第26話
『もしもし? どうしたの?』
「あ、葵! 拓雄君ってどんな服が好きかな!?」
『あぁ……明日だったわね。正直言うと、あいつはどんな服でも気にしないと思うわよ?』
「そうなの?!」
『まぁ、もともと見た目だけで判断するようなやつじゃないからね、いつも通りが一番よ』
「そ、そうかな?」
『そうよ、じゃあ頑張ってね』
「あ! ちょっと!!」
切れてしまった。
私はスマホを耳から離し、ため息を吐いてベッドに横になる。
「はぁ~……いつも通りと言われても……」
そんな事を言われても、やっぱり気にしてしまう。
相手は好きな人な訳だし、少しでも印象を良くしたい。
「うぅ~……どうしたら良いのよぉぉぉ!」
私は頭を抱えながら再び洋服を選び始めた。
*
由香里と出かける日の朝、俺は着替えを済ませて朝食を済ませていた。
「今日はお出かけですか?」
「はい、友達と映画を……」
「それは良いですね、楽しんで来て下さい」
ニコッと笑って最上さんは俺にそう言い、食後のコーヒーを差し出して来る。
俺はそのコーヒーにミルクを入れて口元に運ぶ。
「おかえりは何時頃になりますか?」
「多分夕方くらいになると思います。遅くなるようだったら連絡を入れるようにします」
「はい、お願い致します。そうしないと、旦那様が心配しますので」
祖父は朝から家を出ていた。
なんでも仕事で朝から居ないらしい。
俺は食事を済ませて、食堂を後にする。
部屋に戻り、準備を済ませて俺は玄関に向かう。
「ん……どこ行くの?」
「ん? なんだ早癒か……」
「む……なんだとは失礼……」
「悪い悪い。今日は由香里と映画に行くんだ」
「ん……つまりデート?」
「まぁ、とらえ方は人それぞれだろ? じゃあ、行ってくるな」
「ん……」
俺は早癒にそう言い、早癒の元を後にした。
待ち合わせは駅前の噴水の前だ。
そこなら駅を下りて直ぐなので、待ち合わせには丁度良い。
俺は電車に乗り、約束の駅に向かい、噴水の前を目指す。
「まだ来てないか……」
十五分前、少し早く来てしまった。
俺は噴水前でスマホを操作しながら待っていた。
そんな時………。
「ねぇねぇ」
「ん、はい?」
茶髪女性二人組に声を掛けられた。
なんだろうか?
「君、今暇?」
「私達とさぁ、どっか行かない?」
この人達は何を言っているんだ?
俺たちは初対面なのに……。
「すいませんが、人を待っているので」
「どうせ男でしょ? 良いじゃん、お姉さん達と遊ぼうよ~」
「お金はお姉さん達がなんとかして上げるから~」
「いえ、そういう問題では無く……」
なんなんだろうか?
たまにこう言う人が居るが、一体何を考えているのだろう。
こっちは人を待っていると言っているのに……。
どうしようかと困っている時、向こうの方から由香里が来るのが見えた。
俺は一安心し、茶髪の女性二人組の元を離れる。
「すいません、連れが来たので」
「え、あ! ちょっと!」
俺は由香里の元に駆け寄る。
「お、おはよう! 拓雄君」
「あぁ、おはよう。由香里が来てくれて助かった」
「え? なんで?」
「いや、色々あってな、ここじゃなんだし、早く行こう」
「う、うん!」
俺は由香里と共に、映画館への道を歩き始めた。
「え!? 知らない女性に話し掛けられた?」
「あぁ、たまにあるんだ……なんなんだろうな?」
「いや……それって逆ナンってやつなんじゃ……」
由香里と話しをしながら、映画館に向かう。
休日と言うこともあり、映画館は混雑していた。
「結構混んでるね」
「まぁ、休日だからな……そう言えば……」
「な、なぁに?」
「いや、制服姿しか見たことないから、私服が新鮮でな……似合ってるぞ」
「え! あ、ありがと! た、拓雄君も……そ、その……似合ってるよ」
「ありがと。お、そろそろ俺たちの番だな」
列が進み、俺と由香里はカウンターに向かう。
「学生二枚、お願いします」
「はい、学生二枚ですね。カップル割引になりまして、お会計1800円になります」
「か、かかかカップル……」
「ん? どうした由香里?」
「い、いや……な、なんでもないよ」
由香里は顔を真っ赤にしながら、財布からお金を出そうとする。
俺はそんな由香里の手を止める。
「いや、ここは俺が出すよ。誘ったのは俺だし」
「え、そ、そんなの悪いよ!」
俺は由香里にそう言い、自分の財布から2000円を出す。
半券を受け取り、俺と由香里はカウンターを後にする。
「い、良いの? 大丈夫?」
「俺はバイトもしてるからな、普通の高校生よりも金は持ってるつもりだから」
俺は由香里にそう言い、飲み物とポップコーンを買って、指定されたシアターに向かう。
「結構良い席だな、見やすい」
「そ、そうだね……」
俺と由香里は並んで座り、映画の上映を待った。
今は上映中の注意事項や予告がスクリーンに流れていた。
真っ暗な映画館の中、隣の由香里の表情はわからない。
上映が始まり、俺はスクリーンに集中する。
映画は恋愛映画で、大学生の恋愛を描いた物語だった。
笑い有り、涙有りのラブコメディで、なかなかに面白かった。
上映が終了し、辺りが明るくなり、俺はふと由香里の方を見る。
「面白かったな」
「うん! すっごく面白かった!」
満足そうに笑顔でそう言う由香里。
俺は由香里と共に映画館を後にする。
時間はお昼時、そろそろ腹も減ってきた。
「昼飯、どっかで食べないか?」
「そ、そうだね! どこが良いかな?」
「そこのファミレスで良いか? 悪いな、俺はあんまり洒落た店を知らなくてな」
「だ、大丈夫だよ! じゃあ行こっか!」
俺と由香里は二人でファミレスに向かった。
店は混雑していたが、なんとか席に座る事が出来た。
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