剣と魔法の世界はすでに崩壊した。蒸気機関、活版印刷、銃器、そしてメートル法。
かつて救国の英雄といわれた魔女のメイルゥも、いまや半分ボケたお婆ちゃん。だが、齢200歳といわれる彼女は、精霊石の力により不老不死を手に入れているとか、いないとか。
戦争が終わり、街には科学と産業革命の足音が響いているが、まだまだ暴力と悪意は消えていない。そんな世界で、時間に取り残されたように生きる異物ともいえる魔女メイルゥ。本物の魔法使いと噂される彼女と、街で出会う、やはり彼女のように時代に馴染めない者たちとの出会いの物語。それは古い時代への憧憬なのか、それとも新しい時代への警鐘なのか。
やがて変わろうとする時代と、その中で翻弄される人々と、魔法使いであるお婆ちゃんの出会いを描いた、これは「物語り」です。
周囲に満ちた魔法力の状態によって、若くなったりお婆ちゃんにもどったりする魔女メイルゥの活躍が楽しいです。
魔法を扱うことで長きにわたり国を守護してきた魔女メイルゥは、国民から救国の英雄として崇められ、慕われている。しかし世界は剣と魔法の時代から産業化の時代へと移行し、魔法を使う力ともいえるルツや精霊石は人々の暮らしを支える燃料となった。すっかり隠居したメイルゥは田舎街で第二の人生を歩もうとしていたが、ほっとけない姐御肌の性分から出会った人々を見守り、世話していく。
魔法を扱える存在はもうほとんど残っていない代わりに、人々は産業化で豊かになった。戦争のない時代を生み出したメイルゥに国民は感謝を述べます。さぞかし魔女メイルゥは万能で強いおばあちゃんかと思ったのですが、読んでいくとこれはそういった類の「力」を見せる物語ではないと気づきます。出会う人々はいまだ貧困の差が埋まらず、過酷な環境に生きている。現代のスキルでは治療できない病に苦しめられている。そんなままならない世界を見て、歯痒い思いをしながらも、出会いと別れを繰り返していく。万能ではない魔女の愛おしい物語です。
200年もの長い間「救国の魔道士」として活躍をしてきたメイルゥが、任を解かれて新天地で生きていく、その道程の物語。
メイルゥと、新天地に向かう列車の中で出会った青年フレッドとの恋模様に着目する読み方もありますが、私が特に注目したのは、この作品に込められたある種の皮肉……風刺のような部分でした。
ネタバレ回避のためどういう部分かというのは伏せますが、M.エンデの『モモ』が好きな人には特に感じるものがある作品です。
もちろん『モモ』みたいに長い作品、読んでられないよ!っていう方にもお勧め。
「時代と戦う」
この意味がずしんと心に響く名作です。
魔女、精霊石、蒸気機関車、狼男に黒い猫。
ファンタジーとしてオーソドックスな内容を含ませつつ、揺蕩う時代の移り変わりをしっとりと書き上げた挑戦的なノストラジックロマンファンタジー。
全体的にゆったりと流れていく物語の中で、時折スパイスとして非情なダークマターを生地に混ぜ込んでくる真野てんさんのやや焦げた手作りクッキーと言ったところでしょうか。(←何を言っている?)
二百年という時の中、魔女のメィルゥは彼方の時の中で交わした人々の約束や思いを継ぎ、時代を次へと引き渡した。自由の身になった彼女は自分が何を守り続け、そして何が変わっていくのかを見届ける為に世界を巡る。
その先で彼女が出した答えとは?
どうしようも無く愚かでそして愛すべき人間。
彼等は防国の英雄の目に何を映し出すのか。
魔女とは?魔法とは?世界とはなんだ?
ちょっぴり不意にダークです。
ネタバレしないように私が語れるのはここまでです。
精霊物語れないです。
婆を語りつくしているのは間違いありませんが。
真野てん渾身のハイファンタジー。
文明の原動力が胡散臭い魔法から計算と技術である科学に移り変わる時代。それに飲み込まれようとし、また抗おうとする人々の姿を悠久の時を生きる魔女メイルゥの視点から語るというスタイル。
敵は時代とあるが、時代と戦っているのは同時代の人々、イコールメイルゥ以外の人物全員。その姿は現代に生きる我々の姿と重ねることが出来る。だから異世界ものなのに妙に親近感が登場人物たちにわくであろう。
派手な戦闘シーンとかもあるが、この物語の一番の売りはやはり時代に翻弄される人々の群像であろう。読者よ、身構えて読むべし。さもなくば中盤、作者に殺意が沸くであろう(なぞ)。
世界は魔法至上の旧時代から、蒸気機関隆盛の新時代へと移り変わっていた。
物語は、国の魔導士として200年もの長きに渡り、たった一人で国を護った魔女メイルゥが、他国の圧力に依ってその任を解かれ、列車で王宮を離れるところから始まる。
魔法を駆使して国を護った彼女が、新時代の象徴である列車に乗って都落ちするというのもいかにも皮肉な話である。
しかし奇妙なことに、200年の間、魔導士として国の中枢で辣腕を振るっていたというのに、列車に揺られるメイルゥは、どう見ても十五、六歳の愛らしい少女にしか見えなかった。
この冒頭だけでもワクワクする要素が満載なのに、読み進める度にワクワクが二倍、三倍、いや、二乗、三乗に膨れ上がるのだから、始末が悪い。
それは、心地よい文章であり、心躍る設定であり、愛すべきキャラクターであり、心揺さぶるストーリーであり、それら全ての要素が絶妙のバランスで組み合わさった相乗効果の賜物である。
そのクオリティの高さは、流石に作者氏をして、数年かけて構想を練り上げたということだけはある作品だ。
もし、貴兄が本作を未読ならば、冒頭からラストまで読む手が止まらず一気読みしてしまうことだろう。
そして、読み終えた後こう言わずにはいられないに違いない。
もっと、続きを!
