第2話~しみーにぃ れすとらん~(ファミリーレストラン)

 四人は人気ファミレス店ハイデリアに到着し、ソファ型のテーブル席に座ってメニューを見ていた。


『わぁ~美味しそう~!』

 正面右手の席、その通り側に座るシャルロッテ・ドレミンと、窓際の壁に座る春佳はるか瑠璃るり

 二人はメニューを見るなり、目を輝かせて感激の声を漏らす。


 反対側の席の通り側に座る幸村ゆきむら恵美めぐみは、そんな可愛らしい二人を見ると微笑んでいた。

「いたっ!なんでつねるのよ……!」

「今絶対だらしない顔してた」

 その隣、窓際席に座る美愛莉みあり夏々ななは、そんな彼女を軽く凝視しながら頬をつねった。

「そっ、そんなことないわよ~?ほらメニューもう一個あるから、私達も選ぼ選ぼ」



「どれにしようかなぁ~」

(外食久しぶりだなぁ……)

 シャルロッテは去年の誕生日に家族と外食した時を思い出していた。

 最近は親が二人とも仕事で忙しい。だから自分でご飯を作ったり、お母さんが用意をしといてくれる事が多い。


(そうだ今日は……!まあいっか。あの変態兄さんなら勝手に何か買ってきて食べるでしょ)

「私は決まったよ~」

 春佳さんはもう決まったみたいだ。

(私もすぐ決めなきゃ!)

 肉のメニュー欄のチーズハンバーグに目が止まる……

(流石に子供っぽいかなぁ。でも……)


 シャルロッテは食べれる量については大して気にしない。彼女は小柄ですらっとした体型だが量はそこそこ食べる。

 夏々さんが私の方を見て聞いてきた。

「シャルちゃんも決まった?」

「うん!決まったよ」


 私がそう答えると、夏々さんは迷いなく窓際の呼び出しボタンを押す。

 恵美さんの方を見ると全く気にしていない様子だった。

(心が通じ合っている!?良いなぁ。親友って憧れるなぁ)



 そして店員さんにそれぞれ四人はオーダーを伝えた。

 結局私はチーズハンバーグと定食セットとサラダとドリンクバーにした。

 夏々さん以外の二人はドリンクバーと単品のみと少食だった。


「ってシャルちゃん……!さっきも聞いたけどあんなに食べられるの?」

 恵美さんに少しどころかかなり心配されていた。

「うん!大丈夫だよ」


「メニューを見た時から同士だとあたしは思っていたね!」

 夏々さんはえっへんと言わんばかりに胸を張りながら口を挟んだ。


「あんたには聞いてない」

「ちょぉ~つねるなぁ~あくまだぁ~」

 恵美さんは胸を張る夏々さんの頬をつねっている。


「ねぇねぇ、二人はいつから知り合いなの?」

 不意に春佳さんが仲良さそうな二人に質問をした。

「あ、それ私も気になってた」


「え?あぁ中学の時からなのよ」

 恵美さんは頬から手を離して軽く説明してくれた。

「いてて……そうよ!あたしの武勇伝よ!」

 またもや夏々さんは胸を張って付け加える。だけどあまり聞かない言葉だった。

「ぶゆー、でん?」


「あっ、武勇伝はその人が活躍した出来事って意味なの」

 春佳さんは私を気遣ってくれたのか、優しく説明してくれた。

「あ、ありがとう。聞いたことはあってもまだあんまり詳しくなくて……」

(言えない……!サブカルチャーに知識が偏ってるからだなんて、絶対に言えない!)


「ほらほら、ドリンク取りに行きましょ」

 恵美さんはそう言って通り側の席から立ち上がった。

「つれてっで~~」

 夏々さんは立ち上がった恵美さんの足、もとい黒いスパッツに掴まっている。


「ちょっ!やめなさいってば……!」

 夏々さんは調子に乗って黒いスパッツをスリスリしていた。

 そして彼女の頭にチョップが炸裂した。

「いだぁーい……」

 少し涙目でなんか可哀想……


 そんなこんなでドリンクを取ってきて談笑していたら、頼んだ料理が続々と届いた。

「うまそう~~」

 夏々さんも目を輝かせている。

 そして皆それぞれのペースでいただきますと言って食べ始める。


 私もパクパクとチーズハンバーグ定食を食べ始める。

(あれ?なんか視線が……恵美さん?)

 時々恵美さんと目が合う。


(もしかして食べたいのかな……?)

「こ、こうかんこ……する?」

「え、えーっと。そ、そうじゃなくてね。えーっと……し、幸せそうだなって……」


 彼女は目を何度も逸らしたりと凄い動揺していた。

(疑問系はまずかったかな……私がもっと気を利かせられれば!)


「ほほーん」

「なるほどー」

 夏々さんと春佳さんは微笑みながら頷いている。


「?」

 私は意味が分からずに惚ける。だけど恵美さんは頬を膨らませながら二人を凝視する。

「二人して何よっ……!」


「シャルちゃん、恵美さんはスープとドリアだからスプーンでしょ?だからフォークを……」

 春佳さんの助言でようやく分かった。最後らへんはあまり聞いてなかったけど、やっぱり食べさせてほしいって事なんだよね……!


「いやはるちゃんそれちがっ」

 夏々さんの否定する声など聞こえず私は行動した。

「なるほどね!じゃあはい、あーん」


「!!」

「シャルちゃん!?」

 何故か二人は驚いてる。

(あれ?これはまずった……?)


