1ポモドーロ小説

はろるど

第1話 雑貨屋の沢蟹

ここね、沢蟹さわがにがいるんですよ。ええ、嘘じゃありません。そこに手水鉢ちょうずばちがありますでしょう、そこにおりますよ。


見えましたか。


さて、いつからいるものやら。私が此処を買い取った時に、前の住人からこの一角だけは改装しないでくれと念を押されましてね。まあうちの本当のあるじみたいなものですね。私どもは「ヌシさん」と呼んでおります。


お客様、ちょっとそのまま。・・・・・・危ない、危ない。沢蟹って意外と活発でしてね、こうやってお客様の足下なんかにひょっと現れるんですよ。いつか踏まれちまうよって言って聞かせてるんですけどね、聞いちゃいません。ヌシさん、洋燈らんぷのあたりはガラスが多いから来ちゃいけませんってば。


はい、その洋燈らんぷですか、なかなか風情がありますでしょう。客船で使われていたものですよ。同じ型のやつをね、珈琲コーヒー屋さんをやってるって方が最近買って行かれましたね。


お客様、お着物をお召しですからこんなのはどうです。ええ、帯留めです。蟹なんて、ちょっと変わってるでしょう。これは珊瑚、これは銀、これは真鍮・・・・・・。


銀がお気に召しましたか。ああ、確かに。色味といい、格好といい、うちのヌシさんに似てますねえ。


お包みしますので少々お待ちを。


はい、ちょうど頂戴致しました。

またお越しくださいませ。ヌシとお待ちしております。

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