第8話~ぼはでぃっと いぐらっと~(遊びに行く)

 今日は休日で四人とも私の家に遊びに来ている。

「よ~し。ゆっくり育つんだよ~」

 瑠璃さんはベランダのコスモスの鉢の前にしゃがみながら、話しかけている。私も一緒にしゃがんで、水を少しあげている。


 調べたらコスモスは五月から六月に種を植えるのが良いらしい。だけど日光をしっかり浴びてないとちゃんと育たないそうだ。


(ここのベランダ風通し良いけど、ずっと日が当たってるかと言われたら微妙だなぁ……)

 私はそんなことを考えながら立ち上がって、体を伸ばす。


「瑠璃さん、もし中々芽が出なかったらどこか移動しないとダメかも」

 私は瑠璃さんにその注意事項を伝えた。

「わかった~シャルちゃん詳しいね~」


「そんなことないよー」

「またまた~」

 背後から文乃の声が聞こえる。

(こいつまたなんかする気?)


『ズサッ』

 それはスカートの中、何か下着のような物を脱がされた気がした。

「今日のパンツは何色かなぁ?」

(言う前に脱がすとか卑怯!?)


「こらっ!やめっ!わぁぁ!」

 私はパンツのせいで前方にバランスを崩す。

 だけど急いで左手で柵を掴み、右手でパンツを穿こうとする。


「だめです」

 そのパンツを文乃が両手で掴む。

 頭を使い、片足をパンツから外す。

「シャルルも遂に受け入れ……うぎゅっ!ぼふぁっ!」

 彼女の腹部に膝蹴りを入れて、右手でビンタも放つ。


 彼女が怯んだ瞬間にパンツを穿き直す。

「シャ、シャルちゃん?大丈夫?」

 私は瑠璃さんからの問いにも答えず、文乃をベランダから連れ出す。


「お、怒った?」

「…………」

 冷酷な目で文乃を見下す。


 そのまま無視して台所に向かう。

「ご、ごめんなさいぃ~~」

 彼女は這いつくばってでも許してほしいようだ。


「小さいシャルちゃんが、大きな文乃さんを手駒のように……」

 恵美さんが私達のやり取りを見て驚いている。

「もうしませんからぁ~~」

 手を洗うだけだが、泣きながら私の横に土下座する。

「…………」


「ほんとにっふぇぐぅ……なんでぼずるからぁ~」

 その言葉を聞いた時、また何かのスイッチが入った。

「ん?いま、なんでもって言ったね?」

「め、めがこわいよぉ……」

 文乃は怯えた顔で、座り込んだまま後ろへ後ずさる。


 私は笑顔を崩さずに判決を下した。

「お兄ちゃんの部屋に行ってきなよ」

「ふぇ……」

 彼女の顔が少し赤くなる。


(我ながら良い選択をした……!)

「そ、それ以外は……?」

「無い」

 助けを請うような目で見つめてくるけど聞き入れない。


『ガラガラ』

 瑠璃さんがベランダから戻ってきた。

「どうだったー?」

「植えられたよ~~」

 夏々さんが彼女に鉢植えの様子を伺っていた。


 恵美さんが文乃の項垂うなだれる台所に近付いてくる。

「何か家事とか手伝おうか?」

「い、いいの?」

「ええ!」

(気遣ってくれるのめっちゃありがたい……!誰かさんとは大違いで)


「ありがとう……!」

「掃除機持ってくるからちょっと待ってね」

「はーい」


 私が父と母の寝室に掃除機を取りに行こうとすると……

「シャルル、私をお風呂に……」

 文乃がしがみ付いてきておかしなことを言っている。


 私は良いことを思いついた。

「あっ、お兄ちゃんとお風呂掃除してきたら?」

「え?」

(そのまますっ転んでこの前みたいなことになってていいよ)


「そ、そんなの無理だってぇ……」

 彼女は顔を赤くしながら首を横に振る。

(顔赤くすんな。そしてリア充は溺れろ。どっちの意味でもな!!)


