第13話 開拓村①

 エルデ国東方開拓議案第17号。

 それがその村に付けられた正式名称である。

 だがそんな長ったらしくて、めんどくさい呼び名などは書類上のものでしかない。

 役人は開拓村17号と呼び、旅商人たちは東の果ての村と呼ぶ。

 村人たちはレフェリーの村と言う。ちなみにレフェリーと言うのは村長の名前である。


 エルデ国自体もそんなに大きな国ではない。

 めぼしい国産品もないし、国内流通で何とか自国民を飢えさせないでいられる程度の生産力がせいぜいと言ったところだ。

 それは同じ海岸線で続いている南北の国も似たような状態であり、侵略されるような肥えた国土でもない証でもある。

 ともあれ南北が塞がれているのであれば、国土を広げるには東に広がる大森林を切り開くしかない。

 アフリカ大陸で言うところの、ナイジェリアとガボンとコンゴ共和国に挟まれたカメルーンみたいな土地だ。

 西海岸側の南北には国が群雄割拠しているが、東側の内陸には未だに険しい山脈や荒々しい魔物がはびこる深い緑が延々と続く森林地帯が広がっている。

 厳しい自然が人の手を阻んでいるような所ばかりだ。

 そこをなんとか切り開いて、国の領土を広げて自国の生産力を上げなくてはならない。

 それはこの大陸に国土を持つ者たちの総意である。


 だからといってそれは言うほど簡単なことではない。

 森林は人の手を阻むし、それどころか国を蝕むように拡大し続けている。

 それをなんとか押し返しつつ、杭を穿つように開拓村を割り込ませていくのも並大抵の苦労ではないということだ。

 人を送り込み続けて新たな街へと発展したところもあれば、一年と持たずに森へ呑み込まれたところもある。

 なんとか田畑を広げて穀倉地化に成功したところもあれば、運悪く魔物のスタンピートに巻き込まれて一晩で壊滅したところもある。

 成功するかしないかは立地条件と運に頼るしかない、としか言えないのが主な現状だ。


 今回レフェリーの村が地を構えたのは比較的平坦な土地であった。

 まばらに生えた木々が広がる、比較的低木の多い疎林が「峰のくびれ」と呼ばれる山脈が途切れた地域まで続いている。

 ざっと調べたところ周囲には実の成る果樹が多く、山菜や薬草の類も見つけやすいとのことだ。

 大型の獣も目撃例がなく、小型の猿などの臆病な生物が多少見受けられたくらい。

 今後の探索次第ではあるが、魔物の大量発生で引き起こされるスタンピートの可能性は低いと思われる。


 勿論こんな土地を引き当てられたのは、レフェリーの村より西側に建設された開拓議案第6号村の、汗と涙と苦悩の結晶によるものだというのを忘れてはならないのであるが。


 今のところは田畑を広げつつ、野生の果樹を改良して果樹園を作れないかの検討が主な仕事である。

 その合間に山菜や薬草を摘み、6号村もといハルパスの村に輸出するのがこの村の主な収入源であった。


 村民は総勢30人程度。

 村長が1名と武装神官が1名。後は兵役に就いた経験のある農民が半分くらい。残りがその家族だ。

 小さな広場を中心に建てられた小屋が20棟程度。

 ちっぽけではあるが、その地の開拓に成功すれば新天地は晴れて自分たちの物。

 かなりの危険が伴うが、「寒村で朽ちるよりはいっそのこと」と希望を持って臨む者が多い。


 問題は彼らの希望をたやすく打ち砕く化け物共がその近くに巣を構えたことだろう。

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