第25話~しゅと ぴゅれだぁちゅ、しゅと いずいにゃっつぁ~(伝えるべき事、謝るべき事)
「あむ」
お昼三時頃の休憩。
シャルロッテは豪華なソファに背を曲げずに腰掛けている。クッキーを食べ、ジト目で皿を見つめている。
今の所、休みは無しで八月の十五日。
「…………」
私は空虚を見つめたまま黙ってしまう。
「はむ……んーー!このクッキー美味しいですね~!紅茶風味ですか?」
恵美ちゃんは気を利かせてくれたのか、文乃ママにおやつの事を誉める。
「ふふ~紅茶とごまともう一つはバタークッキーよ~~」
文乃ママは楽しそうにクッキーの味の説明をする。
昨日は抹茶やチョコだったりと、レパートリーが沢山あってとても美味だ。
「うん……もぐもぐ。甘くて、おいひい。ありがと……」
私も疲れを浄化する癒しとして、とても感謝している旨を無表情で伝える。
「よかった~~よしよし」
私と恵美ちゃんは、文乃ママに後ろから頭を撫でられる。柔らかいおっぱいで抱擁されながら。
「えへへ……」
普段は夏々ちゃん達に、しっかりとした振る舞いをする恵美ちゃんもここでは溶かされている。文乃ママのバブみに。
でもそれよりもっと重要な事がある気がする。
私の足元にいる変態……幼馴染みの文乃。
「も~~!文ちゃん!床にごろんするのははしたないですよ~~!」
ほんわかとした口調とごろん……私は強烈なバブみを感じる。
でも、足元の美少女怪物は許せない。
「ねえ、足くんくんするのやめてくれない?」
「やだ。だってシャルルだもん」
(イラッ)
怒りに震えるがそれも振り切れ無いし、くすぐったさと嫌悪感はぬぐえない。
「こら文乃~あんまりしつこくするのはいけませんよ~~」
文乃ママがニコニコ微笑みながら彼女に注意している。
お母様の怒り方もまあお上品。
「わ、私……!そろそろ休憩終了します。掃除の続きで大丈夫ですか?」
恵美ちゃんは立ち上がり、もう休憩を終わろうとする。
(ま、マジか……これ私も気使わなきゃいけないやつ……)
「え~~もうちょっと休んでもいいのにぃ~」
文乃ママは彼女の肩と二の腕を揉み揉みしながら甘えさせてくる。
『ぱっちり』
文乃ママはウインクを私だけにする。
「…………」
私はただ呆然とそれに見惚れながらも、感動をクッキーと共に噛み締めていた。
「え、でもまだ沢山やることが……」
恵美ちゃんは気を遣ってからなのか、私の分の仕事まで換算して話している。
「じゃあめぐちゃん、二人で買い物に行かない?今までの事とか色々と聞きたいなと思ってたの」
笑顔でもその真面目な雰囲気は伝わる。
確かに親一人側にいない彼女が、無理して夜に出歩いて事件に巻き込まれるなんて事も有り得なくは無い。そう思っていた。
「は、はい……」
元気を無くした彼女はトボトボと立ち上がる。
「大丈夫よ……あなたを見放したりなんかしないわ。これからも文乃とシャルちゃんの、真面目でしっかりしてて、ちょっと可愛らしい大切なお友達でいてね?」
文乃ママは恵美ちゃんを抱き締めて、頭を肩に引き寄せ優しく撫でている。
「…………」
その私と文乃を意識した言葉で分かった。
ウインクも疲れたから休ませて欲しいという意味もあるけどそれだけじゃない。
こっちの本心なんかバレバレなんだなと……
文乃はただ嬉しそうにそれを見つめている。
私は彼女に、生涯の親友に話さなければならない。
私と兄のどちらが好きなのか。あなたみたいに私は簡単に割り切れないと。
二人は出かけ、豪華なドアがギシギシと閉まる音を鳴らす。
「えへへ、二人っきりだね」
文乃は私の太もものニーソに頬を擦り付けてくる。
「うん……」
私が小さく答えると、彼女はスリスリと頬を擦り付けて和んでいる。
「ねぇ、文乃」
「なぁに?」
彼女の名を呼ぶ。
本当に嫌われてしまうかもしれない。やめるなら今かもしれない。そういう逃げを振り払って話す。
「文乃はさ……私の事、本当に好きなの?」
「うん!」
頬を染めた可愛らしい微笑みに胸がズキリと痛む。きっと彼女を傷付けてしまう。
「じゃあ私が遊びに行こうって言ったら、お兄ちゃんとのデート断れるの?」
「うん、勿論っ!シャルルだもん!」
震える声で聞いた意地悪な質問に、彼女は笑顔で頷く。そしてにへにへといつものように笑う。
