第18話~いっすれーどばにぃあ~(勉強)

「うぅん……」

(何この状況……)

 あれから数日後、夏休みも始まったことだし勉強会をすることになった。

 また私の家で……

 最近ここばっかりであまり遊びに行けてない。


 そして、いつもの文乃からの流れで皆じゃれ始めて……寝てしまっている。

 私の膝の上で、夏々ちゃんと文乃が仲良く頭を乗っけて寝ている。


「あ、あの……」

 動こうにも動けない。文乃はともかく、夏々ちゃんまで起こしてしまいそうで……


「うぅ……」

 それに……トイレへ行きたい。

 でも勉強しに来たんだし、起こしても平気な気がする。


「よいしょ……」

 ゆっくり私の膝をビーズクッションにすり替えると、足を掴まれる……


 文乃が太ももに頬擦りをしてくる。

「やめっ……」

 髪がチクチクして凄くくすぐったい。

 体が震え、尿意が強くなる。


「はぁはぁ……よし」

 なんとか抜け出してトイレへ向かう。


「はぁぁ~~」

 便座に座ると大きな息をつく。あまりに急ぎすぎて、私は鍵をかけるのを忘れていた。


『ガチャ』

「へっ……?」

「うむぅ?」

 扉を開けたのは……目をごしごしとこする恵美ちゃんだった。


 そして彼女は寝惚けたまま、ジーパンとパンツを下ろして私の膝に座る。

 大きくてぷりぷりのお尻が私の太ももに重なる。

「ちょ、ちょっとぉ!?まってまって!!」


「ふぇ?――シャルちゃん!?な、なななしてぇ……?」

 彼女は急いで立ち上がり、ジーパンを穿く。

 危なかった……もし気付かれなかったらそのまま……


「め、恵美ちゃん……?」

 私は引きつった笑いを浮かべる。

「ご、ごごめんなしゃい……!」

 顔を真っ赤にした彼女はドアを閉める。


 でもまだ寝惚けてたからか、彼女はこちら側に来てしまう。

「あっ、こっちやなかぁぁ……」

 再びドアを開けて、トイレから出ていく。

(ドジなのも博多弁もかわいいけど……危なかったぁ……)


 早々に済ませてトイレから出ると恵美ちゃんが待っていた。

「ご、ごめんね……?」

 彼女は申し訳なさそうに謝ってくれる。


「だ、大丈夫大丈夫。私も急いでて鍵かけてなかったしごめん……」

 私も両手を振りながら謝る。

「そ、そっか。今度から気を付けるね?」

「うん」

 そう答えると彼女はトイレに入っていった。


 時間はお昼時。

「昼御飯どうしようかなぁ……」

 私はリビングに戻ると、眠る三人の顔を見る。

(かわいい。いたずらし……やめとこ)


 目を逸らしてベランダの植木鉢を見る。

 ヒマワリの花は今日も元気に咲いている。

 コスモスも順調にすくすくと育ち、茎もしっかりしてきた。


(瑠璃ちゃんのもちゃんと咲いてくれると良いなぁ……)

「ちゃんと咲きますように……」

 窓の近くに行って独り言を呟く。


「シャルルぅ~」

 文乃の呻く声が聞こえて、背後から抱き締められる。

「なによ……」

 彼女かと思って振り返ると……瑠璃ちゃんだった。


「あ、あれ……?」

 途端に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。

「えへへ、シャルちゃんは優しいんだね~」

 そのまま頭をよしよしと撫でられる。


「そ、そそそょんなつみょりじゃ……!」

「ぎゅう~~」

 強く抱き締められると、私の背中を彼女の胸が圧迫する。


「ちょ、ちょっと……!二人が起きちゃうってばぁ」

 軽く抵抗すると離してくれる。ここは文乃と全く違う。


 離れた彼女はすやすやと眠る二人を見ている。

「ほんとによく寝てるね~~」

「早く宿題終わらせちゃえば遊びに行けるのに……」

 私は少し不満げに呟く。


「ま、まあまあ……それぞれのペースでね?」

 トイレから戻ってきた恵美ちゃんが苦笑しながらなだめてくれる。


 元々、面倒臭い事を早く終わらせる癖は兄から教わった。

 今朝宿題の事を聞いてみたら、もうあと少しで終わるらしい……

 流石成績優秀なだけある。


「ね、ねぇ?気分転換にどこか……」

「め、恵美ちゃん?せめて今日は頑張ろ?」

 彼女は凄く逃げたそうにしている。


「そ、そうだ……何か買い物とかあったら」

「お兄ちゃんがさっき行っちゃったよ……」

 もう終わってしまったのだろう……


「お、お料理とか……」

「私もやる~~」

 瑠璃ちゃんのも手伝いたいと手を上げる。

「確かにお腹空いたもんね……じゃあ食べたらちゃんとやろ?」

「もちろ~ん」

 彼女はしっかりやるタイプらしい。


「そ、そうね……?」

 恵美ちゃんはまだ嫌そうにしている。

「教えてあげるから……」

「う、うん……」



 私達は三人で昼御飯のラーメンを作っていた。途中で兄も帰ってきて、足りない具材を買ってきてくれた。

 だけど……寝ると言ってリビングで寝てしまった。

(やっぱり徹夜してたのね……)


