第2話 世界
World・World・World。
略してWWW。決して人を笑っている表現ではない。
こんなんでも一応はそこそこ人気を博しているVRMMOのタイトルである。
コンセプトは自分だけの世界を、自分だけの世界に作り上げようというゲームだ。
例えば、ぬいぐるみを愛してやまないが、今の自分が住んでる所では手狭だったりとか、人にバレると恥ずかしい等の理由で趣味を表に出せない人など。
このWWWであれば、そういった世界を作るのもお手の物である。
ぬいぐるみの住人しかいない
小説のように分かりやすいタグを付けておけば、同じような趣味を持ち、同じような世界を作ったプレイヤーと交流が可能だ。
交流をして、双方の趣旨が合っていれば
中にはとにかく戦いたいという欲求を持て余す者もいる。
自分の作った軍団を、自分の鍛えた兵隊たちを、自分の設定した完全な機械たちを。とにかく戦わせたいというプレイヤーたちも多い。
そういった者たちが集まる
戦うことに特化した兵隊たちを駆使して、三つ巴など当たり前、五つ巴など生ぬるいとでもいうような、とにかく戦うことが手段であり目的になっている。
オールマイティーに鍛えた生身の兵士たちが、無人で動く戦車や戦闘機や船舶が、見たことも聞いたこともない異形の生物が、一糸乱れぬ機械で出来た兵士たちが。
毎日毎日、ただ無限に生み出せる兵士たちを使い潰すだけの戦いを繰り広げている
そんな中、由梨枝とその兄である隆弘が目指したのは、他者との交流をあまり必要としない
コンセプトは自給自足。その巣が一つあれば生産も防衛も住居も賄えるという
生物学を専攻していた隆弘は、その世界を昆虫と人とを掛け合わせた昆虫人という種族によって形成した。
各方面は女王となる昆虫人が一人いれば、幾らでも増やすことができるからだ。
殆どが女性型となったのは隆弘の趣味である。
物凄い力説して昆虫のコロニーとは何なのかと語ってくれた兄には悪いが、由梨枝としてはその女性だらけの巣を見たときは、頭を抱えて呆れるしかなかった。
由梨枝は元々同じゲームでも別の
すると隆弘は嬉々として自身の作り上げた
由梨枝とて、そう迄する理由を兄から聞いていなければ納得はしなかっただろう。
プレイヤーはコロニーの頂点として最初から君臨するため、
クマのぬいぐるみなプレイヤーもいれば、全く動くことの出来ないデカいマザーコンピューターみたいな物体のプレイヤーもいる。自らが星となってその身に
由梨枝の場合は人間の姿のままであるが、隆弘は雄の昆虫人としての姿だ。
一見すると人のようだが、シャツだったりズボンだったりという衣服に見えるのは全部外骨格である。
おまけに背中に折りたたまれた第二の外骨格ともいうべき部分を展開、装着することによって、特撮ヒーローの重戦士みたいに姿を変えることが出来る。
ここで隆弘の作り上げた
そして由梨枝と交代した隆弘の立ち位置が問題である。
どっから突っ込めばいいのかと由梨枝は頭を抱えたが、当の本人が「おお~、見た見た? ユフクレナちんがさっき俺に蔑みの目を~! 業界ではご褒美です!」と喜んでるのを見て、更に頭が痛くなったのは言うまでもない。
そんなある日のこと。
一緒にゲームにログインしていたのだが、由梨枝ことユーリエは巣の一番高いところでティータイム。近くには直属の蜂女の侍女カラが控えている。
時々、兄の隆弘ことローヒーがやってきては「誰それに蔑んだ目を向けられた」とか「兵士たちに槍を振り回して追い掛け回された」だとか。しょーもない報告をしてくる。
そのうち何を思ったのか「ちょっと出かけてくる」といって、ここの巣内とは別の命令系統の直属の部下を連れて、外へ飛んでってしまったのだ。
それを見ていた攻撃隊長の蟷螂女のベイティアがニヤリと笑っていたので、「暗殺はしないように」と釘を刺しておいた。いくらゲームといえども兄が暗殺されるなんてことがあったら、即座にゲームを退会すべきだろうか。
などと考えていたら、いきなり目の前がぐにゃりと歪み、平衡感覚を失って倒れてしまったのだ。遠くで誰かが自分を呼んでいる声を聞きながら、ユーリエの視界は暗闇に包まれた。
そして目が覚めてみれば世界が一変していたのである。
巣の周囲に広がっていた深く昏い森は消え、灌木の生い茂る亜熱帯な風景へと変わっていたのだ。
なによりもユーリエを慌てさせたのは兄である隆弘の存在だ。
フレンドチャットがうんともすんとも言わないので、あやうく半狂乱になるところであった。
自意識を保っていられたのはあちこちからもたらされた異常有りの報告である。
ゲームの時とは違い、冗談も交えて話せる存在がいるだけで、彼女の心には安堵が広がる。
最強の近衛とも自慢する直属の部下が一緒なのだ。
隆弘はこの何処とも知れぬ世界で無事でいるだろう。あのお調子者が何かで落ち込んでいるはずがないと決め付けておかないと、ユーリエもなにかに喚き散らしたい心境だった。
扉をノックする音で、ユーリエは微睡みの中からゆっくりと目覚めた。
室内にいた侍女。前の世界からユーリエが持ち込んだマネキンの侍女が扉を薄く開けて、外に居た誰かと二言三言会話をして振り返った。
「ユーリエさま。そろそろ二時間が経つそうです。お加減はいかがですか?」
「ああ、今行くわ」
起き上がってもう一体いたマネキンの侍女に身支度を手伝わせ、黒い裾の長いコートを羽織って自室より出る。
外には恭しく頭を下げたカラが待っていた。
「皆様、お待ちになっておられます」
「ああ、ごめんなさいね。もう二時間過ぎちゃったかしら?」
「いえ、皆さまは既に一時間前から、会議室にお揃いです」
忠誠心高過ぎだろうと愚痴りたくもなる。元々の
カラに先導を任せ、ユーリエは会議室へと足を向けた。
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