第26話

『もしもし? どうしたの?』


「あ、葵! 拓雄君ってどんな服が好きかな!?」


『あぁ……明日だったわね。正直言うと、あいつはどんな服でも気にしないと思うわよ?』


「そうなの?!」


『まぁ、もともと見た目だけで判断するようなやつじゃないからね、いつも通りが一番よ』


「そ、そうかな?」


『そうよ、じゃあ頑張ってね』


「あ! ちょっと!!」


 切れてしまった。

 私はスマホを耳から離し、ため息を吐いてベッドに横になる。


「はぁ~……いつも通りと言われても……」


 そんな事を言われても、やっぱり気にしてしまう。

 相手は好きな人な訳だし、少しでも印象を良くしたい。


「うぅ~……どうしたら良いのよぉぉぉ!」


 私は頭を抱えながら再び洋服を選び始めた。







 由香里と出かける日の朝、俺は着替えを済ませて朝食を済ませていた。


「今日はお出かけですか?」


「はい、友達と映画を……」


「それは良いですね、楽しんで来て下さい」


 ニコッと笑って最上さんは俺にそう言い、食後のコーヒーを差し出して来る。

 俺はそのコーヒーにミルクを入れて口元に運ぶ。


「おかえりは何時頃になりますか?」


「多分夕方くらいになると思います。遅くなるようだったら連絡を入れるようにします」


「はい、お願い致します。そうしないと、旦那様が心配しますので」


 祖父は朝から家を出ていた。

 なんでも仕事で朝から居ないらしい。

 俺は食事を済ませて、食堂を後にする。

 部屋に戻り、準備を済ませて俺は玄関に向かう。


「ん……どこ行くの?」


「ん? なんだ早癒か……」


「む……なんだとは失礼……」


「悪い悪い。今日は由香里と映画に行くんだ」


「ん……つまりデート?」


「まぁ、とらえ方は人それぞれだろ? じゃあ、行ってくるな」


「ん……」


 俺は早癒にそう言い、早癒の元を後にした。

 待ち合わせは駅前の噴水の前だ。

 そこなら駅を下りて直ぐなので、待ち合わせには丁度良い。

 俺は電車に乗り、約束の駅に向かい、噴水の前を目指す。


「まだ来てないか……」


 十五分前、少し早く来てしまった。

 俺は噴水前でスマホを操作しながら待っていた。

 そんな時………。


「ねぇねぇ」


「ん、はい?」


 茶髪女性二人組に声を掛けられた。

 なんだろうか?


「君、今暇?」


「私達とさぁ、どっか行かない?」


 この人達は何を言っているんだ?

 俺たちは初対面なのに……。


「すいませんが、人を待っているので」


「どうせ男でしょ? 良いじゃん、お姉さん達と遊ぼうよ~」


「お金はお姉さん達がなんとかして上げるから~」


「いえ、そういう問題では無く……」


 なんなんだろうか?

 たまにこう言う人が居るが、一体何を考えているのだろう。

 こっちは人を待っていると言っているのに……。

 どうしようかと困っている時、向こうの方から由香里が来るのが見えた。

 俺は一安心し、茶髪の女性二人組の元を離れる。


「すいません、連れが来たので」


「え、あ! ちょっと!」


 俺は由香里の元に駆け寄る。


「お、おはよう! 拓雄君」


「あぁ、おはよう。由香里が来てくれて助かった」


「え? なんで?」


「いや、色々あってな、ここじゃなんだし、早く行こう」


「う、うん!」


 俺は由香里と共に、映画館への道を歩き始めた。


「え!? 知らない女性に話し掛けられた?」


「あぁ、たまにあるんだ……なんなんだろうな?」


「いや……それって逆ナンってやつなんじゃ……」


 由香里と話しをしながら、映画館に向かう。

 休日と言うこともあり、映画館は混雑していた。

 

「結構混んでるね」


「まぁ、休日だからな……そう言えば……」


「な、なぁに?」


「いや、制服姿しか見たことないから、私服が新鮮でな……似合ってるぞ」


「え! あ、ありがと! た、拓雄君も……そ、その……似合ってるよ」


「ありがと。お、そろそろ俺たちの番だな」


 列が進み、俺と由香里はカウンターに向かう。


「学生二枚、お願いします」


「はい、学生二枚ですね。カップル割引になりまして、お会計1800円になります」


「か、かかかカップル……」


「ん? どうした由香里?」


「い、いや……な、なんでもないよ」


 由香里は顔を真っ赤にしながら、財布からお金を出そうとする。

 俺はそんな由香里の手を止める。


「いや、ここは俺が出すよ。誘ったのは俺だし」


「え、そ、そんなの悪いよ!」


 俺は由香里にそう言い、自分の財布から2000円を出す。

 半券を受け取り、俺と由香里はカウンターを後にする。


「い、良いの? 大丈夫?」


「俺はバイトもしてるからな、普通の高校生よりも金は持ってるつもりだから」


 俺は由香里にそう言い、飲み物とポップコーンを買って、指定されたシアターに向かう。


「結構良い席だな、見やすい」


「そ、そうだね……」


 俺と由香里は並んで座り、映画の上映を待った。

 今は上映中の注意事項や予告がスクリーンに流れていた。

 真っ暗な映画館の中、隣の由香里の表情はわからない。

 上映が始まり、俺はスクリーンに集中する。

 映画は恋愛映画で、大学生の恋愛を描いた物語だった。

 笑い有り、涙有りのラブコメディで、なかなかに面白かった。

 上映が終了し、辺りが明るくなり、俺はふと由香里の方を見る。


「面白かったな」


「うん! すっごく面白かった!」


 満足そうに笑顔でそう言う由香里。

 俺は由香里と共に映画館を後にする。

 時間はお昼時、そろそろ腹も減ってきた。


「昼飯、どっかで食べないか?」


「そ、そうだね! どこが良いかな?」


「そこのファミレスで良いか? 悪いな、俺はあんまり洒落た店を知らなくてな」


「だ、大丈夫だよ! じゃあ行こっか!」


 俺と由香里は二人でファミレスに向かった。

 店は混雑していたが、なんとか席に座る事が出来た。

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