第7話
数分後、祖父は黒服達の心臓マッサージにて目を覚ました。
「す、すまぬ……」
「いえ、なんか俺もすいません」
「な、何を言うか! これからもじいちゃんと呼んでくれ!」
「えっと……じゃあ、じいちゃん、話しを戻すけど」
「えぇのぉ……えぇもんじゃのぉ~、孫が居ると言うのは……」
なんだか感激しているようだったが、俺は話しを続ける。
「俺は別にそんなに気にしてないよ。元々は俺が姫華に声を掛けたんだし、それにドアの修理と部屋を掃除して貰えれば、俺は別に何も気にしないよ」
「そ、そうか? 拓雄君がそう言うなら……それで許してやるわい」
祖父はどこか不服そうだったが、俺はそれで良いと思っている。
元をたどればただのお嬢様の家出だ、俺が関わったせいでそれ以上の大事にする必要は無い。
「こ、この度は大変申し訳ありませんでした!」
頭を下げてくる姫華の執事。
この人も大切な主人の娘がピンチだと思って必死だったのだろう。
気持ちはわからないでも無い。
「それは良いんで、ドアと部屋だけ元通りにして下さい。それと人の話は最後まで聞いて欲しいです」
「は、はい。大変申し訳ありません!」
しかし、どうしたものだろうか……。
部屋の中はメチャクチャで、どう考えても今日はこの部屋では眠れ無い。
「どうするかな……」
「どうかしたのか?」
「えっと、今日はどこで眠ろうかと思って……見ての通りこの惨状じゃここでは眠れないので」
「おぉ! それならわしの家に来れば良い! 部屋は余っておる!」
「そうですか? それはありがたい話しですが……」
俺は祖父にそう言いながら、横目で姫華を見る。
寂しそうな表情で車に乗っていた。
相当家に帰るのが嫌なのだろう、飯を一緒に食べていた時の表情とはまるで違う。
「じいちゃん、さっき部屋が余ってるって言ったよな?」
「あぁ、余っておるが? それがどうかしたのか?」
「今夜、あいつも泊めてやれないかな?」
「なんじゃと? うーむ、わしは良いが……何故そこまであの子に?」
「なんていうか……これも何かの縁かと思って……明日の朝には家に帰るよう言うから、お願いします」
「う-む……拓雄君も年頃と言う訳か……言いじゃろ!」
「ありがとう」
俺は祖父に礼を言うと、姫華の乗る車に向かって行った。
「おい」
俺は車の窓をコンコンと叩き、姫華に声を掛ける。
「何よ? てか、アンタってあの三島の御曹司だったの?」
「それは俺も今日知ったんだよ。それよりも、あの人が今日お前を泊めてくれるってよ」
「え……なんで?」
「帰りたくねーんだろ……なら早く下りて一緒に来い」
俺は姫華を連れて、再び祖父の前に向かった。
祖父はニコニコしながら俺を見ながら、車に乗るように言う。
俺は姫華のところの執事に、明日には家に帰すと言い、部屋から必要な物だけを取って車に乗った。
車に乗って数分、まさにお屋敷と言った感じの大きな庭のある家に到着した。
俺の住んでいるアパートが敷地ごと三個はすっぽり入ってしまうのではないだろうかと思いながら、車が停車するのを待った。
「大きい家ですね」
「これはわしの別荘じゃ、家はまた別にあっての」
「別荘ですか?」
「そうじゃ、拓雄君がこの周辺に住んでいるという情報を得て購入したんじゃ、まぁそんなに高い買い物では無かったのでの」
「十分に高い買い物だと思うんですが」
話しをしながら、俺と姫華は部屋に案内され、客間のような部屋に通される。
「すまんが、少々ここで待っていてくれ、二人の部屋のベッドを綺麗にしなくてはならんでの」
「すいません、お願いします」
「ほっほっほ、家族なんじゃ気にするでない」
祖父は笑顔でそう言うと、部屋を出て言った。
メイド服を着た女性が、紅茶とマカロンを俺と姫華に出し部屋を出ていった。
二人きりになった俺と姫華は向かい合って話しを始める。
「……ありがとね。それとごめん」
「何だよ急に、頭でも打ったか?」
「素直にお礼を言ってるのに、アンタのその反応はなんなのよ」
不服そうに言う姫華を他所に、俺は紅茶をすする。
時刻は夜の九時を目の前にし、そろそろ眠気が出始めてきた。
「帰りたくないんだろ? そんな状態で帰ってもまた家を出るだけだ。なら一日くらい良いだろ」
「うん……」
二人きりの部屋で、俺たちはそれ以外の話しはしなかった。
時計のかちかちと言う音だけが部屋の中に響く。
そんな中、俺は姫華に尋ねる。
「なぁ、お前ってやっぱり金持ちのお嬢様なのか?」
「まぁ……一応そうよ、それが何?」
「いや、そうなのかなと思ってな。そらお嬢様なら自販機の使い方も知らないか……」
「何それ? 馬鹿にしてるの?」
「まぁ、そうだな」
「アンタねぇ……」
「怒るなって、俺のおかげで今日は帰らなくて済むだろ?」
「う……そ、それを言われると辛いわ……」
「まぁでも、明日はちゃんと親と話せよ」
「はいはい、わかったわよ」
姫華はそう言いながら、マカロンを口に入れる。
本当に良く食べるなこいつ……。
そんな事をしていると、再び祖父が部屋の中に入ってきた。
「少しは落ち着いたかの?」
「はい、ありがとうございます」
「気にするな、それにしてもわしは意外じゃったぞ」
「はい? 何がですか?」
「拓雄君がこう言う子がタイプだったとは……」
「「はい?」」
俺と同時に、姫華も声を出した。
タイプというのは女性のタイプだろう。
言っておくが断じて俺のタイプは姫華のような女では無い。
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