その笑みにホッとした感情を抱く。
「じゃあさ――!」
私は彼女を床に押し倒す。
「ふぇ……!?」
「私があなたよりも、あなたの事を友達として大好きって知ったら、どうする?お兄ちゃんをちゃんと……ちゃんと、優先できる……?」
暗い表情で、込み上げていた気持ちを言葉に紡ぐ。
でも喉が痛くなる程辛くて、うまく喋れない。
彼女に愛され始めてから、何故ずっと避けてきたのか……
文乃の愛は恋人としての愛である以前に、一人へ向けた愛じゃないからだ。
答えたらきっと破綻してしまう。負けず嫌いで欲張りな私は辛い思いをしてしまう。
つまり文乃は私を好きなように、誰だって好きになりたい。
花火の時、異星人への思いを聞いた一件を思い返すと、答え合わせになっていた。
何故なら彼女のもう一人の従姉は謎の行方不明になっているから。
どこへ逃げた形跡も無い。部屋に残された怪しい物は魔法の本だけ。
その本に写っているの文字はこの世界の物じゃないと判明している上に、同時期にあった能力者の事実発覚……
彼女が彼らを許せない理由なんて、無い方がおかしい。
それを彼女は、やったのはあの人じゃないの一言で済ました。
つまり、従姉も好きだけど異星人も好きでなければそんな言葉は絶対に出ない。
彼女は愛……独占欲という感情が散らばっている。
確かに一般的に見たら、それは私へ向けられているかもしれない。
でも何故か皆と引き離すような事を絶対にしなかった。
文乃の幼少期からの温厚な性格は何一つ変わっていない。
兄と彼女を見てて私がイラつく理由もやっと分かった。
私が二人に感じていた独占欲。二人がくっつくことでそれが破綻したから。
だから私は試した。
浩平君とくっついた時、彼女はどういう反応をするのか。知りたかった。
答えは困惑した焦りのような表情。
間違いない。それはどちらも好きだから。
でも文乃は私に触れることを絶対にやめなかった。
私を諦めなかった。彼へ冷たくすることもなかった。
そんな優しさにさえ直ぐに気付かなかった私は……
人間として、彼女の友達として恥ずかしくなった。
そんな彼女を、親友と思わずして何と思えば良いのか。
もうとっくのとうに特別な存在だったんだと気付かされた……
昔はエロい目で見られる事がウザくて腐れ縁だとも思い始めていた。
だから意地悪をし返した時、嫌がる姿を見るとやめられなくなった。
でも初めて彼女を傷付けてから、彼女の愛は行き過ぎない理性の範疇でもあると知った。
それは愛ではあっても恋ではない。
思えば確かにスキンシップが激しいという表現は正解だったのかもしれない。
だから彼女は私の事を一番の友達と思ってくれているはず。
その答えが今聞きたかった。
言うなれば、単なるヤキモチだ。
でも愛とか恋とかなんて凄く難しい。
分かりやすい例えを上げるなら、兄との違いだ。
兄は私を傷付けたり引かせたりしても、ずっと求めてくる。
だから間違い無く、兄は私の事を好きだろう……
兄もそれと一緒。
いつも側にあって満たされていた独占欲を文乃によって汚されたから、余計に追い求めてしまう。
そうしたら彼女の事しか考えられなくなっていた。
とんだ浮気者だ。
私が言える事では無いけれど……
文乃は目を逸らしたまま答えない。
長い沈黙の間、自分の本心に浸っていた。
文乃は左腕で顔を隠してはぁ……と溜め息を吐く。
何もかも気付くのが遅かった……
だって私はその気持ちに向き合わず、好きな趣味に逃げていたから。
だから私は補足を話す。
「あなたがその気じゃないなら諦めるわ。私は、耐えられないし……今までの友達のままで。昨日気付いたばっかだし――!?」
自分の話している事が辛くて、油断していた。
私が押し倒していたのに、体格差を利用されて反対に押し倒されてしまう。
今度は全身がソファーの上で横たわる形になっている。だから抵抗もできない。
答えが前向きな物であると期待した。嬉しいけど、ともかくびっくりした。
「優しさが無いのに私には勝てないよ。どこまでしたら証明できる?私がシャルロッテ・ドレミンをどれぐらい恋しくて、世界で一番愛してるかを」
笑顔で話しながら腕を両手で掴まれる。
そこにいつもの優しさは無く、彼女の顔は暗くて一層怖さを強調させた。
それが本当の言葉なの?
