第12話 巣分け1
巨大な10数匹の働き蟻たちが出入りを繰り返しながら縦穴を掘っていく。
新たなる巣分けの女王に任命されたリプレは、はやる気持ちを抑えつつ今か今かとその時を待っていた。
まずは巣の心臓部と言われる女王の部屋を作り、最初に作った縦穴を埋める方向で螺旋の通路を再度掘り進めるのである。
これは女王の部屋までの経路を複雑にし、侵入者を防ぐ構造となるものだ、
あとは卵の部屋。卵から孵った幼虫の部屋。蛹を安置しておく部屋などを作りつつ、巣をどんどん拡張していく予定である。
巣分けのために連れてきた働き蟻たちは50匹。
これに巣の防衛も兼ねる兵隊蟻が10匹加えられた総数60匹が、今のリプレの手勢である。
当初は二割ほどの兵隊&働き蟻を送るという話であったが、ルオミオの配下の兵隊蟻は第三軍が存在することもあって数が少ない。
そんな理由からここまでの少数になっているのである。
とりあえず新規の穴を掘る担当以外の働き蟻たちは、周辺の森へ食料の調達に出ていた。
その殆どが新しく女王となるリプレのためであった。
働き蟻や兵隊蟻が一日の活動に必要なエネルギーは、ひと口程度の花の蜜があればよい。
その巨体からして量的には5リットルのバケツ一杯くらい必要になるが。
界樹の周辺には改良を加えられた巨大な草花があったが、ここにそれはないため一部の働き蟻たちは巣になる場所の周辺を整備し、それらの草花の種を植える作業に従事していた。
過酷な環境に一番晒される働き蟻たちは、食糧にも頼らずとも長期間動けるだけのスペックは備えていた。
その弊害として彼らは、それほど長い寿命を持っていないことがあげられる。
ルオミオから借り受けたこの働き蟻たちも、リプレの生み出す働き蟻が動き出す頃には一匹残らず死に絶えていることだろう。
兵隊蟻たちはある一定の距離を取って巣の周りを警戒し見回っている。
大顎が極端に発達した姿の兵隊蟻たちは、誰であろうと巣に近付く者がいれば一瞬で対象を引き裂くだろう。
それと同じくカーディナルの部下たちも一緒に警戒態勢に入っているため、警備に関しては万全の体制である。
そこへ本来なら役目を部下に引き継ぎ、界樹の方へ戻っていなければならない第3将軍のカーディナルが降り立った。
背筋を伸ばしてリプレが礼をしようとすると、手をあげたガーディナルがそれを止める。
「いや、リプレ殿ももう一つの巣を預かる者だろう。態々頭など下げなくともいいと思うね」
「は、はあ」
そう言われたカーディナルには礼なしで接するが、他の将軍が来れば話は別だ。
そちらにはキチンとした態度で接するつもりである。
「どうかなさったのですか?」
「いや、少し例の集落の方を偵察してきた」
考え込んだ風のカーディナルは、リプレに難しい顔をして答える。
もしやその集落と言うものは、それなりに武力を備えていたのかと思ったのだが、続くカーディナルは言葉でリプレも考えを改めた。
「あのような者共が
「そうなのですか!? それは確かに許せないことですわね」
その話を聞いていたカーディナルの部下たちも同じように憤慨する。
彼女らが主と仰ぐ
そんな存在と似たような生物がそこら辺を
目にした瞬間「殺ってしまえ!」となるのも無理のないことであった。
憎たらしいが一部を捕虜にしてでも問いただしたいことがある。
即ち「この世界はお前らのような存在が満ち溢れているのか?」と。
「
「それは……、確かなのですか?」
「ああ、我らの判断に任せると言っておられた」
大元のニュアンスは違うはずだが、彼女ら信奉者にとっては都合のいい具合に解釈されているようだ。
かと言えどもリプレは部屋ができ次第、産卵の準備をしなければならないし、巣を放って動くわけにもいかない。
最低でも自分の兵隊蟻たちが定数準備できるまで待たねばならないだろう。
「何、心配するな。この議題は巣に戻り次第、将軍内の会議にかける。準備が整えば第1から第3軍の兵員を揃えて奴らを攻め滅ぼすのも容易だと思うがね。一応その際はリプレ殿の兵も加えられないか話はしてみる」
いつも「めんどくさい。サボりたい」とこぼしているカーディナルには似合わない拙速さである。
いくら個人の主義があろうとも、
「分かりました。こちらもなるべく早く防衛の準備を整えましょう。その旨よろしくお伝えください」
「ああ」
鷹揚に頷いたカーディナルは、周囲の部下たちに「分かっているな?」とでもいうように鋭い視線を向ける。
彼らはそれに呼応して頷いた。
こちらの準備が整う前にあちらが攻撃してきたとしてもきっちり巣を守り切り、やがて来る本隊のために奴らを残しておくという決意でもある。
カーディナルが巣に戻るために飛び立ったあと、しばらくして働き蟻たちが女王の部屋が完成したと告げてきた。
リプレは並々ならぬ決意を瞳に宿して拳を握る。
これから部屋に籠れば、ルオミオのように腹部が極大化して2度と人型形態になることもできない。
だがそこに悲観するような心づもりは一切なく、一刻も早く卵を産み育てて、
その者たちが
リプレは深々と頭を下げてカーディナルの部下や、界樹の巣から連れてきた兵隊蟻たちに防衛のことを頼むと、縦穴の縁に足をかけるのであった。
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