少年少女の関係を徹底的に掘り下げた物語
- ★★★ Excellent!!!
森の奥深くにある古城には魔女が住んでいる。そんな噂が囁かれる森で道に迷ってしまった盗人の少年アルテは、古城で無機質な少女と出会う。黒髪が印象的な少女は作り物めいており、感情をほとんど表に出さず自らを「魔女の所有物」だと答える。名前を持たない彼女にアルテはティアと名付け、友達になろうと気まぐれな交流を始めた。ティアは少しずつアルテに心を開いていくが、魔女の呪いと通り魔の噂が二人の関係性に影を落とす。
ボーイ・ミーツ・ガールを丁寧に緻密に描いた物語だと思います。アルテとティア、二人の境遇はいずれも恵まれたものとは言えませんが、心に傷を持ち、過酷な環境に生きてきた二人の交流に焦点を当てて展開されていきます。そういった意味では、この小説はミニマムなものだとも言えます。人々が怯える魔女の存在も、街を脅かす通り魔の存在も、アルテとティアの関係性を描くための乱暴に言ってしまえばサポートでしかない。それはとても贅沢でありますが、だからこそ二人の物語をより深く、徹底して読み解くことができるのだと思います。個人的には非常に効果的に作用していると思います。一本筋が通っており、その筋が非常にわかりやすい。そういった意味でも読みやすく没入感がありどんどん引き込まれてしまいます。