そう囁くのよ。私のゴーストが…。

物理本格ミステリー。机上の空論で考えていても犯人は特定出来ません。何故なら、凄く絶妙な加減で作者様から罠を仕掛けられているからです。ミステリー系のレビューですので、ネタバレに繋がる事は言えないのですが、真相編直前、犯人に至る事実が提示された段階でなんと…本作は読者に挑戦状を叩きつけてきます。

ぽやっと読んでて、私の中のゴーストが特定の人物を指していましたが、他の人がそうでは無い確証も無く、真相編を読めば真実は明らかになるだろう、しかし、本当にそれでいいのか?

サイコ寄りとはいえ、私もミステリー書きの端くれ…この喧嘩、買った!

そして、私は真相に行く前に、今まで起きた事をまとめ、一つ一つの事実を精査していきました。

なかなか大変な作業でしたが…提示されている情報と、未だ確定していない情報が混在している中、私はミステリーの作法的にアンフェアな要素を省き、照らし合わせた結果ある事に気付きます。

もし、私の予測が符合しているのだとしたら……なんとミステリー的にフェアであり、なんとグレーゾーンのギリギリを突いてくるのかと愕然としました。

気を抜けば、殺られる……。

そしてもう一つ気付いた事がありました。本作に必要なのは探偵としての鋭い勘や洞察力では無く、地道な擦り合わせ作業です。それはまさに、作中の捜査に関わった刑事の一員となり、泥臭い作業の中で垣間見えた一筋の僅かな真実でした。

そう、一番大事なのは忍耐力でした。

それを裏付ける用に刑事や、特別室の二人も血眼になって捜査をしています。それは何より、理不尽に命を奪われた物言わぬ被害者の女性の為にです。

本格寄りのミステリーともなると、舞台装置である被害者はただのオブジェ。そこに血が通っている事なんて関係ありません。しかし、本作では本格でありながら、きちんと被害者側の視点も盛り込んでいます。

被害者の彼女の言葉はもう聞けませんが、言葉にならない何かが私や作中の人物に囁きかけてきた様にも思えます。

主人公のお二人について。

特別室の琴子さん、ちょっと密室要素でトリップしちゃいますが、それはそれ。親の七光りもあるかも知れませんが(警察では大事な事)そこで働く理由がきちんとあるのです。

特別室に配属された主人公は規格外な彼女に翻弄されつつも、甲斐甲斐しくその任を全うします。

さぁ、賽は投げられました。
どうするかはアナタ次第です。

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