第20話~ぷりーずうぉーつた~(本番)

 綺麗な花火は夜空に咲き、一回目の花火も終わりを告げようとしていた。

 気付いたら文乃と兄はどこかに行ってしまった。


(何も言わずに行くとか……どんだけお熱なの?)

 最近は呆れてしまい、気まずい気持ちなど無くなってもう気にしなくなってしまった。


「ちょっと屋台で食べ物買ってくるー!シャルちゃんもまだ食べるでしょ?何食べたい?」

 夏々ちゃんはまだ食べ足りないのか下駄を履くと立ち上がる。


「え!いいの?」

 実は私もバカ食いしたい気分だった。

「勿論!」

(もしかして気を効かせてくれたのかな……?)


「じゃ、じゃあチョコバナナとか甘めなやつ食べたいかも」

 私はゆるゆるした動物キャラの財布から千円札を一枚取り出す。


「任せてっ!」

「うん、お願いするね」

 それを受け取ると夏々ちゃんは得意げに胸を張る。


「あ、私も行く~」

 瑠璃ちゃんも立ち上がって下駄を履くと、夏々ちゃんに付いていった。

 妹の方は一度も振り返らずに。


 二人が土手を登って、屋台の人集だかりの中に消えていくのを見ていると……

「うーん……」

 私は考える素振りをした。


「完全なすれ違いだね……」

 すると恵美ちゃんも気付いたのかそう言った。


 あのちょっと避ける感じの雰囲気はちょっと前の兄とも似ていた。


「そ、その……璃晦ちゃんは普段お姉ちゃんに素っ気なくしたりする?」

 気になっていた事を璃晦ちゃんに聞いてみる。


「する……します」

 敬語に言い直した。可愛い。けどこういうところかもしれないと確信に近付いた。


「今度さ、ちょっと謝ってみたら?もしかしたら嫌われてるのかもって勘違いされてるのかもよ?」

「…………」

 改善策を切り出してみたが彼女は黙ってしまった。


「私もさ、たまに夏々にきつく当たりすぎちゃって謝る事があるの。恥ずかしい事じゃないよ?親しければ親しい程大切なこと」

 恵美ちゃんがゆっくりと彼女を説得していく。


「は、はい……」

 でも余程勇気がいるのか、心を切り換えられていないのか……辛そうな表情をする。


「シャールルーー!」

 バカップルが大事な場面で戻ってきた。


「あれ?二人は?」

 兄がキョロキョロ周りを見渡す。


「二人はちゃんと声かけてから屋台に行きましたよー?」

 しれっと嫌味を言ってみる。


「ふふ、本当は心配したんだぞ……だってさ」

 恵美ちゃんに本心をバラされて恥ずかしくなる。


「ふぇ……!?い、言わないでよぉ……!」

 最近恵美ちゃんも私を程々にいじってくる。宿題の仕返しなのだろう……


「えー、他の事もあるけどどーしよっかなー」

 恵美ちゃんは恐らくだけど、チョコバナナの件を文乃にバラそうとしてる。


 でもその目はちらりと俯く璃晦ちゃんを見たから、何の為にかはすぐに分かった。

「わ、わかったよぉ……宿題強いてごめんなさいでした……」

「よろしい」


 私が謝ると彼女は璃晦ちゃんに話しかけようとする。

「ほらね?簡単でしょ」

「う、うん……!」

 少し表情が明るくなった。


「んー?よく分からないけど心配かけたならごめんね?」

「勝手に行って悪かったよ……すまん」

 兄は何故か大いに反省している。


(やはりあいつが連れ出したのか。青春に憧れたシスコンめ)

「いいよ」


「でもでも!それはやっぱり私を心配してくれたんだよね?女の子だし!」

「いや家族の僕だろ」

(小さい頃から散々人の心振り回しといてどの口が……!シスコンクソ兄貴め!)


