第20話 最後の決断

コマペンとのラストバトルか……。どうなることやら。体調は万全ではない。もう少し眠ろう。

二時間ぐらい経過しただろうか。僕はアイカに起こされる。アイカは言う。

「何寝てるんですか! ロランさんなら、もう向かいましたよ」

僕は言う。

「そうだったのか。しかし、勝ち目はあるのか? コマペンは、どれほどの強さだろう」

キラーが言う。

「俺がとどめを刺す。最強の存在の断末魔とは一体どんなものだろう? クククッ。殺意はこの世界から消えることはない」

僕は言う。

「平和の意思もな。だが、それを覆す!」

アイカが言う。

「もう、この二人にこれ以上の言葉は必要ないみたいです」

そして、寂しそうな瞳をのぞかせる。しかし、その表情には強い意志も感じた。ナナが言う。

「最後の時を見逃したりはしない。ナイトは、ローズ様はバランスを破壊するのを守ってくれる。破壊することを、許してくれる」

そう言って遠い目をしている。僕は言う。

「僕達も行くぞ。この戦いがラストではない。僕は戦い続ける。その権利を勝ち取るんだ」

「望むところだ、ライバル!」

ナナが言う。

「フフッ、ベストコンビだよ、お前達は」

コマペンとのバトルに選ばれた舞台は、海に近いところだった。コマペンも何時か見た景色なのだろうか。心の元か……。平和の意思に逆らう者、負け犬同士の戦いが切って落とされる。

ロランさんが言う。

「きさまがシロクマか。キングをなめるなよ」

シロクマが答える。

「相手に不足なし。オレの本能がそう告げている。キングか。ナイトとは違う頂点か……」

ロランさんが言う。

「そう、オレは自由を求める」

「そうはさせない。強化されたオレのロボットをなめるなよ」

ロランさんvsシロクマか。ロランさんは、僕達に手を出すなと言っていたな。ついでにコマペンも倒すと言っていた。キングビームがシロクマを襲う。凄まじい威力だ。キングはどうやって、シロクマとの体格差を埋めるつもりだろう。僕の出番は、なくてもいいさ。しかし、何故か戦う定めにあるような気がする。

シロクマが言う。

「何故だ、何故当たらない? オレの心が読まれているようだ。しかし、オレは負けない。コマペン様を、この世界を守る騎士となろう。肉体も無くていいんだ」

コマペンが言う。

「それは違うよ、シロクマ。心だけでいい訳がない。いや、それは心ですらない。ふれ合う喜び、僕は忘れていないよ。畑を耕した時の達成感も忘れない。思い出と共に僕は行く。体と体がふれ合う時、特別な心が生まれるんだ。でも、僕はわがままだ。僕の想いをぶつけても意味はない。肉体と肉体の、力と力の戦いが何を生むのか、解らないけど……」

コマペンは、本当は解っているんだ。しかし、ぶつけなくてはならない不器用な存在なんだ、僕達は。

シロクマのラッシュも、ロランさんはものともしない。ロランさんは言う。

「かなり消耗するな。鍛え方が足りなかったかな」

キングキャノンがシロクマを襲う。シロクマが押されている。冒険者の知識と勘と経験が、シロクマを圧倒する。しかし、シロクマのパンチがキングを捉える。キングは吹っ飛ばされる。シロクマはそれを追撃する。しかし、ロランさんはすぐに体勢を整える。さすがとしか言いようがない。どうする、シロクマ? ロランさんが言う。

「キングソードの餌食にしてやる。それと、シロクマよ、知識を共有しよう。お前達の描いた未来、そしてローラの望む世界。心だけの世界にも医者はいるよな。精神病だけじゃない。お前の歩いた道に落ちていたもの。それは、心を落ち着かせる草。心だけでは成り立たない。バランスを取る? 世界の? ならば、そんなものいらない」

シロクマは言う。

「さすがだな。オレはただ歩いてきたのではないことに気づかされた」

コマペンが言う。

「シロクマ。僕達の歩いてきた道、きっと多くのものを見逃している。でも、みんなと一緒なら気づけるよ」

ビームが飛び交う。シロクマは接近戦に持ち込もうとする。しかし、ロランさんはそれを許さない。ロランさんは言う。

「そろそろくたばれ」

「守る者も引けないのさ」

「ほざけ!」

シロクマが押されている。しかし、シロクマは僕達の時より強くなっている。ロランさんが言う。

「負けを認めろ、シロクマ!」

「認めているさ。だが、コマペン様を守るまで引けない」

ロランさんが言う。

「そうか。ならばきさまの道を断つ」

「そんなことは絶対出来ない!」

シロクマは答える。キングが接近する。シロクマがそれに飛びついた。しかし、ロランさんはすぐに距離をとりビームを放つ。タフだな、シロクマ。さすがのロランさんも疲労を隠せない。しかし、最強の称号は、僕に譲って貰えそうにない。ロランさんは、メチャクチャ強いな。

