第24話~ふぺぇいらびぃらず らーぼーた~(初めてのお仕事)

「な、なんで私まで……」

 びったりのロリータメイド服を着たシャルロッテは、上質なナフキンでグランドピアノの乾拭きをする。


「ご、ごめんなさい……」

 恵美ちゃんは物凄く申し訳無さそうに俯く。

 そして届かないところは手伝ってくれる。


「いいよ!でも、今度からは困った時は頼ってね?友達なんだから!」

 私が頬を膨らませた後に笑顔で答えると、彼女は嬉しそうに微笑む。


 メイド服も相まって凄く可愛いんだけど、私のメイド服の方が子供っぽくて多少の劣等感を感じる。


 でも彼女に言いたかった言葉をもう一度を告げる。

(助けての一言で済むんだから……)

「しんどい時は私と文乃が……ううん、皆で絶対助けてあげるから」


「ありがと……!」

 彼女は涙を浮かべながら嬉しそうにする。

 そのままとしゃがむと――私を引き寄せて抱き締めてきた!?


「ひょ、ひょっとぉ……!」

 顔をおっぱいに埋められながらもあたふたする。


「ほんとにありがと……!この恩一生忘れないよ!」

 苦しいのを察してくれたのか私を抱き直すと、感激したまま離さない。

 甘いシャンプーの香りが鼻孔をくすぐる。


「どういたしまして!じゃあ掃除の続き済ませちゃお!そしたら家事とか手伝いに……」

(見られてる……!)

 少し空いたドアから文乃と文乃ママ……浩平君までこちらを見ている。


 文乃は歯ぎしりを立てて、文乃ママは和んでいる……ことを願う。

 浩平君は目をぱちくりさせている。目線が合ったり合わなかったりする。

 おそらくメイド服を見られてる。

(メイド服……興味あるのかな?恵美ちゃん見てたらゆるさん)


 恵美ちゃんから離れる際も文乃は懇願の目で私を見る。私も抱き締めてと言わんばかりに……


 掃除をしながら軽く睨む。

「あはぇ……見られてりゅ~」

 敵は変な声を上げている。

(構わない方が良い……構わない方が……)


「もう我慢ならにゅ!」

 そう叫んだ文乃がドアをこじ開けて駆け寄ってくる。

 せっかく掃除した床が汚されていく……

 そしてこの後どうなるかは大体予想できている。


「恵美ちゃんブロック!」

 私は恵美ちゃんのお腹に抱き着いて盾にする。

「ちょ、ちょっとシャルちゃん!?」


 慌てふためく彼女を前にした文乃は……

「ふへへ、今回の件。どういじくって許そうかしら……」

 なんとにんまりと笑いながら怖い表情を浮かべる。更に手もいやらしい動きをしている。


「ご、ごめんね?も、もうしないから……」

『ガシッ、ムニュッ』

 ただ布の擦れる音を私の脳内はそう変換した。


「ひ、ひやんっ……!」

 恵美ちゃんは小さな嬌声を上げる。

「いやらしい事のいろはも知らないのに甘いわよッ!!」

 頬を膨らませた文乃は彼女の胸を揉みしだく。


「ひにゃぁ、ひゃうんっ……!もうそんなこと言わないからぁ……」

「えっちいことは私が叩き込んであげるから!」

 でもそれ以上の事はしない。

(一応浩平君の目は気にするんだね……)


「わぁ~あら~」

「ちょ、ちょっと文乃お姉ちゃん!邪魔しちゃダメだよぉ……!」

 文乃ママが微笑む中、浩平君は小さな頬っぺたを膨らませる。


「私も混ざっちゃおうかしら~」

「ちょっと……!マ、ソフィさんまで……」

 ノリノリな文乃ママを止めようとする浩平君。

(あ、やっぱり伯母おばさんじゃなくてママなんだ……)


「ふふふ」

 それを見て更に微笑む文乃ママ。

 強烈な劣等感は掃除をすることで紛らわした。



「ふー、終わった……!」

「終わったね……!」

 このグランドピアノがある部屋だけで二十畳程はある。豪邸って部屋のデカさも凄いんだなと改めて感じる。


「あ、じゃあ次はお風呂の掃除ね~。それが終わったらご飯の買い出しね~」

「はい!」

 恵美ちゃんは元気に答える。そりゃバイトより余程楽で、稼ぎも良い仕事。且つ友達とも入れる。


「はーい……」

 私は帰ってからの家事を考えるとどっと疲れた……


「大丈夫よ~シャルちゃん。文ちゃんだってちゃんとすれば家事出来るの知ってるでしょ~?だって私がちゃんと教えたんだもの~」

 微笑みながら肩に手を置かれる。

 そして悩んでいることをズバリ見抜かれている……!


「あ、あはは……」

 私の部屋がどうなっているか……それを考えるだけで心が折れそうだ。

「大丈夫大丈夫!瑠璃ちゃんがいるじゃない……!うまく纏められてるかは分からないけど……」


 確かにその通りだ。

 最近、兄も彼女の前じゃ気が緩むようになってきている。

 そこに文乃が私の部屋へ行こうと囁けば……


(いやいやいや!友達を信じなきゃ!自分が言った事だし……)

 回り回って自分に帰ってくるとはこのことだった。



 お風呂……温泉の掃除もちゃっちゃと丁寧に終わらせて、ご飯の買い出しにスーパーへと来ていた。


『帰ったらおやつ一緒に食べましょ~』

 と文乃ママは言っていた。


(これを全部一人で……文乃ママ凄い……)

