１ポモドーロ小説

第6話 付き人

お帰りですか。お見送り致します。

久しぶりにお見えになるとのことで、大変楽しみにしていらっしゃるご様子でした。お会いになって、いかがでしたか。

そうでしたか。つい先日薬が少し変わりましたので、その影響かもしれません。医師にもそのように伝えます。お声やお見送りの時のご様子は和やかでしたが、他になにかお気づきですか。

人違いをされていた以外は特に、と。かしこまりました。その、大丈夫ですか？

いや、ようございました。お歳を召された方にはよくある事ではあるのですが、人違いをされた方が傷つかれるケースもありますので。

やはり驚かれましたか。昔語りが活き活きとしていて楽しいと言ってくださると、おばあさまもさぞ嬉しく思われるでしょう。

仰るとおりです。思い出の中に戻っていかれているような、その当時を生きておられるような。まさに思い出が蘇っている状態ですね。

はぁ、テディベアに着物ですか。布など手配致しましょう。手芸の会がありますから、すぐに手配できます。物作りに興味がおありなのも、元気の秘訣かもしれませんね。手を動かすのは頭の刺激になりますから。

ご一緒にお作りに？素敵な計画ですね。ええ、是非そうなさってくださいませ。

さようですか。伊豆の、別荘のことを。これから夏に向かいますから、お部屋の中の絵などを変えようと思っていたところです。参考にさせて頂きます。

はい、こちらでは合唱の会や手芸の会に入られて、楽しそうにお過ごしです。この間は運動会の玉入れで一位を。そうそう、私共でミニアルバムを作りましたのでお持ち下さい。

あとはお食事のたびに、盛りつけの工夫や彩りの事など細やかなお褒めを頂くので、厨房係一同大変喜んでおります。

ありがとうございます。そう言って頂けますと私共の励みになります。

あぁ、そろそろ次のバスが参りますね。お気を付けてお帰りくださいませ。