第4話~くりぃぇぷ~(クレープ)

 午前中は学校案内、午後は授業予定や書類配布等のホームルーム授業だった。

 それも終わって最後のホームルームをした後、少し早い放課後になった。

「くふぁ~」

 後ろから夏々さんの体を伸ばす声が聞こえた。


「わっ!」

 今度は彼女が誰かを驚かす声が聞こえた。

 後ろを振り返ると……やっぱり恵美さんを驚かしていたみたい。

「っ!?……何よ」

「一瞬驚いたでしょ?」


「…………」

「ご、ごめんって……」

(このやり取り……あぁ頭が痛い……)


「シャルちゃん……?大丈夫?」

「あ、大丈夫大丈夫。考え事してただけ」

 私の頭を抱える様子を見た春佳さんが心配してくれる。

 兄とは真逆の天使だぁ……

(こんなお姉ちゃんが欲しかったよ~)


「?」

 春佳さんはきょとんとしているが、ふと何かを思い出したかの表情をした。

「そうだ。今日はクレープ屋さんに行かない?」

「あー、駅前の新しくできた所?」

「うん、そうだよ~」


 そういえば駅前にそんなチェーン店が出来てたっけ……

「あたしも行く行くー!」

 後ろで夏々さんも元気に手を上げていた。


「めぐみんは大丈夫?」

「うん、今日は大丈夫よ」

 夏々さんはしっかり恵美さんにも確認を取っていた。


「なら四人で行けるね」

 私は二人の様子を聞いてそう言った。

(まだ帰らなくて良いとか最高だぁ……)


 その後は四人でクレープ屋さんへと向かった。

「あ、あそこだね~」

「ほんとだ!良い匂いする~」

 春佳さんが店を指差すと夏々さんが甘い匂いに鼻をピクピクさせている。


 確かにクレープ屋さんからは甘いスイーツの香りが漂う。

 ろ甘いものが大好きな私にとっては幸せでしかない。


「どれにしよっかなぁ」

 恵美さんもスイーツを目の前にして

 店の看板や模型のショーケースを見ると、色んな種類のクレープが並んでる。

(イチゴにバナナにチョコに抹茶。どれにしよう……)


 レジは数人混んでいた。

(三時前でも混んでる。人気なのかなぁ……)

 私はそういうアウトドア系の詳しい情報は皆無だった。


 私はサクッとチョコバナナに決めて無言でレジに並ぼうとした。

「あの子を待ってさしあげて……!シャルちゃん!」

 夏々さんに肩を両手で支えられて、春佳さんの方へ向かせてくれる。


(し、しまった!いつもの一人買い物の癖が……)

「ご、ごめん……」

「問題ない!けどはるちゃんの様子が……!」

 素で謝ると、夏々さんは大袈裟に春佳さんの事を気にしている。


 私もそっちを顔を向けると……春佳さんは屈んでショーケースのクレープとにらめっこしていた。

「にらめっこしてる……」


「違うよ……!あれは語り合って――いだぁーい、つねるなぁ~」

「茶化さないの」

 夏々さんがふざけだすと、恵美さんが彼女の頬をつねった。


「あの目はガチよ……!」

「恵美さんまで……ただ悩んでるだけだと思うよ」

 恵美さんまでふざけているので、私は普通にマジレス……もとい弁解した。


「よし!」

 確かに決断の声はいつもの伸びた声よりも覇気がある。多少だけど。

「何にした?」

 然り気無く聞いてみる。

「宇治金時こしあんバージョンクレープ!」

 な、なんか通っぽい。


 私達は列に並びそれぞれクレープを頼んで、備え付けのテーブルに座った。

 ちなみに私はチョコイチゴクレープを選んだ。

「美味しそう~~」

 春佳さんはもう待ちきれない様子だ。


「待って!記念に写真取ろ!えーっと自動撮影、自動撮影はどこだ……」

 夏々さんがスマートフォンを取り出して自動撮影の設定をしている。


「ぶー」

 春佳さんは頬を膨らませている。

「まぁまぁ記念には良いじゃん」

 私もそういう思い出を残しておきたい。だから彼女を説得する。


「夏々?」

 恵美さんが鋭い口調で夏々さんの名前を呼ぶ。

「そ、そんな!ネットとかに上げたりはしないよ!といっても三人にはメッセージで送らなきゃだけど……」


 確かに橙色の髪色ならギャルにも見えなくもない。でもそんな心配はいらなそうかな。

(流石恵美さん。一声で伝わるなんて飼い慣らしてらっしゃる……!)


