第13話 おとぎ話

あれから三日間休養をとったら、完全復活した気がする。拠点では味方達が、僕達の到着を待ち望んでいることだろう。アイカが言う。

「兄さん、無茶しないで……。たった一人の兄さんだから」

キラーが言う。

「俺も鍛え直しだな。カメタに頼るようではダメだ」

キラーから、そんな言葉が漏れるとはな……。ふがいない。とにかく、拠点へ急ごう。名刀変幻は、物干し竿を超える名刀だと信じている。パーツショップの経営、頑張って下さいね、父さん。母さんの尻にしかれてるみたいだけど。確かにギア六は危険だな。しかし、僕は無事だった。きっと使いこなしてみせる。変幻も同じく……だ。

それでこの戦いは終わるのか? この先にあるものは何だろう。拠点へ向かいつつ、僕は何か嫌な予感がする。レーダーにロボット反応か。僕は回復したんだ。どうせザコだろう。ここはギア一で行くぞ。キラーが言う。

「三十機程度だな。クラスBまでしかいないようだ。何か物足りないな」

アイカが言う。

「拠点は近いのです。敵に援軍が来るかも知れません。私達は、今警戒されています」

本当にそうなのか。何か違う意思のようなものを感じる。僕は変幻を巨大化させ、敵が密集しているところめがけて叩き込む。しかし、これで終わりはしない。次は回転切りを食らわす。一気に五機を落とした。しかし、まだ僕の心は痛むんだな。僕は、ただ怖いだけなのか?

キラーがビームを放つ。僕達を少しでも削ろうって魂胆か。もうすぐ終わる……。えっ、レーダーに反応か。次はカメ達か! 僕達を、拠点に辿り着かせないつもりなのか。四十機はいる。厄介だな。体力は温存したいのだが。いいところに、クワン族の援軍が来たぞ。クラスAもいる。三つ巴の戦いだ。僕達は、今はここから少し離れる。カメ達の注意はクワン族に向かう。潰しあってくれよ。かなりのビームが飛び交う。アイカはバリアを張る。キラーがロングビームを連射する。カメが一機、破壊される。コマペンは何がしたいんだよ? クワン族はカメを相手に苦戦しているようだ。

そろそろ行くか。ギア三を使うんだ。アイカは歌を歌う。精霊の歌だ。同じ歌でも、以前よりはるかに強力になっている。ギアチェンジは疲れるからな。拠点ではギア六は必須だろうな。僕は変幻を巨大化細長くする。広範囲攻撃だ。カメは一撃では倒せないな、やっぱり……。ちぃっ、クラスAが僕達に近づいてきた。カメよりもこちらと戦いたいのか? そのクワン族は言う。

「俺達は捨て駒なんだ。これが戦争なんだよ」

クワン族の兵士の、魂の叫びがこだまする。それでも、僕達は止まれない。キラーが言う。

「捨て駒か。俺達はどうなんだろうな? 例えそうだとしても、それを覆す力と心を持てばいい。サツイの火は劫火と化す」

キラーも急接近は温存か。珍しいこともあるものだ。カメ達は心をオフにされている。本当は何を思うのだろう。僕は、そんなことを考えていた。父さんもカメだったんだよな。そうこうしているうちに、カメ達は片付いたようだ。アイカが言う。

「拠点へ突入します。兄さん、ギア六は使わないようにして下さいよ」

僕は言う。

「約束は出来ない。大切な人達を守りたいんだ」

「私にとって、兄さんは大切な人です。それを忘れないで下さい」

キラーが言う。

「俺が協力してやるよ。カオスを超える殺意に満ちた世界を拝むためにな」

「頼もしいな」

「よく言うよ」

僕はそれには答えず、戦場へと向かう。敵は千機くらいいるのか。数えている場合ではないな。しかし、こちらも本気だ。わが国もここが欲しいんだろ。味方も八百機くらいいるようだな。

