第8話
「いや、そういうんじゃないですから」
「なんじゃ、そういう関係じゃから一生懸命だったのでは無いのか?」
「有り得ないですよ、こんな我が儘お嬢様」
「ちょっと! こっちだってアンタなんてお断りよ!」
俺の言葉に素早く反応する姫華。
俺はそんな姫華を睨み付ける。
姫華も俺を睨む。
「ほれ、仲むつまじく見つめ合っておる」
「「違います!」」
「息もぴったりじゃ」
「「だから、違いますって! ハモるな!」」
意識していないのに声を揃えて答える俺と姫華に祖父は笑顔で笑みを浮かべる。
椅子に座り直し、俺は祖父に少し早いが今日の答えを言おうと思った。
「じいちゃん、今朝の話しなんですが……」
「む? もう答えを出したのか?」
「えぇ……皮肉にもこの馬鹿のおかげで」
「ちょっと! 人の事を馬鹿って呼ぶのやめてよね!」
俺は眉間にシワを寄せて抗議をする姫華を無視して、話しを始める。
「一緒に暮らしましょう」
「ほ、本当か?」
「はい、一緒に住んでみないとわからない事もあります。それに……俺は家族と言うものを知ってみたいんです」
俺がこの答えを出すに至った理由は今日の姫華の存在が大きい。
家族に反発し、家を出た少女。
家族とはそんなに煩わしいものなのか、それさえも俺は知らない。
だから知ってみたいと思った、家族という存在を………。
いや、思い出したいと言った方が早いのかもしれない。
父と母と暮らしていたあの頃を……。
「そ、そうか! はっはぁ! では早速部屋を用意させなくてはのぉ!」
「お願いします」
「わしは早速、色々と準備をしてくるでの! 悪いが今日は失礼するぞ!」
祖父はそう言うと、スキップしながら部屋を出て行った。
そんなに嬉しかったのだろうか?
「あんた、三島を継ぐの?」
「そんなのは知らない、俺はただ……じいちゃんと暮らしてみたいと思っただけだ」
「ふーん……私はさっさと家を出て見たいけど」
「一人は結構寂しいぞ」
「その無表情で言われても説得力無いわよ。はぁ~あ! 疲れちゃった」
「全部お前の自業自得だけどな」
「わかってるわよ!」
俺と姫華はその後、メイドさんに言われて風呂に入り、それぞれに用意された部屋で就寝しようとしていた。
俺は一人になった部屋の中で落ち着かず、うろうろしていた。
部屋もベッドも大きすぎて落ち着かない。
ゆっくり休めと言われても難しい話しだ。
「何か飲みたいが……」
そう言えば何かあったら、厨房に来るように言っていたな。
厨房のある家と言うのもおかしな話しだが……。
「すいません」
「はい? あぁ、拓雄様でしたか。どうかなさいましたか?」
そう言って笑顔で尋ねてきたのは、メイドの最上(もがみ)さんだ。
年齢は聞いてはいないが、二十代中盤の大人の女性で落ち着いた雰囲気の女性だ。
「いえ、眠れないので何か飲んで落ち着いてから眠ろうと思って」
「あぁ、そうでしたか。それならココアでも……」
そう言って最上さんは俺の為にココアを作り始めた。
十数分ほどで出来上がり、最上さんは俺にマグカップを差し出して来る。
「はい、熱いので気を付けてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ、仕事ですから」
俺はココアを貰い、部屋に戻った。
綺麗で落ち着いていて、どこぞの我が儘お嬢様とは大違いだな。
なんてことを考えながら部屋に戻ると、正面から姫華が歩いてきた。
「あ……」
「お前か……お前も眠れないのか?」
「う、うるさいわね! 枕が変わると眠れないのよ!!」
「はいはい、じゃあこれ飲んでさっさと寝ろ」
「なによこれ?」
「ココアだ、俺が飲もうと思っていたんだが、まぁ良い」
「ん……ありがと」
姫華は俺からココアを受け取り、俺の顔をジーッと見る。
「なんだ?」
「やっぱり、無表情なのね」
「まぁな……それに比べてお前は色んな顔をするな」
「私は普通よ」
近くの階段に座り、俺と姫華は何となく話しを始めた。
話しをしていれば、眠くなるだろうと思い、俺は姫華の話し相手に鳴っていた。
「そんなに許嫁って奴は嫌な奴なのか?」
「嫌な奴じゃ無いわよ、大会社の幹部だし、いつもニコニコしてて優しい人よ」
「なら別に良いだろ?」
「良くないわよ! 私は自分の結婚相手は自分で選びたいの! それに私は16よ! あっちは32で倍も歳が離れてるのよ!」
「そうか」
「ちょっと! 真面目に聞いてる!?」
「聞いてるぞ。まぁ確かに年の差があるのは嫌だな」
「でしょ!? 私だって三歳上とかならまだわかるわよ………でも16も上なのよ!」
「はいはい、わかったよ。頑張って明日両親を説得してくれ」
「ダメ元だけど、そうして見るわ……」
「そうしてくれ、俺はそろそろ眠くなってきた」
「そうね……私も眠くなってきたわ……」
互いに眠気がやってきたところで、俺と姫話は部屋に戻って行く。
*
目が覚めるといつも以上に寝覚めが良いのに気がついた。
ふかふか過ぎるくらいのベッドに、良い香りの枕。
毎日このベッドで寝起きしたいと思うほど、寝心地が良かった。
部屋で大きく伸びをしていると、部屋のドアが二回ノックされた。
「はい」
「失礼いたします。拓雄様、お着替えをお持ちしましたよ」
「あぁ、すみませんありがとうございます」
俺は部屋に入ってきた最上さんにお礼を言い、昨日着替えた制服を返して貰う。
「それでは……」
「はい?」
最上さんは俺の背後に立つと、突然服を脱がせ始めた。
「あの……自分で出来ますので」
「遠慮しなくても良いんですよ? これも仕事ですから」
満面の笑みで言う最上さん。
しかし、こんな綺麗な女性に着替えを手伝って貰うと言うのは、男として恥ずかし過ぎる。
「結構です」
「あら、残念。ウフフ」
「からかわないで下さいよ」
「ごめんなさい、三島さんのお孫さんがあまりにも可愛い子だったからついね」
「そんな事はないです」
「ウフフ、そんな事無いわよ。それじゃ私は外に居ますから、着替えが終わったら出てきてね」
柔らかい笑みを浮かべながらそう言って来る最上さん。
俺をからかって楽しんでいるのだろうか?
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