第3話

「君さえ嫌じゃなければで良いんじゃ……わしと暮らさぬか?」


「え……」


「金に困る事もない、それに大学の学費も面倒を見れる。どうじゃろうか?」


「……」


 俺は悩んだ。

 正直この人の提案に乗れば、今後の生活は楽になるし、俺にはメリットしかない。

 断る必要なんて無いのだろうが、俺は悩んでしまった。

 俺はこの人を祖父として見られるだろうか?

 俺はこの人に何をしてあげれるのだろうか?


「一日……時間を下さい」


「かまわんさ、一日と言わずとも、よく考えて決めて欲しい……それじゃあわしはこれで失礼するでの……」


 祖父が部屋を出た後、黒服も続いて部屋を出る。

 先生に後で聞いた話なのだが、俺の祖父は三島(みしま)財閥の総帥らしい。

 三島とは、家電製品を始め、スマートフォンやパソコン、通信業界などの分野に広く進出している会社で、知らない人は居ない。

 そんなところの俺は息子だった。

 現実味が無く、今日一日は祖父と自分の血筋の事ばかり考えてしまい、授業が頭に入らない。


「おい拓雄!」


「え……あぁ、どうした和毅?」


「どうしたじゃねーよ! 朝からぼーっとしやがって! 職員室で何かあったのか?」


「荒山君らしくないわよ? どうしたの?」


 和毅と葵に心配されてしまった。

 俺は二人に相談して見ようかとも考え、祖父が居た事を二人に話す。


「はぁ!? 今更じいさんが居て、しかもそのじいさんは財閥の総帥!?」


「おい、あんまり大きな声を出すな」


「あ、あぁすまん。あまりにもビックリしてな……」


「三島って言ったら。かなりの大手よ。その総帥の孫って……」


「俺も朝初めて知ったんだ……」


「じゃあ、お前はそのじいさんのとこに行くのか?」


「わからん」


「ま、まさか……転校なんて言わないよな?」


「知らん」


「でも、三島の跡取りってなったら、こんな普通高校じゃなくて、もっとお金持ちが通うような高校に行くんじゃ……」


「ま、まじか……」


 葵の言うとおり、もしかしたらそうなるのかもしれない。

 俺のこの日常は大きく変わるのかもしれない。

 それは少し寂しいし、本音を言えば嫌だ。

 しかし……。


「あのじいさんも一人らしいんだ……」


「え、奧さんとかは?」


「もう亡くなってるらしい」


 一人の辛さを俺は知っている。

 だから俺は、考えさせて欲しいと言った。

 学校が終わり、下校の時間になっても結論は出ない。

 俺は急遽バイト先に休みを貰い、一人で色々と考えながら歩いていた。


「……親父、母さん………どうしたら良いんだろうな……」


 悩みながら町を歩いていると、自販機の前で怪しい動きをしている女の子が居た。

 帽子を深く被り、マスクにサングラスをしている。

 格好から女子だと言うことはわかったが、歳まではわからない。

 俺はなんとなく気になり、話しを掛けてみることにした。


「あのどうかしましたか?」


「え? あぁ、この自販機壊れてる見たいなのよ!」


「は?」


「ボタンを押しても飲み物が出てこないのよ!」


「お金は入れました?」


「え? カードじゃダメなの?」


「………」


 あ、ヤバイ変な人だ……。

 俺は瞬間的にそう思った。

 いや、もしかしたら電子マネーとかに対応していないのを知らないのかもしれない。


「あの、この自販機は電子マネーに対応してませんよ?」


「え? 何それ?」


「………ちなみにカードっていうのは?」


「これよ」


「………」


 差し出されたのは完全にクレジットカードだった。

 しかもそのクレジットカードは真っ黒で、噂に聞くブラックカードのようだった。

 

「いや、コレは使えませんよ……現金はないんですか?」


「持ってないわよ」


 なんだろうこの変な子は……どこぞのお嬢様だとでも言うのだろうか?

 俺はそう思っていると、彼女のお腹が大きくなった。

 少女はその瞬間、耳まで顔を真っ赤にし、お腹を押さえ、恥ずかしそうに俯く。


「……お腹すいてるんですか?」


「わ、わるい!」


「悪くないです、それと初対面の人間にその言葉遣いはどうかとおもうけど」


「う、うるさいわね! こっちは朝から何も食べてないのよ!」


 今日はなんて日だ。

 俺はそんな事を思いながら、気まぐれで彼女にご飯をごちそうすることにした。

 正直このまま放っておくのも心配だった。

 俺は彼女を連れて近くのファミレスに入る。

 丁度喉が渇いていたので丁度良い、ついでに夕食も済ませてしまおう。


「ほ、本当に良いの?」


「良いですよ、給料も出たばかりだし」


 俺は少女の問いに淡々と答える。

 

「あんた、良い人ね」


「この程度で良い人認定はどうかと思うが……まぁ、いいや。俺も今日は料理なんて出来そうになかったし……」


 俺はオムライスを少女はステーキを注文した。

 よく食べるなぁ……なんて事を考えながら、俺は注文を聞いていた。


「そう言えば名前は?」


「え? 私?」


「そうだよ、なんて呼べば良い?」


「えっと……そうね……じゃあ、姫華って呼んで」


「姫華か、俺は荒山って呼んでくれ。朝から何も食って無いって言ってたが……家出でもしたか?」


「う………ち、違うわよ」


「グラサン越しでも目が泳いでるのがわかるぞ」


「え! ホント!?」


「嘘だ」


「あ、アンタねぇ!!」


「飲食店では帽子とグラサンは外せ、行儀が悪いぞ」


「う、ぅ~……わ、わかってるわよ!」


 そう言って彼女は、帽子とグラサンを取った。

 その瞬間、周りの人間の視線が彼女に集まるを感じた。

 長い綺麗な金色の髪が腰辺りまで落ち、大きな青い瞳が俺をジッと見つめる。

 マスクをしてはいたが、彼女がかなりの美少女であることは容易に想像できた。


「はぁ……大声出した喉渇いちゃった……」


 そう言って彼女は水を飲むためにマスクを外す。

 その瞬間、俺は思わず目を見開いた。

 感想は一言、綺麗だった……。

 整った顔立ちに俺は思わず目を奪われた。

 こんなに綺麗な女子は今まで見た事がなかったからだ。


「なによ?」


「いや、綺麗な顔してるんだなと思って」


「あぁ、良く言われるわよ……そういうこと言う奴大体嫌いだけど」


「そうか、それはすまない」


「顔の事を言うなら、私も言いたい事があるわ」


「なんだ?」


「あんた、さっきからずっと無表情だけど、笑ったり怒ったりしないの?」


「俺も良くそう言われるよ……別に怒っても笑えても、表情を作らないだけだ」


「なんで?」


「その必要性を感じないからだ」


「変なの」


「お前もな」


 そんな事を話していると、ようやく料理がやってきた。

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