもこうだ。

 キレイな顔をして、無表情。

 それでいてしゃべりかたは淡々としている。

 小さい時から変わらない。

 俺達の関係も変わらない―ハズだった。

 変わり始めたのは中学に上がってから。

 それまで女の子のように可愛かったコイツは、成長期になると可愛いからキレイになった。

 だから女の子にモテまくった。

 でも断りまくっていた。

 なので俺は聞いてしまった。

「お前、何で彼女作らないんだ? 好みの子、いなかったのか?」

 …失敗だった。

 何せ次の答えが…。

「オレはお前が好きだから。彼女なんていらない」

 ……その言葉を理解するのに、たっぷり2分かかった。

 その後、毎日のように俺を好きだと言っている。

 ただ…言うだけで、何かを期待しているというワケでもなさそうだ。

 待っている…と言うのはアリかもしれないけど…。

「好きなんだ、本当に」

「…ああ」

 人気の少ない土手の上の道。

 アイツの声が後ろから追いかけてくる。

「きっとお前以上に好きなヤツなんて、一生できない」

 こういうふうに毎日言ってくるだけで…俺には何も期待していない。

 そのことが最近、イラ立ってきた。

「信じてほしい。オレにはお前だけなんだ」

「っ!」

 オレは耐え切れなくなって、振り返った。

「だから何だって言うんだ! お前、俺に何してほしいんだよっ!」

「何って…だから、好きだっていうことを信じてほしいんだ」

「それはっ…」

 分かった。

 十分に理解した。

 言われ続けて5年間。

 時間もたっぷりあった。

 でも…結論は言ってはくれなかった。

 好きだと言うだけで、何もっ…!

 目頭が熱くなってきた。

「…っ」

「泣いて…いるのか?」

「泣いてなんかっ…!」

 ただ情けなくなっただけだ。

 期待されていない、応えられもしない自分に。

 顔を見られないように俯いて、目を閉じた。

 涙が溢れてきたのを感じた。

 だけどそれと同時に、唇にあたたかな感触が…。

 って、えっ!

 思わず目を開けると、すぐ目の前にアイツの顔が!

「…泣き止んだか?」

「なぁっ!?」

 この感触はもしかしなくてもっ!?

「きっキスしたのか?」

「ああ。驚くと、涙止まるって聞いたことがあるから」

「ショック療法かよっ!」

 あっ…何か力が抜ける。

 確かに涙は止まったけどよ。

「それじゃ、改めて…」

 俺の肩を掴むと、再びキスしてきた。

「んっ…」

 あたたかくて、そして口の中に甘さが広がる…。

 キスはイヤじゃなかった。

 イヤじゃないどころか…。

「…いきなりだな。5年間、手も出さなかったクセに」

「一度手を出せば、理性が利かなくなるのを分かっていたから、必死にガマンしてた」

「何だ、そりゃ」

 思わずふき出す。

 するとアイツは優しく微笑んだ。

「―笑った」

「そりゃ笑うさ。お前、大人しい顔して考えることが過激なんだから」

「うん。過激になる。お前のことに関してだけ」

 そりゃ怖いこと。

 俺は肩を竦め、とりあえず手を握った。

「まっ、ゆっくりいこうぜ。いきなりは流石に心臓に悪い」

「ああ。オレはお前が望むなら、何でも叶えてやる」

「ありがと。…じゃ、ずっと俺のこと、好きでいてくれよ」

 俺がそう言うと、過激な幼馴染は甘く微笑んだ。


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