「お兄ちゃん?ほんとに反省してる?」

 溜め息を吐きながら、ちょっと強めの口調で聞いてみる。

「ご、ごめんなさいぃ……」


「そ、そこまで責めなくても……」

 恵美ちゃんはまた兄の味方をしようとする。


「でもでもー、ザックは昔っからシャルルの事悩ませっぱなしだったんだよー?その度に私が慰めてあげてたのに。あー本当に可哀想……」

 文乃もわざとらしく哀れみの声をかけてくる。


「あんたもあまり調子乗ってるとまたスイッチ入れるわよ」

 私がそう告げると彼女は浴衣の袖に手を入れて何かを探している。

「え?あれ?嘘!?スイッチが……ない」


「私がちゃんと持ってるから大丈夫よ」

「すみませんでした」

 清清しい程即答だった。


「買ってきたよー!」

 夏々ちゃんと瑠璃ちゃんが戻ってきた。


「まだ食べるの?」

 兄がまた無頓着な質問をする。

「そーよ?お陰さまで好き嫌いとか無いから」

「嫌いなもの押し付けた事もあったね……わ、悪かったって……ごめん」


「うわ、酷い……」

 流石の恵美ちゃんですら引いている。

「私がシャルパパにバラしてやったんだから!」

 胸を張る文乃に少し心強さを感じる。


「その後文乃と大喧嘩して説教されたね……」

「うんそだね……」

 兄がその後の事も思い出話として引き出すと、文乃もえへへと笑いながら……

(まーたラブラブオーラじゃん)


「ま、まあともかく。これお釣りだよ」

「あ……ありがと」

 夏々ちゃんから二百円を受け取る。

 そしてチョコバナナとデニッシュパイを受け取り、二本入りのシナモンチュロスを一本貰う。


(優しい……誰かさんも見習ってほしかったなぁ)

 ちらりと兄の方を見る。目を逸らされる。

 まあ今とやかく言っても仕方無いし、最近は良くしてくれて感謝してるから追及はしない。


「…………」

 姉を見つめていた璃晦ちゃんがいつの間にか甘そうな食べ物を見つめている。

「一緒に……食べる?」


「はわっ!?そ、それはその……」

 とりあえずその口にチョコバナナを突っ込んでみる。

「はじゅっ!?じゅる……」


「あぐーって」

 動揺しているようだが彼女に噛んで食べてと促す。


「あぐ、もぐもぐ。おいしいれふ」

 でも瑠璃ちゃんは、甘い物ではなく妹を悲しそうな目で見つめていた。


「ねーねー瑠璃ちゃん、璃晦ちゃんが話したい事があるんだって」

 私は彼女にそう呼び掛ける。


「な、なぁに?」

「そ、その……」

 璃晦ちゃんは立ち上がると、彼女の元へ向かう。そして膝を突く。


「今まで、きつい言い方したり、酷い事言ったり冷たくしてごめんなさい……」

 そう言って彼女に抱き着いた。


 当の本人はぽかーんとしている。

 でも少し頬笑んだ。

「良いんだよ……でも謝ってくれてありがとう。えらいね」

 甘やかすように彼女は璃晦ちゃんの頭を撫でる。


 文乃も彼女達の雰囲気に夢中だ。

(よし!今のうちにチョコバナナを!)

 ぱくぱくと背を向けてこっそりと食べた。


「えっへへ~シャ・ル・ル~~?」

「ふみゃっ……!?」


 振り返った瞬間、咥えてたバナナの串を取られる。

 すかさず彼女もバナナを咥える。

 またあの悪魔のバナナポッキーゲームが始まった。


「んちゅっ……はぁ、れろじゅるっ」

「はうっ……へほれろ」

 執拗にバナナと口の中を滅茶苦茶舐めてくる。


(なんなんだコイツ……)

 私はジト目で呆れることしか……

(そうだ!アレがあるじゃないか!)


 私は袖に隠した遠隔スイッチをオンにする。

「はじゅっ……!?れろれろ、あむ、じゅるるるるっ……!!」

 彼女のディープキスが激しくなる。

(まさか逆効果……?ならば!)