なんてことは言えない位、本気で怒ったような真っ赤な顔で……泣いていた。
「どうして……?」
私は狼狽えながらも率直に聞いた。
「ずっとよ。時を重ねる度、あなたが可愛くて、でも勇敢で……でもまた意地悪なとこも可愛くて」
彼女は笑顔のままそう話すと、Tシャツを脱ぎ出す。
一瞬驚いてしまうが、見慣れた光景過ぎて……
(あ、ああ赤下着!?)
レースの赤いブラジャーに驚いてしまう。
(家にいるのにこんなの着てたんだ……ワタシコレカラドウサレルンダロー。タスケテー?)
若干予想はしていたけど、やはり兄みたいになってしまうのか……
目を瞑る速度、腕や腰の動かし方、髪の揺れ方、甘いスイーツのような花のような香り。
私が男なら魅力的に感じるはずだが……いつもの光景だから何も感じない。
(や、やっぱりそっち路線はちょっと……)
目をどう捻っても私の心拍数は上がらない。むしろ緊張が解けてしまいそうになる。
「あなたに、シャルルに軽蔑されたくなかった……私を受け入れなくても拒絶はしてほしくなかった……」
傷付いた嫌味を言いながら、彼女は服を捨てる。
「教えてよ……どうして私をそんなに……」
私が呆れても、彼女はスカートを脱いで赤いレースの下着姿になる。
「私はあなたをどんどん好きになってた。あなたは私を好きなのに、理由をつけて嫌ったふりして逃げてた」
辛そうに彼女はそう呟く。でもそれに間違いは無い……
好きと言う意味合いの違いさえなければ。
本心に気付かないまま、素直にならないまま彼女を当たり前の存在と言い聞かせていた。
「その報いが来たの。私の事、やっと……好きになった……?」
顔を近付ける彼女の目は……
やっと私に分かってもらえて嬉しいという顔なんかじゃない。
涙で目の下を真っ赤にして、どうしてこんな事をするの?と言わんばかりの怒りが伝わる。
「ごめんね……何度も傷付けて……」
私は結局こうなってしまったことに後悔する。
我慢すれば良かったのではないのか。でも彼女を一生騙し続けるのか。
親友とはそういうものなのか?私は違うと思ったから、今ここで全てを話して謝罪している。
「許さない。結果がその答えだなんて、今更話す必要無いじゃん……」
いつもとは……いや、いつもと同じ。直球で素直過ぎる彼女の意見。
「だよね……私はこうしか出来なかった」
もう言われるがままに答えることしかできない。
元から兄みたいに強がらず、彼女に純粋に接していれば……
彼女の優しさに甘えなければ……
「出来なかった……?違うでしょ?また逃げたんでしょ。いつもいつも私から一番に逃げて。あんなに私を嫌って楽しかった?」
真っ当で辛辣な意見。私はこれ位彼女に酷いことをしていたと気付く。
「ねぇ、キスしていい?」
震えた彼女の声は、それで気を晴らさせろという怒りだと直ぐに分かった。
「…………」
直感的に横に向いてしまう。
そしてゆっくりお深呼吸してから……決意を勇気へと変える。
「滅茶苦茶にしていいから……許して……?あなたの事好きになるから……お願っ――!?」
彼女の方へ向きながら、許しを乞う。
だけど彼女は……右手を上げていた。
当たり前の対応に目をぎゅっと瞑る。
数秒経っても下ろされず、ゆっくりと目を開ける。
「だめだよ。手を上げたら負け」
恵美ちゃんが彼女の右手を掴んでいた。
「私がシャルちゃんのお兄さんと話すようになったのなんでか分かる?」
「…………」
恵美ちゃんの質問に、文乃は黙ったまま下を向いている。
その顔は恐怖に震え、涙を流している。
恵美ちゃんは文乃を横から抱き締める。
