第17話 巣8
ユーリエの
例えば物を浮かせて運ぶ途中で、対象の上に持っていって落とすような使い方だ。
【加工/切断】
腕輪の法具(と呼ばれている。力を使うための媒体)を振って、1mの立方体を幾つも切り出していく。
場所は先日に山肌に穴を開けて鉱山として使っている所だ。
ここにはユーリエとカラの他、第一軍に所属する兵士6名と鉱山を管理するサフラン。それとユーリエが界樹の領域を出るなら、連れていって貰えると思っている騎虫のマーデである。
呼んだ覚えもないのに柵を破壊して飛び出してきたために、飼育係の部下たちが随分と慌てていた。
これも毎日のようにユーリエが連れ出していた影響だろう。
ブロックを10個20個と切り出していると、サフランがそれに手を触れながら何かを考え込んでいた。
一度設定してしまえば、範囲内の切り出しが終わるまでオートで進む。ユーリエは考え込んでいるサフランの肩を叩いて話しかけた。
「どうしたのサフラン。それ、何かに使えそう?」
「あ、はい。マスターの力は非常に興味深い。後でこれを幾つか貰っても?」
「構わないけど。何になったかは教えてね」
「わかった」
ブロックが100個になったところで切り出しが終わる。山肌はブロックゲームで削られたように、垂直に切り立った壁になっていた。
マーデが投げて欲しそうにウズウズしているのが見てとれるが「あとでね」と釘を差しておいた。とたんに頭部を項垂れさせて悲しそうな様子を見せるマーデの姿に、ユーリエは罪悪感に襲われた。
が、今はそんなことに構っている場合ではない。
ユーリエは兵士たちに命令(自分でやろうとしてカラに怒られた)して、ブロックを一辺2個ずつ8個を立方体になるように積み上げさせる。
兵士たちが1つを2人で運ぶところ、サフランは片手で1つずつ。兵士に混ざっていた蟻族の者などは、1人で4つも運んでいた。
【加工/圧縮】
今度はその固まりを圧縮して小さくする。10個作ったので、余り20はサフランへ譲渡された。
ユーリエは能力の力で掌にそれを浮かべ、振りかぶって岩壁に向かって思いっきり投げつけてみる。
メゴッという音がして圧縮塊は岩肌に半分ほどがめり込んだのち、ポロっと落ちてきて地面にも同じようにめり込んだ。。
「ふむ」
「ユーリエ様?」
「こういうのはやはり、力学とか化け学とか理解してないと検証もなにもあったもんじゃないわね」
つまるところ圧縮はしてみたが、それによって質量がどう変わったか、硬度がどう違うか、投げた速さとかが判明しないと検証にはならないわけだ。
自分にはその学がないと知っているユーリエは、検証方法を変えることにしてみた。
この正立方体となった岩石に敵を倒す殺傷力があるのかが分かればいいのだと。
さしあたってはと、どこからでも配下を呼び出すスキル【伝達】によってユフクレナを呼んでみる。
比較的近くにいたようで、ユフクレナは配下を数名引き連れて、ユーリエの前に降り立った。ユーリエは跪こうとしているユフクレナを「いいから」と一旦制して用件を伝えることにした。
「こちらの石を生物に投げつけてくればいいのですね?」
「うん、お願い。相手は何でもいいわ。当たったらどうなったかだけ報告して頂戴」
「よく分りませんが、了解です」
例に漏れずユフクレナもその岩石を難なく持ち上げるものだから、本当に圧縮した物体だったのかが疑わしくなる。
ユフクレナは両手に一つずつ、彼女の配下の中には腹に折りたたんであるもう一対の腕にまで使って、四つも抱えた者もいる。
「それでは行って参ります」
「うん、よろしくね」
頭を下げる会釈だけをして次々に飛び去って行くユフクレナたちを、バルラロッサは羨ましそうに見送っていた。その羨望に染まった瞳を見てユーリエは一考する。
(うーん。カーディナルに一任したけど、バルラロッサがここにいたらあっちの作戦は進まないんじゃないかなあ?)
人間の村をどうするかはカーディナルに任せてしまったため、今更ユーリエが出しゃばることはしない。相手がそれほどの数がいないという報告は受けているが、第三軍だけで戦闘に当たるとは思えない。
「バルラロッサ?」
「あ、はい! なんでしょうか
「ここはあなたの配下だけでいいわ。バルラロッサはカーディナルと合流しなさい。指示はあっちに預けてあるから、どうするかは二人で話し合ってね」
「へっ? あ、は、はいっ!」
一瞬拍子抜けのような表情を浮かべたバルラロッサだったが、手を胸に当てた礼をとると、背の甲殻を広げて羽根を引っ張り出し、ものすごい勢いで飛び出して行った。
それを見送りながら「おー、早い早い」などと眺めていると、首を傾げたサフランが「作戦があった?」と呟いた。
「作戦になるのかなあ。ちょっと
「……わかった」
抑揚のない声で頷くサフランだったが、その背後ではユーリエ様を敬わない口調にキレかけているカラがものすごい形相で彼女を睨んでいた。
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