「じゅじゅじゅっ……!」

 私は口の中に差し出されたベロを吸いまくってみる。

「ふぇっ!?あ、あ、はぁむぅぅぅぅ……!」

 私の唇を吸い上げながら終わったようだ。


 そして彼女は脱力して後ろへ倒れた。

「あ、あわわ……」

 そんな声を上げる瑠璃ちゃんは鼻血を出しながら、抱き締めたままの璃晦ちゃんの耳を手で塞ぐ。


「お、お姉ちゃん?」

「見ちゃダメだよ!聞くのもよくない……!」

「う、うん」


 他の皆も私がキスし返した事に驚いているのかぽかーんとしている。

「そ、その、これは……そうだよ!皆が止めてくれないから勝ち申したのよ!」

 私は焦る中で言い訳を思い付き、それを述べた。


「そうだねー」

 夏々ちゃんも目をテンにしたまま心ここにあらずで見ている。

(おさわり返しは良くてキス返しはダメなのね……)


「シャル……帰ったら父さんと母さんに」

 兄が引き顔でそう勧めてくる。

(やめろ!三人でするなんて……イヤ!)


「や、やめて!そ、そういうのじゃないんだけどその……」

 不安そうな表情の文乃が目に入る。


「ほ、ほら!文乃ママのスキンシップみたいなもんだから!やられるばっかじゃ礼儀が……」


「前から気になってたんだけどそういう問題じゃ……」

 恵美ちゃんにも少し心配される。

「しょ、しょうがないの!わかってあげて……?」


(なんで私が文乃を庇ってるんだ。まさか……)

「ふへへ」

 文乃は口元を緩めて笑う。策にはまったようだ。


「後で覚えておきなさい……」

「ふ、ふへへぇ……」

 ちょっと引きつった笑いに変わった。

 でも丁度良い仕返しなど思い付かない。


「もう一箱買ってきて。今度邪魔したら本当に許さないから……」

 丁度良いのが思い付いたので提案する。

「喜んで!」

(もしかしてご褒美になってる?)


「んじゃ僕も行くよ」

「うん!」

 二人のバカップルはまた嬉しそうに土手を登る。



 そして戻ってくる頃には二度目の花火が始まろうとしていた。

「はいどーぞ」

 文乃からビニール袋に入ったチョコバナナ二本入りセット……ともう二つの空の入れ物。

 計三つのプラスチック容器が重なっている。


「な、なにこれ……」

 二人の口元を見るとホワイトチョコと茶色いチョコの擦った後が残っている。


 他の食べ物も食べ終わり、一人悲しくチョコバナナを食べた。


『ドォン!パッパッ!』

 二度目の花火が始まったようだ。


「わあ~~今度は色んな模様があるよー!」

 瑠璃ちゃんも目をキラキラさせて花火を見上げている。


「ね、ねえ君……」

 隣から近付いてきた女性に話し掛けられる。


「あ、あれ、結衣さん……?」

「さ、さっきはふみちゃんと何してたの……?」

 明らかに引きつった顔で私に話し掛けてきた。


「い、いやその……」

 もう言い訳など出てこない。

 後ろで纏められた長い銀髪は私より綺麗なまであり、青い浴衣も似合っている。


「あ、そうだ!結衣さんは、昔文乃に何かされたことって……」

「ビデオ通話越しで小さい頃毎日話してた位だから……そういうのは……」

 どうやら近いところにいたという訳では無さそうだ。


「あ、でも……カメラにすごい頬っぺた擦り付けたり、キスしたりされたかも……」

(うわっ……)


「ゆーい~~~~!」

 文乃が彼女に抱き着くとおっぱい……ではなく銀髪に頬を擦り付ける。

 寒気がしたので、皆に近寄って花火を見ることにした。


「はむ、れほれほ、ぺろっ、じゅるるる」

「ちょ、ちょっと……!はむっ、ちゅっ!?二人とも!助け、れろれろ、舌らめぇ……」

 文乃はまーたキスしているようだ。

(ほんと飽きないね……銀髪フェチめ!)


