第18話
*
日曜日、俺は婚約パーティーの準備をしていた。
なんだか高そうなスーツを早癒に用意され、部屋で着方を教えて貰っていた。
「こうか?」
「そう」
「よし、出来た」
「ん、あとこれ」
「時計もか?」
「うん、その方がカッコイイ……」
「そうか、なら一応……ちなみにこれっていくらなんだ?」
「100万円」
「返す」
「なんで?」
「こんな高い物を身につけて、壊したら大変だろ……」
「そのスーツより安いよ?」
「……スーツはいくらなんだ?」
「500万円」
「着替える」
「なんで?」
「高すぎるだろ、汚しでもしたら……」
「クリーニングすれば良い」
「破いたら」
「直せば良い」
「本当に大丈夫か?」
「うん、旦那様から拓雄にプレゼントだって言ってた」
「プレゼントの桁を越えてると思うんだが……」
俺は自分のスーツと時計を見ながら早癒に言う。
金額を聞いた途端、俺はなんだか動きにくくなってしまった。
「じゃあ、私も着替えてくる」
「おう、そうか」
「うん……」
早癒はそう言って部屋を出て行った。
俺はスーツに気を遣いながら、部屋の椅子に座って時間になるのを待つ。
この間会ったばかりだが、あいつは元気だろうか?
婚約パーティーなど、姫華からしたら嫌で嫌で仕方がないだろうに……。
*
出発前、俺は玄関先で祖父と迎えの車を待っていた。
なんでも池﨑家が招待客全員の送迎もしているらしい。
「そろそろ時間じゃが……」
「そうですね」
俺と祖父がそんな話しをしていると、後ろの階段から早癒と最上さんがドレス姿で現れた。 最上さんは淡い薄緑のドレスで早癒は青の色違いのドレスだった。
二人とも肩にはストールを巻いていた。
「お待たせ致しました」
「うむ、二人ともよう似合っておるの」
「ありがとうございます」
「ん……」
「ん?」
最上さんが祖父にお礼を言っている脇で、早癒は俺のスーツの裾をつまんで尋ねる。
「……どう?」
「え、あぁ……良いと思うぞ」
「ん……ありがと」
俺がそう言うと早癒は後ろを向いてしまった。
どうしたのだろうか?
そんな事を考えていると、迎えの車が到着した。
「お待たせいたしました。それではお乗り下さい」
「うむ、よろしく頼む」
祖父が返事をし、俺達は車に乗り込んだ。
迎えに来たのはやっぱりリムジンで、車内も豪華だった。
「しかし……あの子はまだ拓雄君とそう歳は変わらんはずじゃろ? 婚約は早すぎではないかの?」
「やっぱりそうですよね?」
「まぁ、人の家の事じゃ……口を出すつもりはないが……」
「庶民からしたら、婚約パーティーなんてもの自体が珍しいですよ」
「まぁ、そうじゃろうな。今日は上手い物が食べれるとだけ考えていればよい、わしの孫だからと言って、気を遣ってわしと挨拶回りをする必要はないでの」
「じゃあ、そうします。俺は早癒と上手い物食ってます」
「うむ」
そんな事を話しているうちに会場に到着した。
会場は大きなホテルのだった。
このパーティーのために、ホテルは貸し切りになっているらしい。
「デカ………」
「ん……ほら、行こ」
「あぁ、すまん」
ホテルの大きさに圧倒されていると、早癒が俺の手を取ってきた。
早癒はそのまま俺の腕に自分の腕を絡ませる。
「おい」
「なに?」
「なんで腕を組む必要がある?」
「紳士は淑女をエスコートするもの……」
「そうなのか?」
「うん、常識……」
「そうか……なら仕方ないか」
「うん」
俺は早癒と腕を組みながら、祖父と最上さんに続いてホテルに入っていく。
集まっている人は全員なんだか金持ちそうなオーラが出ており、俺は自分には場違いなのではないかと思いながら、受付を済ませて会場に入る。
「結構人が居るな……」
「うん」
「拓雄君、わしは少々挨拶回りに行ってくるでの」
「分かりました」
祖父は俺にそう言い、最上さんと共にその場を後にしていった。
残った俺と早癒はというと……。
「どうする?」
「どうしよ……?」
「とりあえず飲み物でも飲むか」
「ワイン?」
「アホ」
俺は早癒にそう言い、近くのウエイターからオレンジジュースを貰う。
「ほらよ」
「ん……ありがと」
二人でオレンジジュースを飲みながら、会場の脇の方に移動する。
「しかし、知らない人ばっかりのパーティーだと、正直つまらないな……」
「話し相手なら……私が居る」
「俺と早癒の会話はすぐ終わるだろ」
「む……確かに」
そんな話しをしていると、急に会場が暗くなりはじめた。
会場中央のステージが明るくなり始め、そこに司会者とおぼしき男性がマイクを持って立っている。
「皆様、長らくお待たせいたしました。本日は池﨑家主催の婚約パーティーにご参加いただきまことにありがとうございます」
司会の男がすこし長めの挨拶をし、今日の主役である姫華と姫華の婚約者の紹介になった。
「それでは本日の主役の登場です!」
司会のかけ声と共に、ステージの幕が開き姫華と見知らぬ男性が登場する。
姫華は白のドレスを着ており、化粧をしているせいもあってか、以前よりもより美しく見えた。
「………綺麗」
「あぁ……そうだな」
隣の早癒も思わずそう口走っていた。
会場の男はもちろん、女性まで魅了してしまうそんな魅力を持っている姫華に、俺は少し感心してしまった。
司会者は姫華のプロフィールと婚約者の男のプロフィールを紹介し、会場の客に二人の紹介をしていく。
「相手の男、かなり凄い経歴だな」
「さすが、時期財閥後継者」
「確かにな、俺とは月とすっぽんだ」
「ん……容姿は拓雄のコールド勝ち」
「お世辞でも嬉しいな、ありがと」
「むぅ……お世辞じゃないのに……」
一通りの紹介が終わったところで、ステージは終了となり、再び会場に明かりが戻る。
かなりのイケメンで、高学歴で現在は会社の社長をしているという姫華の結婚相手。
ステージにあがっていた姫華は満面の笑みで会場に手を振っていたが、きっと無理をしていたのだろう………俺には姫華の表情が作り物のように思えてしまった。
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