 棚のコンソメを取り、見つめながら考え事をしていると……


「も、持ってきたよ……!シャルちゃん!」

 手伝いに来てくれた浩平君が、飲み物や食材類を買い物カゴに沢山入れて持ってきた。

 重そうな素振りもまた可愛かった。


「私も……!って浩平君のカゴ重そう……持ってあげようか?」

 恵美ちゃんもそこそこの量の買い物カゴを持ってやってくる。

 けどその優しさは彼にまた無理させてしまうだろう……


「だ、大丈夫……!」

 私は黙って強がる彼に近付き、カゴの前でしゃがむ。品物の量を少し分散させる。


「あっ……」

「む、無理はダメだから……」

 私は兄の事をどうこう言えない位、照れ臭くて仕方なかった。目線が地面や商品から離せない程に。


「えらいえらい」

「ふぇっ……!?」

 恵美ちゃんに笑顔で頭を撫でられている……

 それはこんなお姉ちゃんが欲しい。と思うような優しい表情だった。


「あ、ごめんね……?ほんとは浩平君が……」

「それは恥ずかしくてまだ……でもシャルちゃんありがとう……!」

 その返事が聞けただけで満足だ。

 恥ずかしがる彼も可愛いけど、恵美ちゃんのあまあまな一面を見れてしまった。



 買い物を終えて帰ってくる時には、暑い暑い昼ももう終わりを告げようとしていた。

 豪邸の玄関を開けると、クッキーの甘い香りが漂ってくる。


 二人は荷物を持って先に行く。それとすれ違いに何かがやってくる。

 見慣れた金髪ピュアテールの幼馴染み。


「シャールール~~!!」

 耐えきれず私の家から帰ってきたようだ。

「はぁ……」

 溜め息が溢れる。そして買い物を守る体勢を取る。


「これっ!」

 兄に羽交い締めにされて抱き着かれるを止められる。


「何で止めるのー!?ザックだって一緒に……」

「卵が入ってたら割れる」

 兄はいつも目敏い。冷静に状況を見て判断してから動く。別に動かなくても良いのだが……


 でもそういうところに、兄としてのかっこよさや頼りがいを感じていた。昔は。

 下心の為にその頭は働いていた……なーんて事実は知りたくなった。


「な、何だよ……」

 ずっと兄を凝視していた事に気付かれる。

「いやぁ?なんか怪しいなーって……」

 兄を見て直感的に思った事を伝える。


「いやー?何もないけどー」

 当たりだった。兄は目を逸らして小首をかしげる。


「ふふ。でも私がシャルルの部屋に行くの止めなかったし、一緒に……」

 文乃はそこまで言うと、ニヤリと笑って言葉を止める。

 変なことかのように聞かせたいのだろう。


「荒らしたのね……いいもーん。やり返す」

「な、何を……」

 狼狽える兄の横を通る。


 その時に背伸びして囁いた。

『お兄ちゃんの部屋のベッドでシちゃうもんね~』


「なっ……!?」

「ふふ」

 私が笑いながら振り返ったその瞬間。


「シャルルぅぅ!!」

 隙を突かれた。


「こらっ!」

「くんくん、はむっ……!」

 止める兄は遅く、彼女は私のスカートの下にいる。勿論着てきた普段着だからミニスカートだ。

 彼女は私のパンツに顔を突っ込み、匂いを嗅いだり口を動かしている。


 私は歯を食い縛り、その程度の事と考える。

「ふーん、そんなことしちゃっていいんだ」


「む?」

 まだ気付かない彼女はぽかんとしている。


「お兄ちゃんに文乃の送ってきたエッチな写真……」

「ご、ごごごごめんにゃしゃい……!」

 それはすぐに土下座へと変わった。


「ふ、文乃!?もしかして僕がまだだとか言ってるから……?」

「そ、そうよ!むぅぅ……!」

 文乃は兄の方に振り返ると頬を膨らませる。


 そして彼女はカーペットの敷かれた白い階段をスタスタと上り、個室へと入っていってしまった。


「私にはあれだけ求めてきてまだ何もしてないとか……」

「そ、そうだよ……!」

 私が昔の話を持ち出すと、兄は少しキレ気味でそう答えてくる。


「はぁ……あの子の気持ちも考えないとダメだからね?文乃はお兄ちゃんの為にこんなに気遣ってくれてるのよ?」

 彼女の気持ちを重点的に、そして兄の事も考えながら優しく説得する。


「わかってるけど……」

 今度は悔しそうに俯く。


 兄は昔から協調性は飛び抜けているのに、思いやっての行動というのが苦手だ。

 そこだけどうも恥ずかしがってしまう。


「おサボりはっけ~ん」

『ファサッ』

「へ?」

 文乃ママの声と同時にミニスカートが捲れ上がる。


 簡潔に状況を説明するならば……兄にピンク色のレースのパンツを見られてしまった。


「ふにゃっ……!?」

 私の顔はどんどん熱くなり、素直な恥ずかしさが込み上げてくる。


「あ、久々のシャルねこちゃん聞けた~~」

「うっ……」

 上機嫌な文乃ママとは逆に、兄は前屈みで都合が悪そうな声を上げる。


 私はその動作を見逃さなかった。そして兄をギロリと睨みつける。


「ふっふ~ん。やっぱりザックちゃんのそこはこっちに正直なのね~~?」

 文乃ママはあざとく微笑むと、兄は正気に戻った様子を見せる。


「ち、違います!僕もう決めたんですから!」

 兄はそれだけ言うと、前屈みのまま階段をトコトコと上っていった。


 そして文乃の部屋らしきドアをノックしている。直ぐに入れてもらえたようだ。


「何を決めたのかにゃ~~?」

 文乃ママはニヤニヤと笑ったまま、両手で私の頬を摘んでくる。

「ひらにゃい……!」


 兄の言葉。その決心は……少し悲しい事でもあることは分かっていた。

 でも純粋に文乃を見てくれるなら。あの子を支えてくれるならと思うとホッとした。

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