四季と色彩が美しい物語

記憶喪失のキーパーソン、アンナ・ビルツと、彼女を狙う暗殺者を軸にした魔女の物語です。

五感で感じる小説、という触れ込みのものもありますが、今作は特に視覚と触覚(というか季節の移り変わりによる温度差)を感じやすい描かれ方をしているなあ、と感じました。序章は冬の季節で、寒々とした光景と二人の関係性がリンクしているのもより魅力的かつ効果的に思えます。この二人の、気安くなりそうで突き放されるような絶妙な距離感に、私自身何も信じられなくなるような、人間関係のハラハラした部分を読んでいる気がして、これからどうなるのかと気になって仕方がありません。

そして、第二章からの一気に華やぐ感じが、序章とあらゆる部分で対比を感じますし、明るく賑やかなはずなのに常々まとわりつく感覚もまた、物語として先を読ませたくなる構成、展開なのだなと感じています。季節が移ろうなかで、それぞれがどのように変わるのか、あるいは変わらないのか、ハラハラとワクワクとドキドキを抱えながら読み進めたいと思います。

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