時代の観測者、世の趨勢を見届ける。

 魔法を扱うことで長きにわたり国を守護してきた魔女メイルゥは、国民から救国の英雄として崇められ、慕われている。しかし世界は剣と魔法の時代から産業化の時代へと移行し、魔法を使う力ともいえるルツや精霊石は人々の暮らしを支える燃料となった。すっかり隠居したメイルゥは田舎街で第二の人生を歩もうとしていたが、ほっとけない姐御肌の性分から出会った人々を見守り、世話していく。

 魔法を扱える存在はもうほとんど残っていない代わりに、人々は産業化で豊かになった。戦争のない時代を生み出したメイルゥに国民は感謝を述べます。さぞかし魔女メイルゥは万能で強いおばあちゃんかと思ったのですが、読んでいくとこれはそういった類の「力」を見せる物語ではないと気づきます。出会う人々はいまだ貧困の差が埋まらず、過酷な環境に生きている。現代のスキルでは治療できない病に苦しめられている。そんなままならない世界を見て、歯痒い思いをしながらも、出会いと別れを繰り返していく。万能ではない魔女の愛おしい物語です。

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