第30話
*
翌日の朝、俺は早くに起きて朝飯を済ませていた。
気分転換にと誘った映画だったが、俺にあのお嬢様を上手くエスコート出来るだろうか?
「なんだか、由香里と違って大変そうだな……」
俺はそんな事を考えながら、食事を済ませて着替える。
普通の女の子と遊びに行くわけでは無いので、考える事は一杯ある。
まぁ、女の子と遊びに行ったのも、この前の由香里との映画が初めてなのだが……。
「いつもは、和毅と葵が一緒だしな……」
スマホの時計を確認しながら、俺は部屋を出て約束の駅に向かおうとする。
「ん……行くの?」
「早癒か、あぁ行ってくるな」
「お土産よろしく」
「はいはい」
俺は玄関で掃除をしていた早癒にそう言い、家を後にする。
*
駅前についた俺は、前回同様に少し早く目的の場所に着いてしまった。
まだ姫華は来ていないようだ。
自販機でジュースも買え無いお嬢様の事だ、どうせ車で来るに違いないと、俺は噴水前のベンチ座って姫華を待っていた。
こういうときに、相手がスマホを持っていないと不便だ。
今どこに居るかもわからない。
俺がそんな事を考えていると、駅前に大きなリムジンが停車した。
「あぁ……あれだな」
俺の予想通り、リムジンから姫華が下りて来る。
目立つ車で良かった。
これで問題無く合流出来た。
「おい、相変わらず目立った登場だな」
「別に普通でしょ?」
「普通の一般人はリムジンで待ち合わせ場所に来ねーよ」
姫華の服装は、俺が前日に電話で言った通り、普通の格好だった。
スカートにデニムのジャケット姿で、服装だけは普通の女のこだった。
「それでは拓雄様、本日はお願いします」
「はい、分かりました。夕方には戻りますので」
俺にそう言って来たのは、池﨑家の執事である高付さんだ。
姫華はスマホを持っていないので、迎えに来るさいにこの人に連絡を取って迎えに来てもらう必要がある。
「それではよろしくお願いします。それと………お嬢様にはくれぐれも手を出さぬよう、お願いいたします」
「は、はい……」
「それでは私はこの辺で」
笑顔だった高付が、最後の方だけ真顔で俺に言って来た。
気迫が凄いな……。
高付さんは、言い終えると車に乗って帰って行った。
「最後、なんて言われてたの?」
どうやら最後の方は、姫華には聞こえなかったらしい。
「なんでもない……あんまり遅くなるなってよ」
「高付さんも過保護よね」
「まぁ、家出するお嬢様だしな……」
「うるさいわね! 良いでしょ! さっさと行きましょ!」
「おい、先に行くのは良いけど、道わかってるのか?」
「うっ………さっさと案内しなさいよ!」
「相変わらずのご様子で……」
相変わらず偉そうに言うわがままお嬢様。
姫華のこんな態度にも随分慣れたものだ。
俺は姫華を連れて、映画館に向かう。
「何これ!? なんでこんなに人が居るの? 何かのイベント?」
「いや、今日は休みだからな」
「休日だと映画館には人が集まるの?」
「まぁ、いつも仕事とか学校でこれないから、休みの日に見に来ようって人は多いな」
「ふーん、貸し切りにすれば良いのに……」
「お前は発想がいちいちおかしい」
こういうところが普通の女の子ではない。
しかしだ、こうして見ていると姫華も可愛い女の子だ。
いや、可愛い女の子では無い。
美少女の間違いだった。
そのせいか、やたら人の視線を感じる。
「ねぇ、この列は何に並んでるの?」
「チケットを買うんだよ。映画を見るためのな」
「ふーん……退屈ね……何か面白い話しでもしなさいよ」
「お前はそういうところがあるからな……」
「何よ」
「いや、別に……」
こういうところさえ無ければ、こいつは普通に可愛いのだが……。
「はぁ……アンタは相変わらずつまらない顔してるわね」
「大きなお世話だ。お前こそ少しは可愛げをだせ」
「アンタと一緒の時くらい素でいさせてよ。猫被るのも楽じゃないのよ」
まぁ確かにそうかもしれない。
いつもニコニコしているのも大変なのかもな……。
ようやく順番が回って来たので、俺は二人分のチケットを購入する。
見る映画は大人気のアクション映画である。
笑いあり、涙ありで結構面白いらしい。
「よし、行くか。ポップコーンとか食うか?」
「なんで? もう映画始まるんじゃないの?」
「上映中に見ながら食うんだよ、食べるなら買ってくるぞ」
「そうなの? ところでポップコーンて何?」
「ポップコーンも知らないのか……簡単に言うとトウモロコシを爆発させた食べ物だ」
「ポップコーンを………爆発………それって何か残るの?」
「あぁ、実物見せた方が早いな……買ってくるかここで待ってろ」
俺は姫華にそう言い、姫華を映画のポスターの前に待たせ、俺はポップコーンと飲み物を購入する。
俺の好みでキャラメルポップコーンを購入したが、良かっただろうか?
ポップコーンと飲み物を持ち、俺は姫華の元に戻る。
姫華の元に帰る見知らぬ二人の男が居た。
恐らくナンパであろう、俺は姫華を一人にした事を少し後悔した。
面倒な事にならなければ良いが……。
「ねぇねぇ~俺らと遊ぼうよ~」
「いえ、人を待ってますから」
「そんな事言わないでさ~」
見た目はなんだか普通だが、言い方が軽い。
早いとこ助けてやろう。
「あの、すいません。そいつ自分の連れなんで」
「え……あぁ、男いるのか……」
「つまんねー、行こうぜ」
男達は以外にもあっさり帰って行った。
姫華は少しの間猫を被っていたせいか、少し疲れた顔をしていた。
「おい、大丈夫か?」
「あれがナンパってやつね……疲れたわ」
肩を落としてそう言う姫華。
本当に疲れたようだ。
あまり姫華を一人にしない方が良いかもな。
俺は姫華を連れて、上映される映画のシアタールームに入って行く。
映画はまだ始まるまで時間がある。
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