コマペンが言う。

「シロクマ。よくやったよ。僕が出る」

シロクマは言う。

「まだオレは生きている。戦えます」

コマペンが言う。

「知っているよ、そんなこと。落し物を探せ、シロクマ」

シロクマが言う。

「落し物ですか?」

「そうだ。過去を振り返るんだ。何か落としているだろ。みんなそうだよ」

ロランさんが言う。

「オレも疲れた。探し物をするんで、替われカメタ達」

「はい」

と、僕とアイカは言う。キラーは、

「殺す!」

と叫ぶ。一人だけ、なんか違うことを叫んでいたな。ここはスルーだ。ギア六で突っ込むんだ。コマペンは、どんな戦いをするんだ? 僕は、変幻を百二十メートルにまで巨大化させる。しかし、コマペンはかわそうともしない。ロボットとはいえ、素手で受け止められた。力が入らない。コマペンの小さなロボットに、傷一つつけられない。

キラーが言う。

「くっ。的が小さい。しかも、速すぎる。しかし、殺す!」

アイカが言う。

「バテるのを待つのですか?」

僕は言う。

「負け犬達の戦いだ」

コマペンが言う。

「そう、負け犬のね。平和の意思は許さないのさ。この戦いの先にあるものを認めざるを得ない。そんな戦い。多数決は優しさだけではひっくり返りはしないんだ。意味を持て。全てのものに、意味は、理由はあるのだから」

カメットが言う。

「行くよ、カメタ。守る力は両刃の剣。僕は、その覚悟を何度も見てきた。カメタだけじゃない。僕を操縦してきた全てのいかれたヤツらから見てきたんだ。もっと、いかれよう。大丈夫だよ。カメタの意思はそこにある」

アイカが言う。

「ならば、私の意思もここにあります」

カメットが言う。

「アイカは力をくれるかい?」

「もちろんです」

アイカはそう言って、歌を歌い出す。この歌は、負け犬達の歌。カメットの性能は大きく上がる。しかし、ギア六にこれが加わり、負担は凄いことになっている。扉を貫く絵。それはきっと託された。ゼウスもマリアも、もう必要ないことを証明する。僕は言う。

「もっといかれよう、優しい世界を作るため。落ちているものを見逃してもいいんだ。誰かが見つけてくれる」

キラーが言う。

「殺意の炎が優しさを燃やし尽くす」

これが最強のトライアングルだ。僕が引き付ければ、サツイのビームがヒットするはずだ。アイカは癒しの歌を歌う。僕にはほとんど聞こえない。ビームがコマペンにヒットする。サツイのビームだ。カメットは、コマペンに貫かれる。アイカが心配そうに叫ぶ、

「兄さん、生きていますよね!」

僕は答える、

「ああ。このままでは終わりはしない!」

キラーが叫ぶ。

「くっ、何だこいつのビームは。何処を狙っている? まさか……」

コマペンのビームは何なんだ。透明のビームと普通のビームを使い分けている。見えなきゃかわせないだろう。ならば、突き進む! 変幻を振り下ろす。

ロランさんが言う。

「カメタ、やっぱり代われ。最後の決断が出来ていないようだな」

再びロランさんが戦場に立つ。そしてキングも。僕は休もう。最後の決断か……。それは、きっとどこかに落としてしまったんだろう。キングのビームが、ウソのように簡単にコマペンにかわされる。コマペンのクローが、キングに決まる。そして、切り裂かれる。ロランさんが言う。

「ふふふ。やるなコマペン。そして、カメタは不安なのか?」

「不安なのかも知れません……」

「そうか」

ロランさんは、それだけ声を漏らした。

コマペンは強すぎる。でかけりゃいい、ってもんじゃないみたいだな。僕も戦いたい。コマペンとぶつかりたい。でも、ダメだったんだ。僕はバカなんだ。キングは、ロランさんは、傷ついていく。ロランさんは叫ぶ。

「キングキャノンを食らえ!」

「くっ、かすった。やるね、ロラン。カメタとは違う魅力を感じるよ。僕はね、肉体を噛みしめているんだ。バランスを、世界のバランスを制御によって行うんだ。自分が温もり、力強さ、やわらかさ、弱々しさ、それらが加わって初めて心なんだね。弱い力も、心を形成するから強くなる。それでも僕は選んだんだ、肉体を捨てることをね。カメタは何を運ぶんだい? もう、決まっているんだろ、決意がないだけで……」