「あなたが、シャルちゃんの気持ちを知ったら傷付くって知ってたからよ。お兄さんは覚悟が出来てたから、あなたを心配してた。それがあなたを好きになるきっかけだったの」
彼女は一つ一つ言葉を紡ぐ。文乃の理解者であることを伝える。
「だから、夏々に手を出させて下手に傷付ける訳にはいかなかったの」
彼女の言う通りなら……プールの時の事も合点が行く。
(もしかして皆もこの事を……)
「ぞんなこど言っでも……!シャルルは私を好きにならない!!」
未だに感情的な文乃は、号泣しながら彼女の肩を掴んで訴える。
「ええ、だったら……!だからこそ。好きになってほしい子に手を上げたらだめだよ。あなたが一番大切にしてることって何?」
恵美ちゃんは彼女の目を見て真剣に話す。
そして後ろから文乃ママは微笑んで見守っている。
「やさしく、すること……うぐっ……」
泣くのを我慢しながら文乃は答える。
「うん。私も優しい文乃ちゃんが好き。でも、辛かったら泣いて良いんだよ?それを遠慮無く出来るのが親友。あなたが今、どう思ってるのかも絶対に分かるのが親友。いつもあなたのすぐ側にいる人よ」
恵美ちゃんに言われて文乃はこちらを向く。
純粋な瞳で。初めて会った時のような顔で。
「分かるの?」
むっとした顔に変わる。未だに傷付けられた警戒心を解かない。
「分かるわ。文乃が今どれだけ辛いか。でも今更なんかじゃないよ」
「え?」
冷静になれて本当の気持ちが固まった。私が伝えたかった本当の事を。
「私はあなたと分かち合いたいから本当の気持ちを伝えたし、合わせる必要なんて無いわ。それにもう嫌だなんて言ってないじゃない。照れ臭いけどあなたはあなたのままでいいのよ?」
私は両手を広げて、彼女を受け止めようとする。
「嘘だ。絶対エッチな事したら嫌いになる……」
まだ疑う文乃は頬を膨らませている。
「そ、それはお兄ちゃんみたいに酷いこともしたらそうなるわ。でもあなたの事が誰よりも分かるから、ちょっと恥ずかしい位……」
私は落ち着いた様子で喋るも……文乃のセクハラをずっと受け止めると考えると恥ずかしくなる。
「今までと同じじゃない……」
文乃は案外不満なようだ。
「でももうあなたを絶対に傷付けないわ。ど、どんと来なさいよ……」
言ってて物凄く恥ずかしくなる。
(あれ?でもこれって……言いくるめられてる?)
「ふふーん。シャルルは痴女なんだ」
文乃は赤く腫れた顔でニヤニヤしながらも私をからかってくる。
「ち、ちがうよ!あ、ああんたがそうしたいなら、う、受け止めるわ……」
焦りすぎて否定どころか大口を叩いてしまう。
(あ、あんた分かってて……!)
気付いて悔しがる頃にはもう遅い。
「シャルちゃーん……?別にそこまで言わなくても……」
恵美ちゃんが心配する頃には、文乃がのっそりと私に近付いてくる。
「じゃあ、今ここで公開オナニーして証明してみせてよ……」
私の耳元で彼女はとんでもない事を囁く。
「こ、こ、ここ公開!?こ、こここで!?」
混乱してしまって顔が真っ赤になる。目も恥ずかしさで震えてしまう。
(こ、公開……文乃が私に、お願い……)
「こら、文乃ちゃん……!」
恵美ちゃんが文乃に注意している。
「えへへ」
文乃はニヤニヤと笑って嬉しそうにしている。
でもそんな言葉なんか頭に入ってこない。
(こ、公開……皆に私のアレを……もし浩平君にも気付かれたら……)
顔が真っ赤になり女の子座りになってしまう。
「うふふ、手伝ってあげましょうか?」
「ま、ママさんもだめですよ……!」
文乃ママと恵美ちゃんが何か話しているが耳に入ってこない。
(そ、そしたら浩平君に写真を撮られて……もっとそんな姿見たいなんて言われたら……私どう断ればいいの……!?)
