第13話

「いや、必要無い」


「ある」


「絶対に無い」


「……ある」


 しまった、泣きそうだ。

 しかし、背中を流すと言うことはお互いに裸と言うこと。

 百歩譲って、早癒が水着か何かを着たとしても結局俺は裸だ。

 それは色々とまずい、年齢的にも……。


「あぁ……気持ちは嬉しい……仕事を頑張ろうとする気持ちもわかる。しかしだな、同じ年頃の男女が同じ風呂に入ると言うのは問題だ」


「……仕事だから」


「メイドの仕事はそんな破廉恥なものじゃないと思うが……」


「……私は気にしない」


「俺が気にする。そうだな……じゃあ、俺が風呂に入っている間に、そこの段ボールの中の物を出して、段ボールを片付けて置いてくれないか?」


「……わかった」


 そう言って早癒はこくりと頷き、段ボールを開けはじめた。

 俺はその隙に風呂場に向かい、入浴を済ませに行く。

 

「はぁ……あの子、なんだか仕事に関しては頑固そうだな……」


 俺は先ほど初めて会った早癒について考えていた。

 髪は少し短めで、小柄で俺と同じくあまり表情を変えない。

 正直、高一かと思ったがまさか同い年とは……。

 そう言えば学校には行ってるのだろうか?

 俺はそんな事を考えながら、風呂から上がり部屋に戻る。


「………」


「………」


「……一つ聞きたい」


「……なに?」


「……なんでこうなった」


「………ごめんなさい」


 部屋に戻った俺を待っていたのは、散らかった部屋だった。

 俺はただ段ボールから物を出して、段ボールを捨てて欲しいと言っただけなのに……。


「……今すぐ片付ける」


「そうだな、一緒にやろう」


 俺がそう言うと、早癒は首を横に振った。


「これは………私の失敗……ご主人様は……関係無い」


「いや、俺の部屋だし、二人の方が早く終わる。それに失敗は誰にでもある」


「………」


 俺はそう言って、部屋の片付けを始める。

 早癒も掃除を手伝い、一時間ほどで片付いた。

 開けていなかった段ボールも片付けられたと考えれば、プラマイゼロだろうか?


「お疲れ様、時間も時間だしもう良いぞ」


「………怒らないの?」


「怒る? 別に気にしてないし、怒らないぞ? それに初めての仕事だったんだろ、失敗しても仕方ない」


「………ありがと」


 早癒はそう言って、微笑む。

 なんだ、こいつは笑えるんだな。

 俺は何となく安心してしまった。


「でも、失敗は失敗……ご主人様に……何かお詫びする」


「いや、お詫びと言われても……」


「お詫びに………私の体で……」


「おい」


「痛い……」


 俺は自分の服を脱ぎ捨てようとする早癒の頭にチョップを食らわせる。

 俺はどこの変態だっての……。


「そういうことは一番ダメだ」


「……なんで? 男の子はこう言う事が……好きって聞いた」


「そういうのが好きなのは、一部の特殊な男達だ。俺はそういうことは望まない」


「むぅ……やっぱり……胸が……」


「そういう事じゃ無い……」


 早癒は自分の胸を見ながらそう言う。

 確かに早癒の胸は、あまり発育の良い方では無いが、別にそういう意味で言った訳では無い。


「はぁ……もう良いから、部屋に帰って寝たほうが良いぞ? 早癒も明日は学校だろ?」


「うん……じゃあ、お休み」


「あぁ、お休み」


 早癒はそう言って俺の部屋から出て行った。

 まだ仕事に慣れていない様子だが、悪い奴ではなさそうで良かった。

 俺はベッドに横になり、ふとスマホの時計を見る。


「はぁ……寝るか」


 なんだか今日は少し疲れてしまった。

 俺は体の力を抜き、目を閉じて眠りに付く。







「あら? 挨拶は終わったの?」


「うん……お姉ちゃん」


「どうだった? 上手くやれそう?」


「うん」


「そう、良かったわね優しい子で」


「……うん」


「明日から頑張ってね、転校の手続きは終わっているそうだから」


「うん……頑張る」


 私は今日、初めてお仕えするご主人様と対面した。

 最初の印象は、少し怖い人かと思った。

 しかし、全然そんな人じゃなかった。

 表情が硬いだけで、中身は優しい人だった。

 私が言うのもなんだが……。


「それじゃあ、貴方も今日はお風呂に入って寝なさい、明日も早いからね」


「うん……」





 翌朝、俺は思わぬ事実に頭を悩ませていた。


「早癒」


「はい」


「お前がなぜうちの高校の制服を着ている?」


「今日から………転校するから」


「なるほど」


「うん」


「………」


「………」


 いや、まずいだろ?

 恐らく俺の身の周りの世話をする為に編入したのだろうが、俺の通う北上沢高校は普通の高校だ。

 クラスメイトに「この子俺のメイドなんだ」なんて紹介したら、色々と面倒な事になる気がする。

 特に和毅と葵辺りが……。


「………あー、早癒」


「何?」


「学校では俺とお前の関係は内緒だ」


「? なんで?」


「一般人はメイドと言う職業の人間を見慣れていない。だから誤解を受けることも多い。だから内緒だ」


「ご主人様がそう言うなら……わかった」


「そのご主人様もやめよう、俺の事は拓雄って名前で呼んでくれ」


「……でも……ご主人様には敬意を示すのがメイド……」


「じゃあ、命令する。ご主人様は禁止」


「………うん」


「よし、じゃあ行くか」


「うん」


 俺は早癒にそう言い、車の乗って学校に向かった。

 車の中では、最上さんがチラチラこちらをバックミラー越しに見ていた。

 きっと妹の早癒がしっかりしてしているか心配なのだろう。

 学校に到着し、相変わらず注目されながら車から降りた。

 もちろん、早癒も一緒に……。


「あ……」


 この時点で俺はしまったと思った。

 なんで一緒に車で登校してきたのか、普通の人間なら気になって当たり前だ。

 しかも、俺の視線の先には和毅と葵の二人と、真っ青な顔の由香里がいた。

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