ロランさんは言う。

「敵にヒントを貰うとはな、有り難い。そして、オレは貫く、たとえ負け犬でもな」

キングソードがコマペンを捉える。しかし、それが決定打にはならなかったようだ。あのロランさんが押されている。僕は、何をしているんだ。休憩なのか? 疲れたもんな……。

アイカが言う。

「兄さんは迷っているんですね。それなら、私が兄さんの迷いを食べちゃいます」

僕は言う。

「迷っている? そうか、本当に拾ってくれたんだな。僕だけなのか、正しい選択を選んだという決断がないのは。僕だけなのか、決意が足りないのは……」

アイカが言う。

「違いますよ。私もキラーさんも、ロランさんも、ローラさん、ジローさん、ハナコさんもそうです。負け犬達はみんなそうなんです。兄さんの優しさが包み込む。その決断をみんな待っている。だから、私が迷いなんか食べちゃいます、ね」

僕は言う。

「食いしん坊だな、アイカはいつも」

「はいっ。でも、兄さんのためにも太りません」

「行ってくるよ。いや、みんな行くぞ!」

キラーが言う。

「ライバルよ、コマペンは何度でも俺が殺す。最高の殺意を持ってな」

アイカが言う。

「何処までも、私は行きます」

ロランさんが言う。

「ふう、オレには荷が重いわ。シロクマでもいじめるか」

「後悔するなよ」

と、シロクマ。僕は、カメットのギアを六まで上げる。名刀変幻よ、力を貸してくれ。義理の父さんの魂を今焼き付ける。

激闘のさ中、シロクマは追い詰められる。ロランさんも限界に近い。シロクマが言う。

「オレは見逃していたか、オレ自身の決意を……。見逃しても何度でも歩くのさ。この命が尽きようとも、コマペン様の肉体も守る。心だけじゃない。いや、肉体が無ければ心じゃない。それがどれ程の時間でも。そんなものは、知ったこっちゃない」

ロランさんは言う。

「そうか、ならばこちらの信念と共に散れ、シロクマ」

ロランさんも苦しそうだ。よそ見なんかしている場合じゃない。

そう言えば、カメットソードは何処にある? カメットは言う。

「行くよ、カメタ。どうしたのさ? いかれた力は、カメットソードはここにある。カメロウ君の意思と共に……」

僕は言う。

「そうか。そんなところにあったのか」

父さんの意思が、僕に力をくれる。父さんもまた、負け犬なんだ。扉を貫く絵は、その元は今ここに集合する。コマペンは、それを阻んでいる。拒むのなら、魂をぶつけるんだ。貫く絵は、きっと平和の意思を覆す。そして、それは負け犬達の魂だ。物凄い負担が僕を襲う。

キラーが言う。

「なあ、サツイ。俺にももっと大きな殺意をくれよ」

サツイが答える。

「憎しみが殺意を生むとは限らない。殺意を力とするキラーは、きっとカメタを支えることになる。そして、カメタの優しさはキラーを支える。殺意は、お前だけの殺意はライバルと共にある」

サツイの性能が大幅に上がる。アイカが言う。

「ねえ、クマちゃん。私も決断します」

クマちゃんの性能も大幅に上がる。

最後の決断だ。それでも、コマペンは捉えられない。激闘の中、僕はショートソードを振り回す。トライアングルよ、今力となれ! アイカが力の歌を歌う。キラーの貯めに貯めたミドルビームが、コマペンをすり抜けていく。極太ビームだったが、いい誘導だ。これこそ、最強のトライアングルだ。行けー、百五十メートルの変幻よ! コマペンを捉えろー。捉えた、決まれー!

コマペンは大打撃を受けた。コマペンが言う。

「素晴らしいコンビネーションだね」

余裕でいられるのも、今だけだぞ、コマペン。そして、僕は言う。

「畳み掛けろ!」

キラーが言う。

「言われなくてもだ。殺意の炎はこの宇宙さえも呑み込む」

話のスケールが、やけにでかくなったな。頼りにしているいるぞ。アイカが言う。

「了解です。想いを力に変えて……。触れ合う力となって下さいね」

アイカはもう子供じゃないんだな。アイカは、きっと大きな意思で戦っている。自分の想いを隠さずに……。行くぞ、困ったペンギン。最後の時を待つがいい。





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