「理解」したとき、世界が変わる

 ある日の夕方、地方局の楽屋にて。芸人の木田は収録の待ち時間に置いてあった雑誌を適当に読んでいた。以前に受けたインタビュー記事が載っていて、「そんなこともあったっけか」となんとなく思い返す。壁掛け時計は十八時過ぎを指し示している。収録までまだしばらく余裕があるなと思いつつ、木田は座り心地の悪い椅子の上でひとり目を閉じた。

 4000字弱の小説なのですが、文字数以上の濃度を味わえる小説です。読了後、何度も読み返して、その余韻と意図するところを繰り返し問い直していました。苦みを感じる、読者に「理解」することが求められる小説だと思います。今作に関して言うならば、物語冒頭から漂っているなんとなく不穏な空気を感じ取りつつ、ではその不穏の原因とは何なのか、その意図するところを文章から読み取る必要があります。それを理解したとき、物語の構成も加わって、震えにも似た感動が襲い掛かってくるのではないでしょうか。難解ではありますが、だからこそ一文の重みが異なります。その「わかった」瞬間が個人的には最高潮でした。