第2話 雨を飼う落語家

おばんです。花冷えですなぁ。おや、ねえさんお久しぶりです。お隣よろしいですか。はい、ごめんなすって、と。女将さん、熱燗。今日はお銚子一本で帰りますよ。いえ、ホントの話。


あたしが来ましたからね、そろそろ降りますよ。外で呑んでる衆には言っときました。


おっ、熱燗がこうさっと出てくるのはありがたいねぇ。じゃ、おつかれさまです。


ふぅ。


・・・・・・ほら、降ってきた。


ふふ、あたしゃ雨男なんてもんじゃなくてね、雨を飼ってるんですよ。あたしが高座に上がるってぇと雨が降るもんで、お客様は番組見たら天気予報がどうだろうと雨靴履いてくるなんておっしゃるくらいでね。


えぇ、女将さんはご贔屓筋ひいきすじだからよくよくご存じ。ねぇ、降るの降らないのって。


さて、あたしはこれで。


ねえさんはもうちょっといるでしょ。そしたら傘は大丈夫。あたしが帰ってしばらくすりゃやみますから。ホントですって。あ、今日はねえさん蟹の帯留めか。蟹が水を呼ぶのと、あたしが雨を引っ張るのと、どっちが強いかね。


うそうそ、心配ないですよ。


はい、雨は任されましたよ。それじゃ。

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