#3 いいかげんにしなさい

第9話~すりぱりぃあ~(お泊まり)・前編

「ふぇっ!?ほんとにいいの?」

「お姉ちゃん!」

 瑠璃さんが嬉しそうに答えると、妹ちゃんが彼女を注意する。


「大丈夫大丈夫」

(でも……まあ心配ないか。あの二人が何かしてきたら弱み掴んで押し切ってやる)

 私はそんな妹ちゃんの頭を撫でる。

(あれ?若干背がこの子の方がたか……いやそんなことはない)

 爪先立ちでお姉さんぶる。


「じゃーあたしも泊まろっかなー」

「な、何言うとう!?こんなに大勢いよったら……」

 夏々さんも羨ましそうにそう呟くと、恵美さんも同じように注意する。


「手伝ってくれるなら全然良いよ」

 ベットを買った時の敷布団のあまりも、家族分あるし大丈夫なはずだ。

「シャルちゃんは神だぁ~」

 夏々さんが目を輝かせながら、私の両手を握ってぶんぶん縦に振り回す。


(なんだこの生き物。めっちゃ可愛い)

「そ、そうじゃないの。私は一人暮らしだから良いけど、あんたは親がいるでしょ?」

「うん、だから一回帰るよ」

(なにそれ、手離したくない)


「そ、そう……なら良いけど」

「んじゃ、着替え持ってすぐ戻るね」

「あ、私もか」

(気付いてなかったんだね)

「はいはい」


 ――一方文乃は――


「ふにゅぅ……」

 目を覚まして、寝ぼけ眼のまま起き上がる。

「シャルル……?」

 そのリビングには誰もいなかった。置いてかれた。


「ふぇっ、ふぇぇ……!置いてかれ……ぐぅ」

 泣き出して横になったかと思ったらまた寝てしまった。


「おーいシャル……って送りに行ったのか」

 しばらくするとアイザックはリビングに顔を出す。


 そして彼はパンツが丸見えの文乃を目にする。そのパンツもシャルの物でパツパツになっている。

「んなっ!?」

 思春期だからか、その光景は先程と同じく目に焼き付けられる。


(目を逸らそうとしても逸らせない……!強敵かっ!?)

「…………」


 気付いたら手を伸ばして触れていた。

(こらこら、僕は何してるんだ……ワンピースを直すだけ直すだけ)

 ずり上がった水色のワンピースをマシな位置まで下げようとする。


(くそっ。中々隠せない……)

「んっ……」

 文乃が声を出す。

「!?」

 驚いてそちらに目を向ける。

 寝ているのを見て安心する。目を戻すとワンピースはしっかり隠せている。


「ん?こんなお尻出てたか?」

 肌成分が多いことに疑問を抱く。

 手元を見ると彼女のピンク色のパンツをずり下ろしていた。

「んなっ!?」

「んぅ……」

(まずいまずい起きる……)


(いやもう触らない。ちょっとだけだし、自分でやったと勘違いする)

「うぅん……」

 彼女が突然寝返りを打つ。大事な部分はワンピースで隠れている。


『ガチャ』

 玄関の音が鳴る。

「どうぞどうぞ。上がって」

 シャルが誰かを家に入れようとしている!?


(やっば!)

 彼女のパンツをがっと掴み、上まで穿かせる。

「んにゃあっ……?」

 彼女が軽く目を覚ます。


 僕は何事も無かったかのようにソファーに座る。

「すぅぅ……」

(さて、パンツが丸見えのまま……元通りだ。よし戻ろう)

 僕は廊下に戻って、シャル達と鉢合わせようとした。


 ――そしてシャルロッテは――


「ほ、ほんとに大丈夫なんですか?」

「うん。親も今日は外泊するって言ってたし」


 そうだ。先程メッセージが届いた。

 ちょっと今日はホテルに泊まるらしい。

(そ、そのアレだよね……)