 私は彼女達を置き去りにして、寝室へ向かう。

 そして掃除機を取って戻ってきたら……

 台所で文乃が恵美さんを押し倒していた。

 リビングの二人は話に夢中で気付いていない。


「な、なにごと!?」

「ふひゃぁっ……!」

 更に文乃が恵美さんの胸を揉みしだいている。


「このでかちちめぇ~~」

「いやばいぃ……、もまんとっ……!」

(あ、貴重な方言がっ!博多弁がっ!可愛い……!)

私はもっと聞きたくてそのまま立ち尽くしていた。


「なにやってんの文乃……」

「だって気に障ったから」

(ほんと見境無いなこいつ……)


「やったわねぇー!」

 恵美さんが文乃のほっぺを両手でつねり、自由自在に動かしている。

(やり返しも女子力高い……)


「掃除機……」

「あ、ごめんごめん」

 恵美さんは容易に脱出し掃除機を受け取った。


 その後は夏々さんと瑠璃さんも手伝ってくれて、順調に家事も進んだ。あと残すはお風呂掃除のみだった。


「文乃、よろしくね」

(ま、マジで言ってるの?)

 彼女が焦った表情をしながら、ひそひそ声で聞いてきた。


(お兄ちゃんにはもう話してあるから)

 拒否権は無いと、彼女に耳打ちをする。

「ほら文乃ーさっさと洗うぞー」

 兄は何も気にしていない様子で、文乃を連れて行く。

(いいぞいいぞぉ)


「もう芽出たかなぁ~」

 瑠璃さんはコスモスの成長が待ちきれないのか、ベランダをしょっちゅう気にしている。

「そんな早くは育たないと思うよ……」


 私は皆に気付かれないようにこっそりお風呂場へ向かう。

「首尾はどー?」

 夏々さんには気付かれていた。


「今覗くとこ」

 そうして脱衣所のドアをちょびっと開けて、二人でその隙間から中を覗く。


「やだやだぁ~」

「ほら、さっさと腕捲まくって」

 兄が、文乃の黒い長袖を捲ってあげている。


「はいこれスポンジ」

「めんどくさいぃ」

 彼女は嫌々、兄からスポンジを受け取る。


「僕は床とか洗うから浴槽をお願い」

「そっちのが楽じゃない?」

「そんなことない」

「ある!」

 また小さな論争が始まる。


「わかったよ……終わったら手伝うから」

 二人は言い争うも、早々に兄が折れた。


(幼馴染みの痴話喧嘩とか理想の相手じゃーん)

(そうなの?)

 夏々さんは二人のそんな姿を見て、微笑ましそうにそう呟いている。


 そしてしばらくすると、兄は風呂床掃除を終えたようだ。

「こっちは終わったよ」

「終わってない」

 兄の報告を聞いた文乃は、食い気味にそう答えた。


「ほら手伝うから。寄って寄って」

「ちょ、無理矢理入ってくんな」

 二人は互いに背を向けて浴槽を洗っている。


 だけど兄が湯船を洗うために動こうとすると、彼女の腰や足回りに触れてしまう。

 その度に兄は狼狽うろたえる。


 あの柔らかさとぷりぷりは誘惑の塊だ。

 血を引いてるだけあってボリューミーな足とお尻には、私も触れるだけで幸福感を感じてしまう。


「ちょ、ちょっと……」

 兄が気まずそうに話しかけるが、彼女はそれに気付いていないのかきょとんとしている。

「なに?」


「な、なんでもないけどちょっとせまい」

「仕方ないじゃん……ってちめたっ!」

 文乃のぷりっぷりの生足に、兄のスポンジが触れて泡が付いてしまう。


「ご、ごめん泡付いた……」

「もう……気を付けてよ?」

「うん……」

(今度はお兄ちゃんが意識してるし……)


「うわっ!」

 彼女が浴槽に足を滑らせて後ろに倒れ込む。

「ふぁ!わっ!?」

 しゃがむ兄は驚きながらも振り返り、彼女の太ももとお尻を手で支える。


 しかも文乃は今、ミニスカートだ。勿論彼女の捲れたスカートとパンツは泡だらけになる。

「ひぎゃっ!つめたっ……!」


 兄はその光景に目を見開いている。

 つまり兄の視線から見ると、自らの手で濡れたお尻を突き出されている状況。

(そ、それは刺激的すぎる……!)