それは、この作品を読了した者が等しく口にする言葉であり、当然、私も同じ台詞を口にした一人である。
願わくば、続編を期待したい。
そう思わずにはいられない作品である。
強大な魔王も、大空を舞うドラゴンも出てこない異世界ファンタジー。
なのに、ここまで読ませる世界観がとてつもなく素敵です。
時代背景は、産業革命期をモチーフとした、魔法から科学への過渡期。
偽りの魔法は廃れる一方で、蒸気機関を始めとした技術が世界を動かしていきます。
主人公となるメイルゥは、200年もの間、一国を一人で守り抜いた大魔導師ですが、魔法主流の時代が終わりを告げると共に、ようやく一人の人間として人生をリスタートさせます。
そんな彼女の目を通して描かれる世界は、時に残酷で、時に物悲しい。
特に、時代の変化についていけない人々の悲惨さは、読んでいて気が沈みそうになります。
けれど、全体を通してそう感じさせないのは、メイルゥの人柄が理由なのだと思います。
口で言うことは厳しいのだけれど、心の奥にはちゃんと愛情がある。
子供を無条件に甘やかさず、転んだ我が子が自力で立つまで、黙って見守る母親のような優しさを持っています。
そんな彼女だから、自然と人に慕われ、人が集まってくるのでしょう。
そんな彼女と共に、この独特な世界を歩いてみるのはいかがでしょうか。
きっと新しい発見があるはずです。
魔法の時代から近代化が進む蒸気の時代への転換期。
200年もの間国を守っていた魔道士メイルゥは旅に出る――
ルツの濃度で年齢――外見が変わってしまうメイルゥの細かな描写は胸に刺さり、世界の変わりように驚く姿は共感できます。
そんな彼女も常に強気な口調であらゆる人物と接し、逞しく生きている一面も見ることができました。
他の登場人物も個性的な人物ばかり。
浮浪児からメイルゥのかけがえのない存在となるサラや小説家のエドガー、もふもふな人狼卿ルヴァンなどなど。
そして、タイトルの通り「精霊」もしっかり登場します。
もちろん、メイルゥによるアクションも満載で飽きさせないつくりになっています。
各章五話構成で綺麗にまとめられていますので、ぜひご一読ください。
魔法って、いつか解けてしまうもの。
シンデレラの魔法は12時になったら解けてしまう。
私たちは、子どもから大人になる過程で、世界中の不思議を説明できるようになってしまう。つまり、魔法が解けてしまう。
魔法がいつか解けてしまうものだから、魔法にかけられている間はワクワクする特別なひとときです。だから、魔法が解けてしまうのは、なんだかとても寂しいですよね。
この精霊物語りも、そんな魔法が解けてしまう物語りなのかもしれません。
魔法の時代から、科学の時代へと移り変わる時代。200年もの間、国を守り続けた偉大なる魔術師も、過去の存在になってしまう。それだけで、魔法にワクワクしていた――あるいは、まだ魔法にワクワクする人は、切なくなってしまうのではないでしょうか。
これは、そういう物語り。
偉大なる魔術師メイルゥが、受け入れていく世界の流れの中に、私たちは大切なものを見つけられるかもしれません。
ぜひご一読を。
このお話は魔道士として200年国を守ってきたメイルゥが、お役御免となり在野にくだり旅をする話です。
読んでみて驚いたのが、圧倒的文章力と重厚な世界観、そして魅力的なキャラクターたちです。隙がありません。
特に目を引くのが重厚な世界観。
戦争の同盟国から技術や単位が流入し、精霊石採掘の産業が興り、時代はまさに混乱期。
そのひずみは当然のように現れます。難民同然の外国人に、戦争孤児、ゴロツキに浮浪児、鉱山からの虐待から逃れてきた子供たち。
その苦境にあえぐ人々を正面から書き切っている様に感銘を受けました。
またキャラクターも魅力的です。
主人公のメイルゥは、魔力(ルツ)の濃度によって若返ったり、年老いたりする性質の持ち主。若いときは妖艶な美女で、美貌の迫力にごくりと喉が鳴りますし、おばあちゃんの姿になるとおもわず手を差し伸べたくなるほど可愛いです。
名前のないキャラも生き生きとして、物語を読む手が止まりませんでした。
今このレビューを書いている時点では第五話まで発表されています。
ハイファンタジー好きの方、ぜひ本作を読んで、時代の過渡期を一緒に見届けましょう!