 だから私は返信と事情だけ書いた。そうして一言返事をもらった。

(邪魔しないでおこう)


「あ、お兄ちゃん」

「あれ?二人は……なんかあったの?」

 兄が妹ちゃんの姿を怪訝そうに見つめる。


「は、はじめまして……瑠璃の妹、璃晦りつです」

「はじめまして」

(手を出す危険性は無さそう。やっぱり私にゾッコンなのかこいつ……)


「な、なんか鍵忘れちゃったらしくて……両親も戻らないみたいだし泊めても大丈夫でしょ?」

 一応兄にも確認は取っておく。


「大丈夫だけど……」

(その……お父さんとお母さんホテルに泊まるみたいだから)

 言われるであろうことを予知して耳打ちをする。


「あ……そ、そそう」

(めっちゃ動揺して声裏返ってんじゃん……)

 何故教えたか、下手に電話とかすんなよという忠告だ。


「?」

 二人はきょとんとしている。

「そうだな。前の布団……いや父さんと母さんの寝室使いなよ。ちょっと部屋片付けておく」

 兄が気を遣って夫婦の寝室を片付けてくれるそうだ。


「うん、頼むねお兄ちゃん」

 そう言うと一瞬蕩けた顔をした。

(その顔無理。恥ずかしい)



 そして私達はリビングに行くと……

「わ、わぁ……」

 璃晦りつちゃんは文乃のあられもない姿に驚いている。

「ふみちゃんまだ寝てる~~タオルケットかけとかないとね」


「あ、あの……」

「あぁ幼馴染みの村上文乃っていうの」

「そうなんですか……じゃなくて、お兄さんってこっちから来ましたよね……?」

 彼女は不安そうにしている。


「あー大丈夫よ。お兄ちゃんそういうの気にしないし、紳士だから」

(私以外にはな)

「へ、へぇ……」


「だから部屋に戻ったの。ね?大丈夫でしょ?」

 彼女をそう納得させるが、兄は間違いなく意識しただろう。

(計算通り……!タオルケットなど必要無い。見せびらかせておけ)


「た、確かに。優しいんですね……」

「私とどっちが優しい~~?」

「連絡もくれない人は優しくない」

 瑠璃さんが微笑みながら語りかけるも、璃晦りつちゃんは素っ気なく答える。


「ふぇぇ~~優しいって言ってぇ~~」

「わかったから抱き着くなぁー!」

 目の前で春佳姉妹が戯れる。

(な、何この理想の兄弟像。私にも可愛い妹がいたら……)


「んっふぅ……シャルルぅ……そこはやぁ……」

 文乃が寝言で悶えている。

(夢の中で何を!?ってなんかパンツに染みが……?あいつ触ったのか!?寝込みを襲うなんて最低!もっとやれ!)


「私はとりあえずお風呂にお湯入れちゃうから、ゆっくりしてていいよ」

「は、はい。ありがとうございます……」

「シャルちゃんありがと~~」

 二人に勧めるが、どうやらすやすやと寝てる文乃が気になって仕方ないそうだ。


 私は風呂を見に行くと……どこもかしこも泡だらけ。

「洗ったら流してよ……」

 お湯を貯める自動スイッチも入れてリビングに戻ると……


「え……」

 二人とも釣られて川の字に寝ていた。

 部屋から大きめのブランケットを持ってきてかけておいた。


『ピンポーン』

 インターフォンが鳴ったのですぐに応答して開閉ボタンを押す。

 夏々さんと恵美さんが泊まる用意をして来たみたいだ。


『きたよー!』

「はーい、開けるね。玄関も空けとくから入っちゃって大丈夫だよー」

『わかったわ』

 そう伝えるとそのまま自動ドアを潜っていった。


「へにゃっ!?」

「シャルぅ……」

 兄に応答終了ボタンを先に押される。そのまま後ろから抱き締められる。


「ちょっ!?バカっ!何して!」

「今しかないんだぁぁ……!」

(やきもち!?それとも文乃で誘惑しすぎたのか……くそっ!想定してなかった……!)

