警察庁広域重要指定事「花師殺人事件」。約1年前から東京で断続的に続く猟奇殺人事件である。被害者の遺体は激しく壊され、遺体を花器に見立てて無数の花を突き立てる。切断された身体の部位も花と共に生ける、そのあまりに凄惨な死体の創作者を、世間はいつしか「花師」と呼ぶようになっていた。4人目の死体が発見された頃、インターネットでは次の標的を匂わせるような投稿がされる。骸骨のように痩せこけた顔をした元警官の探偵・佐木涼介は、花師殺人事件に強い興味と執念を覚え、警察官の近藤らに協力しながら花師を追っていく。
主人公・ザギをアンチヒーローとかダークヒーローと分類することはできますが、彼についてはそういったラベルをつけずに一個人として見ていった方がより人間的魅力を感じられると思います。悲しい過去を持ち、暗い感情を抱いたまま事件に執着する痩せこけた男、でも目は野心的な意味でギラギラしている。ただ、その「執着」というのがポイントで、この物語は狂気と執念のぶつかり合いだと思っています。何が何でも、どんな手段を使っても花師を特定するというザギの狂気・執念と、作品を発表しながら不特定多数のファンを唆す花師の狂気・執念。それらがぶつかる主戦場が匿名性のあるインターネットというのも、お互いに仮面を被りながら見えざる敵とバチバチにやり合っているのが伝わってきます。どちらの狂気が上回り、どちらの執念が勝るのか。ひりつくようなスリル、一瞬も気を抜けない異次元の駆け引きにハラハラします。