第26話~ますこい いずだぁにぃあ うーと ぶぃーれた~ (海編 出発の朝)
「すぅー……」
深夜三時。
シャルロッテは自分の部屋のベッドですやすやと眠っていた。
『ファサッ』
彼女の掴んだタオルケットを捲り、誰かが場所を占領するように寝る。
――翌朝――
「んむぅ……」
私は朧気に目を覚ます。ぼやけた天井が見える。
私は左上に頭を動かして、ベッドの頭の棚にあるベットボードを見上げる。
だが、カーテンから覗く光で丁度目覚まし時計の針が見えない。
「なんじ……?」
右腕を動かして時計を取ろうとするが……
(腕が……何かに絡まって、動かない?)
右側に違和感を感じて振り向くと、兄が私の腕に絡み付いて眠っていた……
「え……?」
とりあえず絡み付いた兄の両腕から、私の右腕をするり引き抜く。
白いシャツと寝間着用の黒い短パン。
まだすやすやと眠っている。
「寝る部屋間違ったの……?しっかりしてよね……」
私は呆れながらも目覚まし時計を見ようとする。
時間は七時。起きなきゃいけない時間の30分前に起きれていた。
「あ、スマホスマホ」
早く起きたからには、昨日やりながら寝てしまったスマホゲームが気になる。
スマホはベッドの左側。目の前にあった。
そして目の前でベットの奥に落ちた……
(そんなことある……?)
「もう、続きやらな……きゃっ!?」
少し屈んで取ろうとしたら何かにお尻を抓まれる。
「痛いわよっ!」
足で兄を蹴りだしてその指を離そうとした。
そして兄はお尻の痛みと共にベッドの下へ落ちた。
「ちょっ!?やめっ!」
何とまだ指で服を掴んでいたらしい。
水色パジャマのズボンとピンク色のレースパンツが一気にずり下ろされる。
「きゃっ……!やめてったら!起きてるんでしょ!?」
丸出しのお尻を左手で必死で隠し、ズボンとパンツを右手で上げようとする。
勿論ベッドから転がり落ちた人は、手を伸ばしてまでもがっちりと掴んでいるため叶わない。
それどころか……
「ひゃっ……!ちょっと!ほんとにやめてったら!」
兄は寝返りをしたいのか物凄い力でズボンとパンツを引っ張り始める。
「ちょっと……力、強すぎ……!絶対起きてるでしょ……!ふにゃっ!?」
そのまま膝まで掬われ、下の服を全て脱がされてひっぺ返されている。
(スマホどころじゃないわ……!)
パジャマの上着で下半身を何とか隠して近付くと、おもいっきり服を引っ張る。
「えいっ!あ、あれ?ちょっ……!」
兄は満足したのか、それを既に手放していた。
『ゴンッ』
背中と頭を壁に打ち付ける。
「いたた……」
勢いで取り返した服を手放してしまい。
パジャマのズボンは放り投げられ、パンツは私の下腹部に落っこちてくる。
「はぁ……」
大きなため息を吐くと……
「あれ、もしかして……夜這い?」
兄の声がして自分のあられもない姿に気付く。そして開いていた足を閉じて手で下腹部を隠した。
(今起きたの!?絶対嘘よね!)
「夜這いなら……仕方無いよね」
ニヤリと兄は笑いながら近寄ってくる。
(こ、怖い……!助けて……!)
ぎゅっと目を瞑り、腕で顔を隠して身を守ろうとする。
「はい」
パジャマのズボンを差し出された。
あまりに兄らしくなく、素直にズボンを返してきたのだ。
「え?」
私は戸惑ってしまい、すっとんきょうな声を上げてしまい。
(さ、流石にね……最近そんな事全くなかったし)
いきなりで記憶が混濁していたのか、兄が普通の兄に戻った事を思い出した。
「いらなかった?あれ、もしかして……襲われたかったのかな?」
ニコニコしている兄のズボンを持つ手は震えている。
(ふん、強がっちゃって)
「どうも。でも、お兄ちゃんが脱がしたんだからね」
仕返しに、少し意地悪な言葉遣いをする。
(妹言葉でいじめられた分いじめ返してやる……!)
「ふふふ、それは有り得ないな。僕には文乃がいる。それに……もうシャルにそんなことをするはずがないからね」
兄はやれやれと呆れた素振りでそう答えてくる。
(コイツ……!イラつくイラつく!)
「それに……シャルは受け身の文乃の可愛さを知らないから」
(なっ!?お兄ちゃんまさか……)
兄のその言葉は文乃を攻めたということになる。あの文乃の誘惑に負けないあの兄が……
「み、見たことあるわよ!随分泣きそうな顔して……たわ」
私はぎゅっとズボンでお腹を隠しながらそう答える。
そして……この前文乃を押し倒した事を思い出す。
(浩平君もお姉ちゃんにこんなことされてないかな……)
実は私があそこのバイトを始めてから、浩平君もよく遊びに来る。
実は案外近場に引っ越してきているらしい。
「泣きそうな顔?文乃を泣かせたの?」
兄は急に不機嫌そうな表情になる。
「あ」
(やっべっ……)
私は声を漏らしてしまうが、兄は黙っている。
「と、とりあえず……一からちゃんと話すから後ろ向いててくれる?」
私は下半身を露出したまま話したくないので、兄にそうお願いする。
「なんでよ。ここ僕の……」
兄は不機嫌なまま周囲を見渡すと、絶句する。
「私の部屋です……!」
私は少し強めにそう答えた。
「で、喧嘩でもしたの?」
私が衣服の乱れを直したのを音で察したのか、兄はそう問いながら振り向いてきた。
(コイツ……!)