 兄は私の服の中に手を入れ始める。


「ばかっ!」

(あんま大きな声出すと皆起きちゃうかもよ?)

 叫ぼうとしたら兄が耳打ちしてきた。やり方がなんともせこい。


「うぅん……」

 ちらりと見ると璃晦さんが寝返りを打ってこちら側に向く。

(あっ、ビクンってしたね今?その心、気持ち良くなってるね!?)


(こいつ……!調子に乗りやがって!)

 肘鉄も足もうまくかわされてしまう。

(中々……当たらん!)

 二つの指で上と下の何かを摘まれる。

「ふにゃぁ……」

(バカ!そこは、痛っ……ダメ!)


『ガチャン』

「ちっ、ここまでか」

 兄は手を離して私から離れる。反撃は出来ない。

「はぁ、ぜぇ、はぁ……」

(こいつ!玄関まで開けて待機してたのか……)


「お邪魔しまーす」

 そのまま二人はリビングに向かってくる。

「またきたよー、って皆寝てる……」

「ほんとだ。川の字ね。微笑ましい」

 皆はまだ寝てるようだ。


「あれ?シャルちゃんはだけてない?」

「はぁはぁ……あー、私もちょっと寝ちゃってた……」

 入れ違いで台所に行く兄がニヤニヤしてる。私は牽制のつもりでそれを睨む。


「ふふっ、そゆことかー」

 夏々さんに何かを察された。

「え?何よ、夏々」

「めぐみんはお子ちゃまだからわからんなぁ」

 彼女は呆れたように恵美さんをあしらう。


「なんですと……?こちょこちょ」

「やめっ!はぁぅっ……!脇はやめろぉ……」

(何これぇ、かーわーいーいー)

 恵美さんは夏々さんの脇をくすぐっている。


 兄は急いで視線を逸らす。

(ふっ。あ、でも逆に劣情抱かせるのもまずい……)


 私も台所に行き、兄にも食事の準備を手伝わせた。

(流石に皆の前でやるほどの度胸はないみたい……)



 夕飯の用意中……三人は目を覚ました。

「うぬぅ~?」

「うぅん……」

「んー、シャルルぅ……?」

(こいつ本当に私の事しか考えてないし……)

 先の道はまだまだ長そうだ。


 そして夕飯のオムライスが人数分出来上がった。大量に作ったからチキンライスも少し残っているし、明日も食べられるだろう。

「美味しそ~~」

 瑠璃さんが目をキラキラさせている。

「手伝ってくれたから早くできたね!」


「寝ちゃって途中からでした……すみません」

「私が来るの遅くなっちゃったのもあるし、ほんとごめんね……!」

(璃晦ちゃんも恵美さんも良い子だなぁ……)

 警戒しなきゃいけない誰かさん達も見習ってほしい。


「いいのいいの」

(手伝うかベタベタするか予測できない文乃よりは全然)


『いただきまーす!』

 私達はそれぞれ、お決まりの挨拶を言う。

(大勢で食べるのってなんかいいなぁ)



 私達はご飯を食べ終わり、皆の食器を夏々さんと洗っていた。

「夏々さんが家事出来るなんて意外だったよ」

 私は家事を手伝ってくれた時から気になっていた。


「へへぇ。長いから色々作れるんだぞぉー。ね?めぐみん」

「そ、そうね」

 恵美さんは何故か気まずそうに答える。


「そうなんだ?」

「そうそう!だってあたしがいつも……んぷっ!?」

 夏々さんの背後に恵美さんが駆けてきて手で口を塞ぐ。


「?」

(作ってもらってるのかな?まあ一人暮らしなら家事だけで大変だもんね……)

「ぺろん」

 夏々さんがそう言って恵美さん手を舐めた。

「な、なめんとっ!」


「シャルル……」

 文乃が後ろから抱き着く。

「舐めないから」

(ほんと油断も隙も無い……)


