第10話

「ありがとうございます。今日の夜にでも妹を連れてご挨拶に行ってもよろしいでしょうか?」


「わかりました」


 話しをしているうちに、学校に到着した。

 最上さんからドアを開けられ、俺は学校の校門前で下ろされる。

 かなり目立っていた。


「行ってらっしゃいませ、拓雄様」


「あの……帰りもこんな感じですか?」


「こんな感じ……と言いますと?」


 首を傾げる最上さん。

 どうやら最上さんにとって、この送迎は普通の事らしい。

 一般人の俺には正直視線が気になって仕方なかった。


「いえ、なんでも無いです。じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃいませ」


 最上さんに見送られ、俺は教室までの道のりを歩く。

 廊下でも校門でも、みんな俺の顔を見てコソコソ何かを話している。

 まぁ、あんな車で突然登校して来たらそうなるだろう……。


「おい! 拓雄!!」


「ん。なんだ和毅か、どうした?」


「どうしたじゃねーよ! 何一晩で勝ち組になってんだよ! なんだあの美人メイドは! そしてなんだ! あの黒光りした金持ちが乗ってそうな車は!!」


「俺も何か話したら良いかわからん」


「良いから! 長くても良いから話せ! 気になって仕方ないんだよ!」


「落ち着けって」


 廊下で和毅に肩を掴まれ、昨日何があったか迫られる。

 和毅の勢いもあってか、よりいっそう周りから注目を集めてしまった。


「とりあえず教室に行こう。ここじゃ目立つ」


「仕方ねーな」


 俺と和毅はとりあえず教室に向かった。

 教室につき、ドアを開けると一気に自分の方に視線が集まるのを感じた。


「なんだ?」


「もう噂が出回ってるようだな」


「噂?」


「お前があんな登校してるからだっつの!」


 自分の席に座り鞄を置くと、目の前に和毅が座り眉間にシワを寄せながら尋ねてくる。


「で! 何があった?」


「なんで怒ってんだよ……」


「怒ってねーよ! 嫉妬してんだよ!」


「どっちも質が悪いんだが」


 仕方なく俺は和毅に昨日何があったのかを説明する。

 説明を始めると、俺と和毅の周りにはクラスメイトが集まり初めていた。


「……てなわけだ」


「………」


 和毅は口をぽかんと開けて、俺の方を見ていた。


「どうした?」


「お、おまえ……マジで金持ちの家の子になったの?」


「まぁ、そうなるか……だが、俺は別に今までと変わらん、いままで通りに……」


「お前はどんだけ羨ましい境遇に居るんだよ!!」


 俺の言葉を遮って和毅は大声を上げる。

 周りのクラスの男達も和毅の言葉にうなずく。


「顔が良くて、成績も良い! しかもモテる! この時点でお前は俺たち健全な男子高校生の敵なんだよ!」


「俺も健全な男子高校生なんだが」


「その上金持ちだとぉ!? ふざけるな! 羨ましすぎるわ!」


「お前彼女いるよな? どっちかって言うとお前の方が人間としては勝ってるんじゃないか?」


「それはそれ、これはこれだ」


「後ろの葵はそうもいかなさそうだがな」


「へ………」


 和毅は俺に言われ、恐る恐る後ろ向く。

 そこには眉間にシワを寄せて不機嫌そうに和毅を見る葵の姿があった。

 その後ろには、由香里の姿もあった。


「あ、葵……おはよう、今日も可愛いね」


「そんなに羨ましいなら、アンタも浮気でもなんでもすれば?」


「ち、違うんだって! 別に拓雄がモテるのが羨ましいわけじゃなくて……」


「どうだか。確かに私は可愛げ無いもんね」


「誰もそんな事言ってないだろ?」


 また痴話喧嘩が始まってしまった。

 いつもの事ながら、これで良く二年も付き合っているものだ。

 俺がそんな事を考えていると、話しを聞いていた女子が何やらこちらを見てコソコソ話しをしていた。

 何を話しているのだろか?

 俺の顔に何かついているのだろうか?





 あっという間に一日が終わり、俺は帰りの支度をして帰ろうとしていた。

 迎えに来ると言っていたし、あまり待たせるのは悪いだろう。


「拓雄、もう帰るのか?」


「あぁ、迎えが来るんだ」


「至れり尽くせりだな」


「そうだが、待たせるわけに行かないだろ?」


「そういう事なら当分は、一緒に遊びに行けなさそうだな」


「あぁ、落ち着くまではな」


「なんだよつまんねーの」


「お前には葵がいるだろ?」


「まぁ、そうだけどよ……」


 そんな事を話しながら、俺達は昇降口に到着した。

 俺はいつものように靴を取り出そうと、自分の下駄箱の扉を開ける。

 すると……。


「マジか……」


「うわ! なんだこれ!?」


 下駄箱の中には、数多くの手紙が入っていた。

 可愛らしい封筒ばかりで、不幸の手紙とかでは無かった。


「これは」


「あぁ、全部ラブレターだな……イケメンで勉強も出来て、おまけに金持ち……女の考えることは単純だな」


「はぁ……全部に返事をするのは大変だな」


「はぁ!? 全員に返事をするのか!?」


「あぁ、一応な」


「マジかよ、一日では絶対無理だぞ?」


「でも、一応は答えないとな」


 俺は鞄にとりあえず手紙をしまい、一旦その場を離れた。

 俺はとりあえず手紙を確認し、今日の呼び出しに応じる事にした。


「えっと……これとこれ……あとは……」


「おいおい、迎えも来るんだろ? 無理すんなって」


「昨日みたいな事になりたくないんだよ」


「あぁ、葵から聞いたよ。由香里ちゃんだっけ? 知ってるか? あの子って二年で一番可愛いって言われてる子なんだぞ?」


「そうなのか? 知らなかったよ」


 昇降口を出て、グランドの隅の方でラブレターを一枚一枚呼んでいた。

 すると、突然誰かが俺と和毅の前にやってきた。


「ん? あぁ、由香里か」


「こんにちわ拓雄君。な、何してるの?」


 やってきた由香里は、顔を赤く染めながら笑顔で話しかけてきた。

 和毅は何やらニヤニヤしていた。


「まぁ、ラブレターを見ているな」


「そ、そうなんだ……大変だね……量が多くて」


「あぁ、でも昨日みたいになりたくないからな」


「へ、へぇ~そうなんだ……」


「あぁ、由香里は今帰りか?」


「う、うん。そうだよ」


「じゃあ、気を付けて帰れよ」


「あ、ありがと……」


 俺は由香里にそう言い再びラブレターに目を通した。

 すると、和毅が大きなため息をついた。

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