「もう傷付けないって言ったら、初めては私が貰うからって言われたわ」
私は端的過ぎる回答をした。
「な、なにそれ?」
勿論兄も理解できていない。
「そ、その……文乃が本当に私を好きなのか、親友として知りたかったのよ……」
私は恥ずかしながらも大まかな出来事を話す。
「あーーー、なるほどね。って遅くない?文乃はもう初めてじゃ……あっ」
兄は納得した素振りで舐めた口を聞いてくる。そして途中で自分の口を塞ぐ。
(ん?初めて……?ってまさか!?)
「お、お兄ちゃん……?」
「あ、あはは……」
疑問を抱いてそれを聞き返すと、兄は苦笑いしている。
(やけに調子良いと思ったら……!)
「勿論、付けたよね?」
私は当然の事を笑顔で聞く。
このダメ兄は、ちょっと前のお風呂場で襲われそうになった事件で付けなかった事例がある。
「あ、はい。付けました。文乃にいくら文句言われようと押し通して押し倒しました」
兄は正座してしっかりと答える。軽い冗談を添えて。
「ふーん。ならいいんじゃない?」
正直私にとっては二人がラブラブである方が好都合だ。私に降りかかるラッキースケベのラッキーすら起きないんだから。
「え?いいの?てっきり怒るかと。じゃあシャ……何でもないや」
兄はすっとんきょうな声を上げて驚いている。
「何でそこで私の名前が出るのよ……」
どうせろくな事をしないのは分かってる。部屋の鍵はしっかり閉めておこう。
「シャ、シャーペンの芯切れてるんだったー。ほ、ほら!シャルも落ちたスマホ忘れないようにね?」
そのまま部屋を去ろうとする兄の腕をがっしり掴む。
「ベッドの下は同人誌の詰まった段ボールで見えないはずだけど、どうしてスマホ落ちた事分かったの?」
肝心なところを聞く。
兄は時々抜け目があるのでそこをつつくと、勝利は確定だ。
「お、音とか…?」
兄は目を逸らしながら答える。
「覚えておいてね?」
今は威圧しといて、スマホゲームのイベントをやることにした。
――そして朝食――
裏側の焦げたベーコンエッグをトーストされたパンに乗せてかじる。
「あむ……?」
(お母さん焦がしてる……触れないでおこう)
そして、私は兄のだけ焦げてないのがちらりと見えてしまった。
「ふふ、お泊まり楽しみね~」
お母さんも席に座ってご飯を食べると、兄を微笑みながらからかう。
(うわっ……からかわれてやんの)
お父さんも新聞を置いて、ご飯を食べ始める。
「シャルロッテ、くれぐれも気を付けるんだぞ」
私に注意……ではなく、私に二人への注意喚起をするようにと遠回しで言われる。
「うん。それに午前中は電車で行ってご飯食べるだけだから大丈夫」
私も食べる手を止めてしっかりと答える。
今日は8月18日。
少し前から家族の予定として、二泊三日で海に出かける予定だったのだが……
お父さんは部下のトラブルの穴埋めの為一緒には行けず、午後から来るそうだ。
そして皆も呼んでいいよということで、恵美ちゃん以外の家族も一緒に来るそうだ。
当初はお父さんの車で行こうという話だったが、そういうことなら電車にしようかという話になった。
「はぁ……」
お父さんは突如頭を抱える……
「どうしたのあなた?」
天然のお母さんは、お父さんがどうして溜め息を吐くのか不思議そうに心配する。
「やっぱりアイザックと文乃ちゃんの部屋を別で取るなんて……うぅ……」
お父さんはやっぱり責任について、不安を感じる点があるらしい……
兄と文乃の説得により、自分の部屋の宿代は自分で出すという条件でそうなった。
「ぼ、僕を信じてよぉ父さん……」
兄は笑顔で心配させまいとするが……
「いいじゃない。けど、何か起こしたらザックの方が悪くなっちゃうんだからね~」
お母さんもそこの部分は注意を促す。兄の頬っぺたをつつきながら……
私はお父さんの方を向く。
『サッ』
視線に気付いたのか新聞で顔を隠す。
「私、寝るときだけ皆の部屋に行こうかなぁ~」
お父さんに少し可愛い意地悪を言ってみる。
新聞をゼロ距離まで近付けている。
「シャ、シャルちゃん……?」
朝からそんな話の内容でお母さんも困っている。
「冗談だよ~。皆家族旅行だからね」
お気遣いも良いが、別にそんな必要もないこと位知っている。
「あ、恵美ちゃ……幸村さんはどうするの?」
兄が恵美ちゃんのことを心配している。
(ふっ……)
「ザ、ザックちゃん?」
お母さんも少し心配している。
「大丈夫だよ。バイト代で自分の部屋取れたみたいだから、皆でお邪魔する」
私は余計な一言まで追加説明する。
お父さんとお母さんは同時に兄を凝視する。
「あ、あはは……だ、大丈夫だから。そんな怖い目で見ないで……ください」
兄は凄く焦った様子で困っている。
「くすっ……」
私は兄のそんな姿を見て、セクハラのバチが当たったんだとくすりと笑った。
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