第6話~どるじあ~(幼馴染み)

「入っていーい?」

「だめ」

 久々に会ったと思ったら、私がマンションのオートロックを開けるまで付いてきやがったよこの女……!


「なぁ~んでよ~~シャルルぅ~~」

 文乃は地面に膝を突いて、私のお腹にしがみ付く。

「なんでも」

「この前まで入れてくれてたじゃ~ん。ハッ!?今なんでもって言ったよね!?言ったよね!?」


 春休みの時も無理矢理訪問してきて、居座るものだから入れざるを得なかった。

(こいつがこんなんなったのも私の責任か……)

「ねぇ、今なんか凄い馬鹿にしたよね?」

「してないって」


「うぐぅ……」

 泣き始めた。なんでよ……

「別に良くは無いけど、今日じゃなくても良いじゃん……」

「…………」

 しょんぼりとしたまま黙り込んだ。


(あーもうめんどくさっ!)

「また喧嘩したの?」

「してないし……」

(めんどくさっ!なんでそこは素直じゃないの!?)


「何が原因?」

「パパのPCでエロゲーやってた……」

(それはお前が悪い)

「んで?」

「消された……」

「あんたさぁ……」

 呆れて物も言えないとはこのことだった。


「エロゲするだけのPCなら安く買えるよ?一万とか二万とか……」

「え……!ほんと!?」


「あんたのお小遣いだったら二月ふたつき我慢すれば買えるでしょ?というかあんただって十六歳でしょーがっ!」

「いでっ!」

 肝心な事を思い出して彼女の頭にチョップする。


 とりあえずここにいるのも迷惑なのでエレベーターに乗る。

「そりゃパパもママも怒るわね……」

「私が悪かったのかなぁ……?」

「ねぇ一応聞くけどさ……そのヒロインの髪の色って」

「銀髪です。いでっ……!」

 彼女のお腹をつねる。


(あぁ、どうして……どうして神様は私にド変態二人を押し付けるの?)

「シャルルぅ~、だぁーいすきぃ~」

 後ろからなんか抱き着いてくる。

「だいすき~~!」


 こうなった原因というのは……

 文乃と会って少し経った小学二年生頃の事。彼女はハーフで、体格の割に力も無かった。

 男子にいじめられているところを助けてからというもの……事あるごとに私に付いてくるようになった。


 何故そこまで親しい友達を作れなかったのか……

 それはこいつや兄が、私への気持ちを段々とヒートアップさせていったからでもある。

 勿論私自信が持ってるのコンプレックスのせいでもある……


『ウィーン』

 エレベーターは三階へと上がっていく。

「だいすき~~!」

 そして決まって私が助け船を出すと凄く甘えてくる。

「やめて恥ずかしい……」


(なんかこう変なこともしない上に、ただただ甘えてくると愛らしくて恥ずかしい……)

「…………」

 急に黙った。

「?」


「ひどいぃ~~、シャルルなんてだいっきらいぃ~~!」

 泣きながら抱き着いてきた。

 感受性豊かなのかクールなのか分からなくなってくる……

 普段の彼女はジト目でクールさを突き通している。


 エレベーターは開き、玄関へと向かった。

『ガチャ』

「…………」

「ただいまぁ~」

(静かにしてても意味は無い)


「んぁ、おかえりー」

 部屋から兄の声が聞こえる。そんなのは聞こえなかったかのように彼女は無視する。


「ママさんは仕事?」

「うん」

 リビングへ行き、私は夕御飯の支度を始めた。


「あぁ~早くママさんによしよししてほし~~!あぁマジで、ほんとあのクソジジイ有り得ないわ」

 彼女はソファーに座ってスマホを開いた途端に口調が変わった。

(態度はちょっと腹立つけど、変わり目が草)


 心の中で笑っていると、後ろからスカートを捲られる。

「今日はピンク。大きな染み……ぐふぁっ!?」

 兄が私の下着の実況を始めたので、かかとで軽く蹴り飛ばした。

「その実況やめてって言った」


「お前っ!私のシャルルに手を出すなっ!」

「やめろって!お前のでも無いし!」

 二人は取っ組み合い、服や皮膚をつねりあう。

 別に兄とは仲が悪いという訳ではないけど……ライバルみたいなものらしい。


 体格も同じ位なのに文乃の方が力は強い。

(お兄ちゃん貧弱すぎない……?)