「違うの。手じゃなくて、その……熱くなっちゃったから……ね?」

 彼女は私から少し離れて、片手でお腹を押さえて悶えている。

(はぁ、また私のパンツに文乃の染みが……)


 恵美さんと夏々さんは目を丸くしてこちらを見ている。

「ごくり……」

「な、夏々。はしたないからやめなさい」

 恵美さんは目を見開いたまま、夏々さんの洗い物を取って洗う。


「はいはいお腹いっぱいになったんだねーお粗末さまです」

 私はなんてことも無かったように返す。恵美さんは安堵の息を漏らしている。


「じゃああたしが舐めてあげよーかー?」

 夏々さんは文乃の太ももに抱き着き、彼女の尻を揉み始める。

「やめっ……!私はシャルルにやってほしいんだ……!」


(はぁ……また染みが)

 この発情娘にパンツを貸すと伸びる上に……その、甘い匂いが染み付く。


「ほらほらぁ、こことかどうだぁ?」

「んくぅぁっ!」

 夏々さんが文乃のお尻に回した手で何かをしている。そして彼女は口をぱくぱくさせている。


「こらっ!夏々!」

「あれ?めぐみんも?」

「いや、なんでもないわ」

(裏切るの早い。というか経験済みなの!?)


「そうだそうだ……!シャルちゃんのパンツもっとよごしちゃえ」

「…………」

 完全に私のスイッチが振り切れて吹っ飛んだ。

(ごめんね文乃)


 私は文乃の後ろに回る。夏々さんの指が見える。

(うわ、やっぱりこっちに……)

 そして彼女のパンツを勢いよくずり下ろす。


「わ……!シャルルぅだいすきぃ!」

 尻を振る変態を無視して、そのままパンツを脱がせて没収した。

「はい。お風呂までこれで過ごしなさい」


 過去にもこんなことがあった文乃は戸惑っている。

 更に他の人に見えないように、水色のモコモコワンピースの前後の裾を掴んで隠そうとする。

「え?う、嘘よね?皆も」

「過ごしなさい肉豚」

「は、はいぃ……」


 リビングにはテレビの音で聞こえていないが、二人は呆然と立ち尽くしている。

「でもやっぱ、恥ずかしいよぉ……ちなみにな、何したら返してもらえる?」


 スイッチはまた振り切れた。

「そうねぇ。そのまま土下座してー、お兄ちゃんと一緒にお風呂でも入ったら……」

「過ごします!」

 助けをこうので、試しに良い感じの条件を出すと断られた。


「そう。あ、ちなみに今日一番、私の邪魔したしお風呂最後だから」

「は、はぅぅ。で、でもそこまで私の恥ずかしがる姿が見たいなら……」


 まだ懲りてないようなので時間の延期を勧めてみる。

「うんそうね?じゃあ明日まで……」

「ごめんなさい。すみませんでした」


「シャ、シャルちゃん……?」

「完全に圧倒している……!」

(やばっ、変な目で見られたかも……)


「さ、さっさと片付けてお風呂入りましょ?もう九時だし」

「う、うん!そうね」

「あー、あっという間だー」

 文乃は無視して洗い物の続きをする。


 兄は多少の力で押されてしまうが、文乃はそうもならないので幸いしている。

 とぼとぼと台所を後にする文乃。だがその先には兄がいた。


「ふひゃ!?」

「文乃……こっちおいで」

 兄は慈悲をかけるように手招きする。

(まさか……いやでもこれは……兄の手元にあろう私のパンツで、文乃が兄に惚れるチャンスなのでは?)


「い、いいの!?」

「あぁ勿論」

(友情は意識を重ねれば恋に発展するはず……!)


「べー!」

 文乃は私に向けてベロを向ける。

 多少はイラつくけど、これで諦めてくれるなら安いもんだ。

(ふんっ、事故って色々と見られてしまえ)

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