 そんなことを思っていると、夏々さんも同じ意見を呟く。

(あれは……えっちぃね)


『ふにふに』

「ばっ……!?揉むなぁぁっ!!」

 兄が文乃のお尻を揉んだ。揉みやがった。離れてても分かる位。

 彼女は驚きつつも、顔を真っ赤に染めている。

(そこを変われ。私も揉みたい)


「じゃあいつまでも寄っかからないでくれる」

 兄がそう告げる中、夏々さんも羨ましそうに呟いている。

(いいないいなぁ。あたしも太もも止まりなのにぃ)


「よいしょっ」

「あっ……」

 体勢を整えた文乃が立ち上がると、兄が悲しそうに嘆く。

「なに?」

「いや、なんでも……」


 数十秒程経つと兄が掃除を終えた。

「終わった」

「わ、私もー」

(文乃絶対適当でしょ……)


「よいしょ」

 文乃が浴槽をまたごうとした時、また足を滑らせる。

「ひゃっ!?」

「危ない!」

 兄が抱き抱えて支えようとする。


『ガタッ!』

 そのまま浴槽にダイブする。

「いてて……」

「いたた……ちょっと!?」

 今度は兄が抱き締めた場所に問題があった。その手は彼女の胸の小さな膨らみに触れている。


『むにむに』

「いや、これは……」

「だからもむなぁぁ!」

 暴れる文乃は兄のことをポコポコ叩く。

 昔から非力同士のおかげで怪我は全く無い。そのせいかこんなことは頻繁に起きる。


(とんだラッキースケベだなー)

 夏々さんが呆然としながらそう呟く。

(はぁ……)

 将来が心配だ……二人ともイチャイチャし続けて、取り返しのつかないようにはしてほしい。


「あんたがベタベタ触るから服が洗剤だらけなんだけど……」

「悪かったって……風呂もまだお湯入れないし、シャルの着替えでも貸してもらえば良いんじゃないか?」


 確かに文乃の服は所々シミになっている為、すぐ着替えた方が良さそうだ。

「あんたってもしかして神!?」

(はぁ……)

 間違いなくその将来に私も巻き込まれる。そんな悪寒が走り、溜め息を隠せない。

(が、がんば!シャルちゃん!)



 その後は皆とのんびりテレビを見たり、宿題をしたりとしていたら、あっという間に時刻は六時頃になっていた。


「あ、そろそろ夕御飯準備しなきゃ……」

 今日は父と母は二人で出掛けている。

 たまには休日に夫婦でデートしたいらしい。私達にとっては円満で何よりなのである。


「あ、じゃあ私達もそろそろおいとましないとね……!」

「えーまだいーたいー」

「もう……夏々?人を困らせないの」

「そそ~また遊びにこよ~」

 三人とも優しくしてくれるが、文乃はカーペットの上で横になって寝てしまっている。


 私の水色モコモコワンピースを着ている。この前着ていたピンクのやつの色違いだ。

 だけどそれはどう見てもサイズが小さく、太ももどころかお尻やパンツが見え隠れしている。

(胸は同格でも敗北感……)


「寝てる~」

 瑠璃さんが文乃の頬を突っつく。

「ほらほら、起きちゃうぞー」

『トゥルルルル』

 突然テーブルの上のスマートフォンが着信音を鳴らす。


「あ、私のだ~」

 瑠璃さんのスマホであることは分かっていたが、誰だろう?