「恵美ちゃん、どんぶりの器取ってもらえる?」

「はーい」

 もうラーメンが出来上がりそうな時、二人がむくりと起き上がる。


「うむぅ……?」

「シャルルぅ……」

 起き上がった夏々ちゃんに文乃が襲いかかっている。


「起きたね~」

 瑠璃ちゃんの言葉で、リビングに目を向けると……

「ちゅっちゅ……はむっ、れろれろ」


 文乃が夏々ちゃんの顔に覆い被さって、何かを舐めるような音が聞こえる。

「う、うわ……起き上がって早々に……」

「むぅ……ぬっ!?」


 驚いた夏々ちゃんは、ドタバタと凄い速さでリビングから逃げてくる。

 そして台所の恵美ちゃんの足元にすがり付く。

「ちょ、危ないってば……!瑠璃ちゃん、お皿お願いできる?」


「は~~い」

 微笑ましくそれを見つめる瑠璃ちゃん。

 けど彼女の足元には、もう一人が近付いていた。


「シャルルぅ~~」

 寝惚けた文乃が瑠璃ちゃんに抱き着く。

「ひゃっ……!?ふ、ふみちゃん……!そ、そこはだめだよぉ……」

 瑠璃ちゃんの体のあちこちをいじくっている……


 その間に私がラーメンをよそい終わってしまう。

「あ、あはは……」

 その様子に、恵美ちゃんも苦笑いを浮かべている。


「こ、怖いぃ……」

 夏々ちゃんはぶるぶると震えて怯えている。

(わ、私も前にこんなことあったっけ……)


「これ」

 文乃のおでこに軽いチョップをお見舞いする。

「うぐっ……あ、あれ?私は何を……?」

 とぼけ方が下手なのか棒読みだ。



 昼御飯も食べ終わり、夏休みの宿題を再開する。

 黙々と手を進めるが……恵美ちゃんと夏々ちゃんはうつらうつらと船をこぐ。


 そして……文乃は私の膝を枕に寝ようとする。

 彼女からこっそり奪ったピンクの遠隔スイッチをオンにする。


「ふみゃっ……!?」

 彼女が跳ね起きると同時に二人もシャキッと目を覚ます。


「あ、あれ……ない」

「何が無いの?」

 彼女を軽く威圧して、スイッチをちらつかせる。

「い、いえ……何でも。そ、その……止めて?」


 スイッチをオフにする。

「次やったら止めないから」

「は、はい……」

 私は立ち上がり、二人の元へ行く。

 ビクッと怯えられる。


「そ、そんな怯えないでよ……分かんないとことかあった?」

「えーっとこことかこことかこことか……」

 恵美ちゃんの宿題プリントには空白の箇所がいくつもあった。


「わ、わかったから……一個ずつ教えるから」

「めぐみんは成績微妙だもんなー」

 と言う夏々ちゃんも全部解けているようには見えない……


「じゃあ夏々ちゃんは大丈夫なんだね?」

「いや、お願いします」

 即答だった。面白い。


 文乃はまた横になろうとする。私はすかさずスイッチを握る。

「ふみゃうっ……!」


 瑠璃ちゃんは周りに流される事なく集中している。

(璃晦ちゃんは……)