 夏々さんはバッグでスマホを横に立て掛けた。

「じゃあ撮るよー!ほら、寄って寄って!」

「う、うん」

「はいはい」

「わかった~」


『パシャ』

 無言のまま、それぞれがピースサインを取る

(少し恥ずかしいけど、これが友達との記念写真……!無縁かと思ってたけど案外楽しいかも)



「ん~~~~!」

 春佳さんは目を細めながら、宇治金時こしあんバージョンクレープをゆっくりと味わっている。

 そんな中、私はパフェを食べながら夏々さんと恵美さんに質問をする。

「二人はいつも一緒にいるの?」


「ん?なんで?」

 恵美さんは疑問そうに小首をかしげる。

「見ててすんごい息ぴったりだからさ」

「そ、そう?」

 何故か彼女は若干動揺していた。


「だってめぐみんはあたしがいないとゲー……っ!?」

 口に生クリームをつけた夏々さんが何か秘密を話そうとしていた。

 その時、恵美さんが彼女の口のクリームごと手で封じた。

「クリームついとーばいっ……!」

「んむぅぅ!」


 恵美さんは秘密をバラされたくなかったのか、少し顔色が怖く見える。

(ゲー……?その言葉から繋がるのはもうアレしかないのでは?というかまた方言漏れてる……かわいい)

 途端、彼女の趣味に少し親近感を覚えた。


「あっ、そういえば趣味とかあまり話してなかったね」

「そっ、そそそういえばそうね……?」

 恵美さんの声が若干上ずった。

(こ、この反応は……!)


『ぺろっ』

 夏々さんが小さく何かを呟いた。

「ひゃっ!ちょっとあんたさっきから舐めてない……?」

「あってふあこうよくあし~」

 夏々さんは口を塞がれながら、不可抗力だと笑顔で喋っている。

(話逸れちゃったけど微笑ましいなぁ……)


「私は甘いものさがしだよぉ~~」

 春佳さんはそこそこ量のある宇治金時以下略クレープをもう食べ終わっていた。

(甘い物を食べる速度は早いんだね……)


「スイーツ全般好きそうだもんね」

「シャルちゃんは?」

 春佳さんに逆に質問されてしまった。

(あっ、また自分に不利な話題チョイス……)


「え、えーっと……に、肉?」

「にく?」

(いやいやそれは好きな食べ物でっ……!)


「同士よっ!見よ!」

 夏々さんの方へ向くと……彼女は恵美さんの左の二の腕を掴んで見せ付けていた。

「そ、そうそう、ぷにぷにがっ……ってえぇっ!?」


「ちょっと……恥ずかしいってば!」

 恵美さんは右手でチョバナナクレープを押さえながら恥ずかしがっている。

「ちょ、ちょっとめぐみん!?暴れちゃまずいって!」

「ふ、ふたりともあぶないよぉ~?」

 夏々さんがバランスを崩しそうになっているのを、春佳さんが心配している。


 私はただ、呆けながらその様子を見ていた。

 でも夏々さんの持つクレープが少し危なくなっているのは確かだ。

(そろそろまずいかな……)


「ん、夏々さん?分かったからもう手を離しても……っ!?」

 彼女は既にもう手を離していたが、恵美さんが恥ずかしがって彼女の腕を掴んでいた。

 次の瞬間……

『ぶぴゅっ!びちゃ……!』

 夏々さんのクレープの生クリームが周囲に巻き散っていた。


 二人は勿論、近付こうとした私と春佳さんにまで、顔や頭や服にベトベトした白いクリームが飛び散っていた。


「うわぁベトベトぉ」

 夏々さんはクレープをテーブルに置くと、顔のあちこちの生クリームを取って口に放り込んだ。

(な、なんか得した気分?)


「クリームの雨だぁ~~」

 春佳さんはそれでも幸せそうだ。

「夏々っ!」

「ごめんね?ふ、拭く物取ってくるからぁーー!」


 見た目ギャルっぽい夏々さんは白いクリームをつけたまま走っていった。

「逃げたね」

「はぁ……」

 私達は白いクリームまみれのまま、彼女を待った。

(なんならこれで記念写真……いやいや何のエロゲーよ……)


 その後、夏々さんは店員さんから濡れタオルを貰ってきてくれた。

 一通りシミを取った後。


「そういえばシャルちゃんの趣味って何だったの?」

 恵美さんが話しかけてきた。

(夏々さんも春佳さんに付きっ切りだし、これはチャンス!)


「えっとぉ、かわいいぬいぐるみ集めと……ゲ、ゲームとか?」

「ほ、ほんと!?私もゲーム好きだし今度やりましょ!」

「うん!」

(やっだぁぁぁ!共通の趣味あったぁぁ!)


「あっ!ならこれからゲーセン行きましょ!」

 春佳さんを拭き終わった夏々さんが提案してくる。


「それよりななぁ……!」

 それでも恵美さんの気はごまかせなかったようだ……

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