「だーれ?」

 夏々さんが躊躇いもせず、それを聞く。


「妹だ~、もしもし?」

 そのまま瑠璃さんは電話に出てしまう。


「うん~え!?そうなんだ。わかった。今すぐ帰……え?こっちに来るってそれは迷惑かかっちゃうかもだし……あっ、ちょっと待って……!」

 瑠璃さんは電話をするが……あまり良い状況では無さそうだ。

「だ、大丈夫?なんかあった?」


「そ、その……シャルちゃん、ごめんなさいぃ……」

 私が心配して話しかけると、急に謝られる。

「え、え!?ど、どうしたの?助けになりたいけど、話が見えてこなくて……」


「その……今日はお父さんとお母さん、急にお仕事入っちゃったみたいで、明日まで帰ってこれないみたいなの……」

「うんうん……でもそんな急にお仕事入るなんて、お父さんとお母さんも大変だね……」


「だから私がすぐ帰る~って言ったら……妹が、心配だからそっちに行く!って切られちゃった……」


「な、なるほど……で、妹さんはシャルちゃんの家のことは知ってるの?」

 恵美さんは私も思ったことを質問してくれる。


「うーん……ちょっと電話かけ直すね~!」

 瑠璃さんは悩んで……すぐ諦めた。とりあえず電話を何度かかけ直していた。

(考えること苦手なの可愛いかよ)


 何度もスマホを耳に当てるが、状況は変わらない。

「かかんないや……」

『ピンポーン』

(えっ、なになにこわいこわい)


 私はそんなことを思いながらインターフォンの映像を見る。

 中学生位の女の子が見える。髪は同じ茶髪でサイドテール。


(妹さんかな?)

 そんなことを思いながら会話ボタンを押す。

「はい?」

『あ、あの……シャルさんのお宅ですか?』

「あ、はいそうです」

(愛称しか知らないなら、瑠璃さんがうっかり話してたとかかな?)


「りっちゃん……?」

 瑠璃さんが画面を見ると、近くに寄って話しかける。

(あ、あぁ……胸が押し付けられてる。心は辛いけど体は幸福)


『お、お姉ちゃん!?も、もう……!遅くなるなら連絡位してよね!』

 その子はツンデレっぽく瑠璃さんを心配している。


(やっぱりうっかりさんが原因だったんだね)

「ご、ごめんね?今下行くから~!」

『もう……』

 私はそのままインターフォンを切る。

 そして寝てるプリケツを置き去りにしたまま、鍵を持ち、下まで皆を見送ることにした。


「シャルさんとお友達の人も、姉が迷惑かけちゃったみたいでごめんなさい」

 妹さんは瑠璃さんの話通り、しっかりしてるのか、泣きそうな声で謝られる。

「いいのいいの、大丈夫」

 私は笑顔でその子をなだめる。


「へーきへーきそんな時もあるさー!」

「ほらほら、あとは気を付けて帰りましょ」

 夏々さんは元気に励まし、恵美さんもその子の頭を撫でて落ち着かせてくれる。


「うぅ……以後気を付けますぅ」

「瑠璃さんもそんな気にしなくても大丈夫大丈夫」


 妹さんはホッとしたと思ったら、何かを思い出したのか小さなカバンの中を探る。

「どうかした?」

「そ、その……焦って飛び出してきちゃって……お姉ちゃん、鍵はちゃんと持ってきてるよね?」


 瑠璃さんも自分のトートバッグを漁るが、鍵らしいものは見当たらない。

「あ、洗面所に忘れちゃった……」


「その……一応聞くけどオートロック?」

「はい……」

 妹さんが切なそうな声を上げる。

 二人の顔は沈み、今にも泣きそうな表情だった。


(か、可哀想過ぎる……泊めてあげようかな。お母さんとお父さんにも事情を話せば……)

「ほ、ほら元気出して!一人や二人位泊めてあげるから!ね?」

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