第35話 先生

来てくれてありがとう。今朝、つらかったね。先生に教えてくれて、ありがとう。この話をしても、大丈夫かな?


そう。ちょっとでもつらくなったり、気持ちが悪くなったりしたら、すぐに教えてね。


無理はしないように。これだけ、約束して欲しい。


ありがとう。早速だけど、駅員さんや、他の先生方と対策を立てるために情報を教えてもらいたいんだ。


使っている線路は・・・・・・ああ、この線だね。朝はかなり混む、そうだね?


身体が浮くのか。そうだね、小柄なあなたなら、周りの人に押し上げられてしまうこともあるよね。


今日立っていたのは出入り口の前のスペース、真ん中のあたり。というと、こう、だいたい正方形になっている部分の、中心のあたりという理解で良いのかな?


確かに、あそこのつり革は手が届かないよね。それで、がんばって足で踏ん張っていたと。


そうだね、確かにそれだけ混んでいたら完全に誰とも接触しないのは無理だね。


うん、うっかり手が当たってしまった場合であれば、謝るとか、ちょっと頭を下げるとかするよね。


そうか、よくあるのか。つらかったね。まだ、続けて大丈夫?


ありがとう。


そうか、今日は何回も触られたんだね。怖かったね。


スカートをたくし上げられた?!


うん・・・・・・うん・・・・・・。そこで「やめてください」と言えたのは、とても勇気のある行動だね。


そう・・・・・・。普通じゃないことは、無視しようとする傾向があるからね。でも、それで手は引っ込んだんだね?


そうだね。もし、誰かが同じように助けを求めていたら、「どうしましたか」って声をかけてあげるのは、良い方法だね。


結局、誰がやったかはわからなかったんだね。


うん、よくわかっていない人ほど、「手を掴んで捕まえればよかったのに」とか言うけど、気持ち悪いし、怖いよね。声を上げられただけでも、すごい勇気だよ。


えっ、手を引っ張られる?身体を触らせられるということ?それは、よくある事なの?


それも、あなたが抗議して良い行動だよ。あなたの意志に反して、あなたの身体を好き勝手して良い権利は、他の誰にもないんだから。


変なこと、怖いことだと、思いたくない、か。そうだね、毎日乗らなきゃいけないものだからね。怖いことがあるかもしれない場所だって思いたくないよね。


・・・・・・そうだね。先のことを考える力が強い人ほど、「一旦捕まえた痴漢の人が戻ってきたら」とか、「トラブルになったら」とか、色々思い浮かんでしまうね。


路線を変えるとか、乗車時間をずらすとか、まずはそんな対策しか言えなくて、申し訳ない。


先生や、当事者以外の人が出来ることは少ない。本当に、力不足だ。だけど、どうか、これだけ覚えておいて欲しい。


あなたの存在は、尊い。あなたは、愛されるために生まれた、かけがえのない存在だ。だから、害された時、それを当然だと思わないでほしい。そして、誰かに助けを求めることが出来たら、声を上げられた自分の勇気を、誰が認めなくても自分自身は認めてあげてほしい。


話してくれて、ありがとう。

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