 彼女の妹の事を聞こうと思ったけどやっぱりやめておいた。


「凄い集中力……えい、つんつん」

 夏々ちゃんが彼女の頬をつつく。

「ならば……!むにゅむにゅ」

 今度は後ろから胸を揉んでいる。

 それでもほぼ無反応に等しい。


「す、凄い……」

 彼女に感心していると……

「はぅぅ……!だ、だだめっ、やだやだでちゃうぅ……」

 文乃が根を上げている。床を汚しそうなのでスイッチを止めた。


「は、はわぁぁ……ちょ、ちょっとトイレ……」

「勉強するのに最初から変なもの付けるからよ……!」

「ふぇ?変なものって何?」

 集中していたはずの瑠璃ちゃんが反応してくる。


「ま、まじか……!?もしかしてあたしってそれ以下……」

 夏々ちゃんもその様子に驚きを見せる。というより落ち込んでいる……


「た、大したものじゃないよ……」

「むぅ……また内緒話ばっかりぃ」

 はぐらかすと、彼女は頬を膨らませて不機嫌そうな態度を取る。


「変なものってなにかなぁ~?」

 文乃はまだトイレに行ってなかったのか、立ったままニヤニヤこちらを見ている。

 もう一度ピンクのスイッチを押す。


「はうぅぅっ……!ら、らめっ!い、今はだめ!ほ、ほんとに!漏らしちゃうからぁ……!」

 彼女はスカートを押さえ、悶えている。

「はぁ……さっさと行って外してきて!」


 渋々スイッチを切って、瑠璃ちゃんの方を見る。

「ふぇぇぇ……」

 それに気付いたのか、鼻血をテーブルに垂らしている。


「あーあー、ティッシュティッシュ」

 夏々ちゃんがティッシュ箱を取り、彼女の鼻血を止めている。


「別にトイレじゃなくても外せるよね……?」

 恵美ちゃんが一番まともな意見を言う。

「私がスイッチ持ってるんじゃ無理だよ……」


「そ、そっか。いじめてほしくなっちゃうのね……」

 彼女は本当に理解が早い。常識外れのことだけど、常識があっていつも助かる。



「終わったぁ~~」

「瑠璃ちゃんはやーい」

 約一時間後、私と彼女はようやく一科目の宿題を終わらせた。



「あぁーー!終わった!」

「私もー!はぁー、疲れた」

 更に一時間後、夏々ちゃんも恵美ちゃんも終えたようだ。


 文乃の方を見てみる。終わった二人で教えていたからか、あともう少しのようだ。

「うむぅぅ……!」

「ほらほら、あともう少し……!」

「がんばれがんばれ~~!」



 そして二十分後……

「ぐふぅ……」

 この日の目標を終わらせた文乃は、机に突っ伏した。

「終わったじゃん!」


「えらい……?」

 うつ伏せのままこちらを向き、褒めて褒めてオーラを出してくる。

(かわいいなこいつ……!)

「よしよし、えらい」

「ふむぅ~~」

 頭を撫でて褒めると、嬉しそうに微笑む。


「全部終わったらどこ遊びに行くー?」

 夏々ちゃんがソファーで背を伸ばしながら聞いてくる。

「どこがいいかなぁ……」

 顎に手を当てて考えるが、中々良い場所が思い付かない。


「暑くない所が良いねー」

「そうだね~」

 恵美ちゃんの意見に瑠璃ちゃんも賛成する。

「じゃあヌーディストビ――むぬぅ……」

「一人で行ってこい……」

 変な事を言う文乃の頬を手で挟む。


「じょ、じょーらんじょーらん……」

 皆も呆れ笑いを浮かべている。

「海っていうのも……プール行ったばっかりだもんねぇ」

 恵美ちゃんの言う通り、プール行ったばかりで海っていうのもなんだかピンと来ない。


「オールカラオケ!」

「な、夏々ちゃん?夜遊びはやめよ?しかもそれ絶対辛くなる……」

 突飛な意見をなだめるが、一度はやってみたいものである。


「あ、夜と言えば……お祭りとか花火とかは?」

「いいかも!」

 恵美ちゃんの意見にすかさず賛成する。浴衣着たいし、皆の浴衣姿も見てみたい。

 彼女は発想のプロなのかもしれない。


「旅館に泊まって夜這い!」

 文乃が息を荒くして目を輝かせる。

「おーい、どこまで行くつもり……?」

 目の前で手を振って彼女を目覚めさせる。


「竹林の中でふみちゃんと先輩の恋も進展!?」

 夏々ちゃんも目を輝かせている。

「聞こえてるぞ……」

 兄が廊下からやってくる。ラーメンは食べたけど、その後はずっと部屋で寝ていた。


「シャルルのはじめてをやっと……」

 文乃は上の空で、全く聞いていない。

「あ、浮気だ」

 兄が彼女を凝視している。


「ふふーん。じゃあその前に奪ってあげよっか?」

 口元に指を当てて悪戯に微笑む。

 兄だけじゃなく、見ていた私達までもドキッとしてしまう。


「ふ、文乃……!?」

「わっ……!」

「おっとな~~」

「わぁ……」

 瑠璃ちゃんはまた鼻血を垂らしている。


「話脱線してるけど、まず宿題終わらないと行けないからね?」

 私は彼女の鼻血を止めながら、皆へ勉強を促す。


「わ、分かってる分かってる……」

 恵美ちゃんは苦笑いしている。

「予定よりも早く終わらせるよう頑張らなきゃ……!」

 だが、文乃の気合いは入ったようだ……

(期待されても困る……)

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