第29話




 由香里とのデートから約一週間、明日はあのわがままお嬢様と出かける日。


「うーむ」


「どうした拓雄?」


「いや、明日なんだが、知り合いと映画を見に行くんだが……何を見たら良いかと思ってな」


「なんだそれ? 見る物も決まって無いのに行くのか?」


 昼休み、俺は和毅にそんな相談をしていた。

 軽い気持ちで映画なんて言ったが、いざ見る物が決まっていないと困るものだ。


「ちなみに聞くが……」


「なんだ?」


「それって……また由香里ちゃんとか?」


「いや、違うが?」


「じゃあ誰だよ?」


「お前の知らない、俺の友人だ」


「ふーん」


 俺がそう言うと、和毅は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 俺は何かまずい事を言っただろうか?


「おい、どうした?」


「別にー。俺とは最近遊んでくんねーのに、他の奴とは遊ぶのかと思ってなー」


 どうやら最近忙しくて、全く和毅に構っていない事が原因らしい。

 男のヤキモチほど気持ち悪い物は無いな……。


「そういうお前も、葵とデートとかしてるのか? さっきから不満そうに葵がこっちを見ているが?」


「え? あ………」


 先ほどから殺気の籠もった視線を送っていたのに、俺は気づいていたが、和毅は気がついていなかったらしい。


「いや……あの……」


「いっつも私の誘いは断るくせに……」


「いや、それは本当に用事が……」


「ふーん……いつも随分お忙しいんですね~」


「そ、それは……」


 この二人は本当に付き合っているのだろうか?

 二人を見ているとそんな事ばかり考えてしまう。

 彼氏彼女と言うのは難しいようだ……。


「お前ら、本当に良く続いてるな」


「そ、そりゃあ、俺が葵を愛してるからな!」


「あぁ、そうでも言わないと捨てられるのか……」


「ちげーよ!」


 やはり俺にはわからないな……付き合うという事が……。

 さて、葵にヘッドロックされている和毅は放っておいて、明日見る映画でも考えるか……。

「お、おい! コラ! た、助け……」


「暴れないの! 落とせないでしょ!」


「落ちたらまずいだろ!!」


 今日も平和だな……。


「た、拓雄! たす……け……」


「なんだ、やっぱり仲が良いじゃ無いか」


「こ、この……状況の……どこ……が…………」


 あ、動かなくなった。

 まぁ、これでうるさいのがいなかうなって、落ち着いて明日の予定がくめるな。


「拓雄……」


「ん、どうした早癒?」


「今週も出かけるの?」


「あぁ、姫華とな」


「そ、それって、誰ですか!!」


「お、おう……きゅ、急にどうした由香里」


 早癒に明日の事を話していると、突然由香里が話しに入ってきた。

 なぜか少し興奮した様子で、姫華の事を聞いてくる。


「あぁ、なんていうか……少し前に知り合った友達だな」


「も、もしかして……お、女の子?」


「あぁ、姫華なんて男は居ないだろ?」


「そ、そうだよね……はは……」


 乾いた笑みを浮かべながら、由香里の顔はどんどん青くなっていく。

 俺は何かまずい事を言っただろうか?

 由香里の俺に対する気持ちは知っているが、友人一人の名前を出したくらいで傷つくだろうか?


「どうした? 別にただの友達だぞ?」


「ほ、本当?」


「いや、だから本当だと……」


「本当……?」


「お前もか早癒……」


 なぜか早癒まで、俺と姫華のことを聞いてきた。

 前々から言っていたはずなのだが……。

 いや、だが俺は今から三島を継いで、姫華を許嫁にしようとしているから……本当に友達なのか?

 






 俺は家に帰り、部屋で姫華の家に電話を掛けていた。

 目的は明日の集合時間と待ち合わせ場所を伝えるためだ。


「もしもし、自分は三島の……」


『あぁ、三島様のところの拓雄様ですか。お嬢様にお電話ですか?』


「はい、代わってもらえますか?」


『かしこまりました、少々お待ち下さい』


 電話に出たのは女性だった。

 恐らく池﨑家のメイドさんか何かだろう。


『もしもし? 代わったわよ』


「おう、明日のことなんだけどよ」


『な、なによ』


「いや、時間なんだが、朝の9時で良いか?」


『い、良いわよ……それで何を見に行くの? 私映画館なんて行ったことないわよ?』


「そうなのか? まぁ、今人気のアクション映画にしようと思ったんだが……」


『べ、別に良いわよ……それでどこに行けば良いのよ?』


「駅前で頼む、じゃあそういう事でな」


『ま、待ちなさいよ! あ、遊びに行くって、どんな格好で行けば良いのよ!』


「ん? どんな格好? 普通の普段着で頼む。間違ってもドレスとか着てくるなよ」


『着ないわよ! わからないのよ! 遊びになんて行ったことないもの!!』


「逆ギレされてもな……俺と初めて会った時みたいな、ラフな格好で大丈夫だ」


『ほ、本当に?』


「どんだけ不安なんだよ……」


 俺は時間と場所を伝え終わり、電話を切る。

 遊びに行った事がない……か。

 そう言われると、明日は楽しませたくなる。

 俺はスマホを置いて、風呂場に向かいながら明日の事を考える。


「まぁ、とりあえずは風呂に入るか」


 明日の約束の時間に遅れないよう、俺は今日はさっさと風呂に入って寝ようと思い、脱衣所で服を脱ぎ、脱衣所のドアを開ける。


「……何をしてるんだ?」


 浴室のドアを開けると、そこにはまたしても水着姿の早癒が居た。

 しかもまたスクール水着……。


「背中を……」


「結構だ!」


 俺はそう言い、勢いよくドアを閉め服を着て、部屋に戻る。


「風呂はもう少ししてからにしよう……」


 早癒があんな姿で浴室に居たら、疲れなんて取れない。

 俺は早癒が居なくなるのを待って風呂に入ろうと、部屋に戻る。

 しかし……。


「じゃあ、マッサージを……」


「なんで、ここに居るんだよ……さっきまで浴室に居ただろうが……しかも着替えまで終わって……」


「メイドのひ・み・つ………」


「そんなメイドはいないと思う……」


 部屋に戻ると、ベッドの上にはまたしてもブルマ姿に着替えた早癒が待機していた。

 本当にいつの間に先回りされたのか……。

 もしかしたら、早癒は忍者か何かじゃないかと思った夜だった。

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