「あむっ」

 そんな二人を見ていると、その沈黙の空気を破るように恵美さんは食べてくれた。

「どう?美味しい?」

「はふっ!しゃ、しゃいこ……ごくんっ。あ、ありがとね……」


「うん!」

 恵美さんはとても幸せそうだった。

 だけど食べ終わると人差し指を立てて何かを話そうとする。

「でも初対面なのにここまでしてくれるのはびっくりしたよ……」

(やっば……!ちょっと距離近すぎたかな……?)


「でも夏々さん的にはありだね!きっと楽しいし!」

「シャルちゃんすごい~よしよし~」

 なんか夏々さんにはグッジョブされて、春佳さんには頭を撫でられている。


「でも誰にでもしてる……って訳じゃないよね?」

 恵美さんに質問される。

(そんな事する相手がいなかったなんて言えない……!)


「そ、その私……こんな感じだし友達とか少なかったから……」

 気付けば自分の銀色の髪を触っていた。そして本心が漏れていた。

(やばっ)


「そうだったの!?」

 夏々さんが目をまんまるにして驚いている。

「な、なんか辛いこと聞いちゃったね……ごめんね……?」

 恵美さんは凄い気遣ってくれてる……

(めんどくさい奴って絶対思われたよぉ~)


「よしよし~」

 春佳さんは変わらず私の頭を優しく撫でる。

(髪型崩れないようにしてくれてる。優しいなぁ……でもちょっと恥ずかしい)


「そういえば皆は兄弟とかっているの?」

 勇気を振り絞ってなんとか話題を変えた。

「私は一人っ子よ!」

「そうだったわね。私もよ」

 夏々さんに続いて恵美さんも答えてくれた。


「私は一つ下の妹がいるかな~」

 春佳さんはのんびりした口調でそう答える。

「じゃあ来年入学だね」

「似てるのかなぁ。気になる!」

 恵美さんがそう話すと、夏々さんも目をキラキラさせていた。


「どんな感じの子なの?」

 私も気になって聞いてみた。

「え~全然似てないよ~。凄いしっかりしてるの」

(やっぱり兄弟って反面教師説あるかも……!)


「今度会ってみたいかも!」

「ふふ、今度遊びにおいで~」

 夏々さんの言葉に春佳さんもノリノリのようだ。


 そして今更だけど振った話題が、自分に少し不利だと気付いた。

「シャルちゃんは?」

「あ!それは気になるかも!」

 春佳さんと夏々さんに聞かれて少し慌てる。


「こら。いっぺんに聞かないの」

 飲み物を飲んでいた恵美さんが、立ち上がりそうになっている夏々さんを注意した。

「でもめぐみんも気になるくせに~」

 夏々さんは少し口を尖らせながら恵美さんをつっつく。


「そ、それはそうだけど……」

(やっぱりさっきの事で気遣ってくれてる……!申し訳ない……)

「あ、兄がいるの……」


「シャルちゃんのお兄さんって……絶対イケメンじゃん!」

「これ!」

 興奮している夏々さんを恵美さんが左手で制止する。

「はぁーい」


「どんな人なの?」

 春佳さんに兄がどんな人か聞かれた。

(告白を振る程シスコンな人だなんて……絶対に言えない!)

「え、えーっと優しい人だよ」


「優しいお兄さん良いなぁ~。私の妹なんていつも手厳しいのに~」

 春佳さんが羨ましがっているけど、逆にそっちが羨ましいなぁ。

「そ、そうかなぁ。でもしっかりしてる人なら色々と手伝ってくれそうじゃない?」


「読めた!」

「やめなさい……」

 夏々さんが私を指差して何かを見抜いたようだ。恵美さんがその腕を何度も下ろさせる。

(め、恵美さんも大変そうだなぁ……)


「シャルちゃんの苦笑い……!何か兄について悩んでいるんだね?」

「ふにゃっ!ケホッケホッ」

 飲んだ飲み物が変な所に入ってせた。


「大丈夫!?だから言ったのに……」

「よしよし……」

「ご、ごめんね?大丈夫?」

 二人が慌てる中、春佳さんが背中を擦ってくれた。


「だ、大丈夫大丈夫。変なところに入っただけだから……」

 手を振って大丈夫だと伝えると、恵美さんがまた気遣ってくれた。

「悩みがあるならいつでも話してね?」


「あ、うん。ありがとね。別に大したことじゃないから……」

「ちょっとケンカ中とか?」

「ううん、そこまでの事じゃないよ」

「そ、そっか」


 恵美さんに聞かれるがそこまで大変な事……じゃないと願って少し思い返す。

(いやこれだけは絶対に言えません。バイトで貯めたお金で、私の写真を元に等身大抱き枕作ってたなんて……)

 朝はそんな兄を起こそうとしたけど怖くなってやめた。


「ちょ、ちょっと、恥ずかったりとか?」

 恵美さんは察してくれたのか躊躇いがちに聞いてくる。

「そ、そんな感じだね……!」


 その後は好きな事や趣味などについて色々と話した。

 一時間程したら恵美さんが用事があって帰ると言うので、メッセージアプリとか電話番号とかを皆で交換して解散という事になった。


 あまり初対面でやるのは良くないとは分かってたけど、色々悩みなどを打ち明けたらそんな空気になってしまった。



「か、帰るのやだなぁー……」

 兄が待っているであろう家に帰る。

 共働きのお母さんとお父さんの分もご飯作らなきゃと思い、スーパーに足りない食材だけ買いに行く事にした。

(時間稼ぎ時間稼ぎ……)

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