「早くしないと浩ちゃん来ちゃうよ」
またも文乃に囁かれる。
「こら文乃ちゃん……!ってシャルちゃん?」
恵美ちゃんがこちらを向いて何かを話している。
(早く、しないと……)
頭が湯立ってろくに働かない。足を少し広げて自分のロリメイド服の豪華なスカートを見る。
『ガシッ』
文乃に足を閉じられて、ハッと現実に戻る。
「やっぱりやだ。最初は私だけが見る……!もうザックに盗み見られてるかもしれないけど……」
文乃は照れ臭そうにそっぽを向いた後、眉をひそめる。
「なっ……!?わ、私がデータを消させるように訴えるわ!」
強気な恵美ちゃんは目に正義の炎を燃やしている。
私は悩んでいたことがバカらしくなった。
(いつも通りじゃない……そうね、私は私よね)
「さ、家事はまだまだ沢山残ってるよ」
さっとソファーから下りて、買い物袋から……
買い物袋は空っぽだ。
叩かれなくて済んだとは言え、二人は買い物に行っていない。
「あ、ごめんね?」
「良いよ。元々休憩中だったし」
謝る恵美ちゃんを優しく許す。
そして私だけ服装を着替える為に、本物の化粧室に向かう。
廊下を歩きながら、スカートの腰の部分を緩めた。
(やっぱりキッツ……)
「待った!」
文乃がいきなり走ってくる。
「え?」
彼女のその言葉に、何かあったのかと振り返る。
『ズサッ!』
そのまま走ってきた彼女は、絨毯にスリッパを引っ掻けてしまう。
「ひゃっ!?」
悲鳴を上げてこけると……
彼女は咄嗟にロリメイド服のスカートの部分だけを掴んで地面に倒れた。
しかもそれは緩めたゴムの部分で、ガッツリとガーターベルトとパンツまでずり下ろされていた。
「ふにゃっ!?」
(あっ、やば!今日は……)
驚いた声はいつも通り腑抜けた声だった。
だけど今日は一番まずい日で、気合い下着を回避する為に子供パンツを穿いていた日だった。
「ふへ――っ!?ご、ごめんなさい……」
にへにへと笑って誤魔化そうとした文乃は、ずり下げた物とナプキンを見た瞬間申し訳無さそうにする。
「あ、あはは……い、いいのいの……」
頭が真っ白になって言葉もしっかりと喋れていない。
引きつった笑いを浮かべながらスカートごと指定衣装をずり上げる。
(ば、バレたく無かったのにぃ……!)
後ろでしっかりと二人も見ていた。そして……
「ふぇっ!?こ、こここ浩平くゅん!?」
驚き過ぎて振り返ったまま、尻餅を突いてしまう。
「み、見てない!見てないから……!」
即座に浩平君は優しさを見せてくれるが……
「あ」
尻餅の衝撃でキーンと下腹部に痛みが走り、何かが太ももまで強く染み込んでくる感触がした。
「はっ!」
急いでメイド服のスカートを触って、肌から離す。
(濡れてない……良かった良かった)
「だ、大丈夫?」
恵美ちゃんもテンパりながら心配してくれる。
「お、おトイレに……」
未だに下腹部の痛みが治まらない。
「わ、分かった……!ゆっくり持ち上げるね」
恵美ちゃんは私の右側から脇と裾を掴む。
「あ、あらら……手伝うわね」
ほぼ同時に文乃ママも狼狽えながら手伝ってくれる。
私はそのまま恵美ちゃんと文乃ママにトイレへ運ばれた。
その頃取り残された二人は……
「…………」
「お、お姉ちゃん……?後で謝らなきゃだめだよ?」
浩平に注意された文乃はやっと立ち上がる。
「う、うん。浩ちゃんは触れないであげてね……?」
文乃は一生懸命フォローを入れる。
「お、お姉ちゃんも大丈夫?」
浩平もこういうデリケートな問題は知っているが、どうしていいかは分からなくなってしまう。
「ち、ちちがうよ!!私は違うけど……シャルルにはいつも通りで、ね?」
突然の気遣いに焦りすぎた文乃はあたふたしてしまう。
「うん……って僕付き合ってもいいの!?文乃お姉ちゃ――!?」
浩平は、シャルロッテと付き合う事を文乃に認められたと勘違いしてしまう。
「調子に乗らない。シャルルの初めては私のよ!」
文乃は頬を膨らませながらそう答える。そして浩平の両頬を摘んだ。
「そ、そりぇはシャりゅちゃんが決めりゅんだよ!」
頬を摘まれて浩平は、負けじとはにかみながら正しいことを言う。
「こ、こいつめ~~」
文乃は軽く怒りながらも、浩平の事をくすぐってからかう。
「ちょ、ちょっとくすぐらないでっ!?あ、あははっ、やめてぇ~~」
浩平もくすぐられたままひっくり返ってしまう。
でも二人は不意に冷静になると、見られたらまずいという事を気にした。
私は普通に立って待つことしか出来なかった……
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