 でも結衣さんは、元からいたであろうレジャーシートの場所に助けを求めている。

 その場所にいるのは、赤髪で百七十センチ位の男の子と、百五十センチ位の金髪ツインテで小柄な女の子。


 二人ともジト目でこちらを見て何かを話している。

 結局一瞬の隙を見つけた結衣さんは逃げるように元の場所へと戻っていった。


「私から遊びに行っちゃおーかな~~」

「や、やめときなよ。あの男の子、刀持ってるから……」

 私はそれを見た瞬間、こちら側の人間では無いという事に気が付いた。


「何言ってるの?元からそうだよ?」

「へ?」

 や、やっぱり通話越しというのはそういう事だったのだろう。


 詳しく説明すると……

 一年前の秋の終わり頃に、ある遺伝細胞が見つかって天皇様がある公表をしたのだ。

 地球は宇宙のある星と交流を持っていたと。

 その星の住民は能力が自由に使えるとかとか……


 異世界転生のラノベに脳が溶かされたんじゃないかって、二ちゃんねるの意見の方を未だに信じている。


「大丈夫だよ~結衣のお友達なんだし!悪い人じゃないって!結衣の誠実さを認めてくれた人なんだよ……!」

 文乃は胸を張って彼女をベタ褒めしている。


 まあ確かに人間である事には変わり無いし、文乃が安全だと言うなら……

(あれ?なんでそこで文乃が出てくるの?)


「でも!私の一番はシャルルだから~~」

「や、やめ……引っ付くなぁ……頬っぺたにキスすんなぁ……!」


「ねえねえ、花火終わっちゃうよ?」

 夏々ちゃんに肩を手を置かれて気付く。

「ほ、ほら!勿体無いよ文乃!お兄ちゃんと一緒にいなくていいの!?」


「むぅ……」

 頬を膨らませる彼女だが、嬉しそうに兄へと抱き着いている。


 本当に将来騙されそうで心配だ。

「ぬふふ、そうかそうか。シャルちゃんも遂に親友だと認めちゃう時期入っちゃったかぁ~~」

 夏々ちゃんはニヤニヤしながら私の頬を突付く。


「じゃあ恵美ちゃんともそうなの?」

「キ、キスなんかしてないよ?」

 顔を引きつらせながらそう返してくる。


「い、いやそういう直接的な事じゃなくて……」

「恋愛じゃないよ?友情だからね?」


「べ、別に友情だからね?私だってイケメンと恋愛したいんだから!」

「そ、そうだよね……よかったよかった。シャルちゃんが常識人で……」

 彼女は理解してくれたのか、ほっと安堵の息を吐く。


「人にそういう偏見を言わない」

「ほ、ほっへらひっはらないれ~~」

 彼女は恵美ちゃんに両頬をつねられ、どこぞの変顔をする電気ネズミみたいになっている。


「恵美ちゃ~~ん?」

 ずっと感じていた恵美ちゃんの私達へ対する気遣った眼差し。更衣室でブラの話になった時のそれを思い出す。


「ひゃっ……!?」

 私は彼女の大きなおっぱいを後ろから揉みしだく。

「あの時はよくも、三人はブラまだ着けなくても大丈夫なんじゃない?とか無神経な事言ってくれたわね~~?」


「ご、ごめんなさっ……ひゃん……!」

「わ、私も仕返しだぁ!つまんでやる!」

 夏々ちゃんも彼女へ仕返しする。


「だ、だめぇぇ!ひゃうぅぅ……!」

『ドォーーン』

 二回目最後の花火が綺麗な夜空に咲いた。



 三回目を見ると帰りが遅くなりそうなので私達は帰ることにした。

「お兄ちゃん!しっかり皆を送ってくるんだよ?」

 どうせ遠い距離でもないので、帰り際に皆を送るように兄へ言い付けた。


「シャルも付いてくれば良いじゃんか」

「あ、そっか」


 数時間後。ゲームのログインを忘れてログインボーナスを受け取れなかったことに後悔したのであった。

(嫌っていたリア充生活が、こんなに楽しいなんて……)

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