第4話
先ほどから視線が妙に気になるが、俺も姫華もお腹が空いていたので、気にせず食事を始める。
「うん、なかなかおいしいわね……」
「それはよかったな」
よほどお腹が空いていたのだろう、姫華は言葉とは裏腹においしそうに飯を食べていた。
「んで、どうして朝から何も食ってないんだ?」
「べ、別に関係ないでしょ……」
「飯奢ってやったんだから、話しくらい聞かせろ。それに自販機で飲み物も買えない奴を放ってなんておけるか」
「う……わ、わかったわよ………」
ようやく観念し、姫華は訳を話し始めた。
「アンタの言うとおり……家でよ」
「ふーん……まぁ、そんな事だとは思ったが、缶ジュースも買えないような奴が、良く家出なんてしようと思ったな」
「お、思わず飛び出してきたのよ! 大体お父さんがいけないのよ! 急に許嫁なんて!」
「許嫁? この時代に変な話しもあったもんだな……」
「私は自分の結婚相手は自分で決めたいの! なのに……十個も歳の離れたおじさんなんて嫌よ!」
「まぁ、人の家の事情だし、俺はあまり口を出さないが、家族が心配するから早く帰れよ」
「嫌よ! どうせ心配なんてしてないんだから!」
「……そういうもんか?」
「そうよ! 家族なんて言っても所詮は別な人間よ! 他人より長く一緒に居るだけじゃない……」
「そうか……俺は家族が早くに死んでるから、良くわわからないが……」
「え………それってどう言う……」
尋ねられ、俺は姫華の顔を見て答える。
「俺の両親は俺が小さい頃に死んだ、交通事故だった。今は施設を出て一人暮らしをしてるから、家族ってもんが良くわからない」
「な、なんかごめんなさい………」
しょんぼりしながらそう言ってくる姫華。
あぁ、こいつも同じ反応か……まぁ、当たり前か、家族が居るのが普通なんだもんな……。
「なぁ……」
「な、何よ?」
「家族って……そんなに悪いもんか?」
「え? いきなり何よ?」
「いや、まぁ……俺は親も居ないし、もちろん親戚も居ないんだが……今日俺の祖父だって名乗る人がやってきてな……一緒に暮らさないかって言ってるんだが、どうしたものかと思ってな」
俺は何故か姫華にその話をしていた。
今さっき出会ったばかりの人間だからか、なんだか気兼ねなく尋ねることが出来た。
「私にそれを聞く? 今さっき家族を全否定した私に」
「まぁ、一応な。他人だから言えることもあるだろ?」
「そうだけど………うーん……そうねぇ……」
姫華は少し悩んだ後、真剣な表情で話し始めた。
「一緒に住んで見ないとわからないんじゃない?」
「は?」
「だってそうでしょ? やってみなきゃわからないわよ! 私は家族ってものを知ってるから、家でって言う答えを出したの。アンタも結果がどうであれ、家族ってものを知る必要があるんじゃない?」
意外にまともな事を言うなと俺は感心した。
確かにそうだ。
悩んでいても始まらない。
なんでもやってみないとわからない。
こんな変な奴に納得のいく答えを貰うなんて思いもしなかった。
「なるほどな……」
「あと、アンタは笑いなさい!」
「は?」
「ずっと無表情だったら、あっちだって気を遣うでしょ! 少しは愛想を振りまく努力をしなさい!」
「……それもそうだな……」
確かにそれもそうだ。
折角見つけた肉親が、笑いも泣きもしないのは普通に考えて嫌だろう。
正直俺も嫌だ。
「だが……どのタイミングで笑ったり、泣いたりしたら良いのかわからないぞ?」
「そんなの簡単でしょ? 面白いときは笑って、泣きたい時に泣くのよ」
「それが出来ないから聞いてるんだが」
「良いからしなさい!」
「なぜ命令口調………」
やっぱり変な奴だった。
*
食事を終え、俺と姫華はファミレスを後にした。
姫華は再び帽子にグラン、マスクをしており、端から見たら完全に不審者である。
「家どこだ? 送ってくぞ」
「アンタ人の話聞いてた? 私帰りたく無いって言ったわよね?」
「そうは言っても、このまま深夜徘徊って訳にもいかんだろ。警察に補導されて終わりだぞ」
「う……そうかもだけど……」
姫華は帰りたくなさそうだった。
まぁ、話し方からそう言うとは思ったが、親は心配するだろう。
俺はなんとか姫華が家に帰るように説得を始める。
「良いから帰れって、夜は変な奴が多いんだから」
「うっさいわねぇ……」
「飯奢ってやったろ?」
「それでも嫌よ」
「あのなぁ……」
ファミレス近くの公園で説得を試みるが、一向に帰ろうとしない。
俺が頭を悩ませていると、突然黒塗りの大きな車が公園の脇に停車した。
「お嬢様ぁぁぁ!!」
「あ、ヤバ!」
「ん? なんだ?」
黒塗りの車から出てきたのは、白髪の老人だった。
背が高く、テレビでよく見る執事のような格好をしており、ピンと背筋を伸ばしてこちらに歩いてきた。
姫華は咄嗟に俺の後ろに隠れた。
「お嬢様! 探しましたよ! お父様が心配でいております! 早くお戻り下さい!」
「嫌よ! 帰って欲しいなら許嫁の件を白紙に戻して!」
「それは、昔から決まっていた事なのです! どうか現実を受け入れて下さい!」
「嫌ったら嫌よ!!」
人を間に挟んで何を話しるんだ……。
俺はなんとも複雑な気持ちで、二人間に立っていた。
それよりも俺は気になる事があった。
もしかしたら、姫華は本物のお嬢様なのだろうかということだ。
そんな事を俺が考えていると、後ろのお嬢様が何か良い案を思いついたようで、俺の前に出てきて、目の前の老人に言い放った。
「こいつ! 私の彼氏だから、離れたくないの!」
「は?」
「なんと!?」
本当にこの女は何を言っているのだろう、俺はそんな事を思いながら、腕に抱きつく姫華を見ていた。
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