「二人ともじゃれてないで手伝ってくれない?」


「はい!お着替えでしょうか?」

「はい!マッサージでしょうか?」

 二人同時に私の横へ正座する。


「着替えなんてオリジナリティの欠片もないただの自己満足だっ!」

「お前のマッサージこそただのエロいこと目的だろっ!けがれた手で触らせるかっ!」


 そしてまたつねりあう。

(よくそんな単語ポンポン出てくるね……)

「はぁ……」

 まぁマイナスがゼロになる分には楽になる……


「というかその制服……お前も同じとこだったのか?」

「んだよ!ジロジロ見んな!この変態!」


「はぁ!?お前のドでかい体なんて見るわけ……」

「ひぇっ、うぐぅ……でかいってまた言われたぁ……」

 兄がコンプレックスを突くから、文乃が泣いてしまった。


「お兄ちゃん!」

 溜め息混じりで兄を注意する。

「ごめん……」

「うん……いいよ」


 彼女の泣いてる時は本当に泣いている。

 大体それをきっかけに、しばらく感受性が豊かになる。

 何だかんだで二人も相性悪くないし、見てても飽きない。


(そうか!むしろこいつらをくっ付けさせれば……!いやでも結託したらまずいかも……そもそも年がら年中発情期のこいつらをくっ付けさせたら、それ以前の問題で危険なのでは?)


「なんかあれ絶対怖い事考えてるよ……」

「シャルルにどうか神のご加護を……」

「そうなりたくなかったら手伝って?」

 そろそろいい加減にしろという気持ちで二人を威圧する。


「はい!お風呂で……」

「はい!ベッドで……」

『ドォン!』

 まな板に包丁を突き刺すと、二人の体は小さく跳ね上がる。


「家事を!てつだって?にほんごわかる?」

「はぁい……」

「はい……」

(そうだ、お風呂洗って洗濯物もしなきゃ……)

 その後は料理と雑務を二人に手伝わせて、早めに家事が終わった。


「よーし、終わった終わった……」

「ねーねー……?」

「僕頑張ったよ……?」

 二人は犬のような羨望せんぼうの眼差しを向けてくる。

(こう見ると可愛いなぁ~)


「ベッドイン……!」

「お風呂……!」

(あーやっぱ可愛くねぇ……時間まで鍵閉めてゲームしよ……)


「あっ、そうだ文乃は電話しときなよ?」

「えぇ……」

(ほんとに嫌そうじゃん……)

「後ろで見といてあげるよ……!」

「あ、ありがと……」

(おっ?いーじゃんいーじゃん)


 そして私達が見守る中、文乃は父親に電話を架けた。私達も横で話を聞いていた。

「もしもし?パパ?」

『ふ、文乃か?』

「朝は酷い事言ってごめんなさい……」

『もうしないかい?』

「はい、もうしません……」


『まだ帰ってないそうだけど……どこにいるんだい?』

「シャルルの家……」

『あー、それは良かった。ザック君に代われるかい?』

「うん……」


 無言で兄に電話を渡す。

「あっ、こんばんわ。アイザックです」

『あぁ、こんばんわ。またお邪魔してるみたいでごめんね……?すまないけど帰りはいつも通り送ってもらえるかい?』

(そうだそうだくっ付けくっ付け)


「はい、大丈夫ですよ。帰る時にはまた文乃ちゃんから連絡させますね」

『あぁ、申し訳無いけど頼むね。いつもありがとうな』

「いえいえ」

『それじゃあ』

「はーい。失礼します」


 彼女の父親との通話を終えたのか、兄はスマートフォンを文乃に渡す。

「あ、ありがと……」

「別にいつものことじゃん……?」

(わー照れてる照れてるぅー)


 兄は勉強も出来て、こういう社交等は得意な為、文乃の両親からも好印象を受けている。

(あとは文乃次第かなぁ……)

 兄はちらりと文乃の方を見る。


「な、なに?」

「いーや」

「わ、私はシャルルとしか結婚しないから!」


「僕だってシャルルとしか結婚……」

 兄がそう言いかけた時、後ろに誰かが立っている。

「それは出来ませーん」

 お母さんがいつの間にか帰ってきていた。


「おかえりお母さん」

「ただいま~」

「…………」

「…………」

 二人は真剣に悩んでいるのか、黙って俯いている。


「あれーおかえりが聞こえないぞ~?」

「おかえり母さん……」

「おかえりママさん……」

 未だに元気が無い。

 私と結婚出来ないという事実が、多分二人を悩ませている。

(悩まんでくれぇ~さっさと諦めてくれぇ~)


「ふみちゃんも来てるからって聞いて、今日は美味しいものを買ってきたんだけどなぁ~~?」

「な、何!?」

 文乃は目をキラキラさせてお母さんの方を見る。


「ケーキだよ~」

「ママさんだいすきぃ~!」

「よしよし」

 文乃の素直な部分は、多少お母さんに影響されていると思う。


(お兄ちゃんも文乃も素直になりなよぉ~、というかリア充爆発しろよぉ~)

 そんな三人を見守りながら台所に行くと、お父さんが食器等を用意してくれていた。


「シャル。焦る気持ちは分かるけど、もう少しだけ考えさせてやってくれ……」

「うん……」

「こういうのは、二人の気持ちが一番重要なんだ」

 お母さんや私達を日本へ連れてきてくれたお父さんの言葉は、やっぱり説得力があった。

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