彼女はこの国の”母”となったのだ。

強大な魔王も、大空を舞うドラゴンも出てこない異世界ファンタジー。
なのに、ここまで読ませる世界観がとてつもなく素敵です。

時代背景は、産業革命期をモチーフとした、魔法から科学への過渡期。
偽りの魔法は廃れる一方で、蒸気機関を始めとした技術が世界を動かしていきます。
主人公となるメイルゥは、200年もの間、一国を一人で守り抜いた大魔導師ですが、魔法主流の時代が終わりを告げると共に、ようやく一人の人間として人生をリスタートさせます。
そんな彼女の目を通して描かれる世界は、時に残酷で、時に物悲しい。
特に、時代の変化についていけない人々の悲惨さは、読んでいて気が沈みそうになります。
けれど、全体を通してそう感じさせないのは、メイルゥの人柄が理由なのだと思います。
口で言うことは厳しいのだけれど、心の奥にはちゃんと愛情がある。
子供を無条件に甘やかさず、転んだ我が子が自力で立つまで、黙って見守る母親のような優しさを持っています。
そんな彼女だから、自然と人に慕われ、人が集まってくるのでしょう。
そんな彼女と共に、この独特な世界を歩いてみるのはいかがでしょうか。
きっと新しい発見があるはずです。

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