味方の一人が言う。

「エースの到着のようだ」

「ロランを超えてくれ」

僕達は歓迎されているな。あの中に、ヒルコリがいる。遂に出てきたか。父さんを殺したヤツらしいな。ビームと剣の音に戦場は支配される。

僕はギア二ぐらいで行っておくか。ヒルコリ戦のために、体力温存だ。キラーは叫ぶ。

「フハハハハ。何てもろいんだ。殺しても殺しても完全に満たされることはない。ザコどもを一掃する」

キラーのビームの威力も、大幅に上がっている。クラスBくらいなら、今は瞬殺だろう。キラーは、ビームによる敵の包囲をかいくぐる。サツイの驚異的な機動力と、キラーのテクニックによるものか……。アイカは、勇気の歌で味方を鼓舞する。

かなりの時間が経過した。一時間くらいの感覚か。時計を見る暇もない。遂にヒルコリが接近してくる。僕は父さんのことをよく知らない。カメと人間のハーフである僕を、ロボット学校の仲間達は他と変わらず接してくれた。小さい頃、少しいじめられた記憶もあるが……。そんな時は、アイカに助けてもらったっけ。あの頃から、アイカは必死で僕を、守ってくれた。そんなアイカには悪いけど、きっとギア六を使うことになるだろう。

とりあえず、ギア五に切り替える。父さんは最初からいなかった。そのように思って生きてきた。僕が物心がつく前に死んでいたから、思い出もない。残ったのは、カメとも人間とも判別出来ない姿だけだ。それでもみんなは、僕を支えてくれた。

ヒルコリか……。復習心は湧いてこない。それでいいんだ。ヒルコリは味方を一瞬で蹴散らしていく。十二メートルクラスの白いロボットである。遂に、僕の変幻とヒルコリの剣がぶつかる。カメットは吹っ飛ばされる。ヒルコリは言う。

「カメロウの息子か? ヤツ以上の潜在能力を感じる。未来に必要とされるのは、オレよりお前かも知れないな。オレはおとぎ話の住人だ。昼寝をしてカメとの競争に敗れた一族だ」

昼寝に懲りたウサギか。その名は、何を意味する? 味方達も僕を掩護してくれる。何も怖くはないんだ。未来に必要かどうかなど、どうでもいいんだよ。大切な人達を僕は守り抜く。

キラーのロングビームが冴える。しかし、ヒルコリのロングビームも強力だ。変幻を巨大化させろ。七十メートルいけるか。とても重いな。使いこなしてこその名刀だ。ヒルコリの剣は吹っ飛ぶ。これで有利になるのか? しかし、ヒルコリは予備の剣を何本か用意しているようだ。しかし、スキが出来た。僕は変幻をヒルコリに叩き込む。キラーのビームも効いたはずだ。

激闘は続く。ヒルコリはやはり強い。こちらが押されている。アイカのバリアも、たやすく破ってくる。ヒルコリは言う。

「オレには最後の役目がある。それを果たすまで、この命は譲らない。カメに敗れた一族は、もう一度のチャンスにかける」

ヒルコリの最後の役目だと。それは何だ? ヒルコリがキャノン砲を放つ。キラーのサツイは大打撃を受ける。キラーが言う。

「くっ、しかしこれでこそ殺しがいがあるというものだ」

キラーもアイカも、かなり疲労が貯まっているようだ。ここで使うのか、ギア六を……。僕は迷いを断ち切る。行ってしまえ! 行くぞ、カメット!

やはり、無数の扉が見える。僕に何を求めているのか? 凄まじい負担だ。ロックも平和の意思も制御も、僕の知ったことではない。とにかく戦争を終わらせるんだ。どうすれば終わる?

ローズを倒すことか。とりあえず、目の前の敵だ。僕はカメットに支配されるのではない。カメットと共に行くんだ。ヒルコリのビームが飛ぶ。僕は何とかかわした。次も来ている。さすがにこれはかわせないか。変幻よ、巨大化しろ!アイカのバリアで弱まったビームを、何とか防ぐ。キラーのロングビームが三連射される。一発は命中したか。突っ込めー! 僕はヒルコリと互角に渡り合う。もちろん、キラーとアイカの掩護のお陰でもある。キラーが言う。

「さっさと決めるぞ。どっちがとどめを刺すか競争だ」

キラーも短期決着を勧める。しかし、ヒルコリはメチャクチャに強い。キラーがスキをみて急接近を使い、重い一撃をヒルコリに浴びせる。僕はビームを乱射する。二発は当たったかな。早くも疲労の色が出てくる。アイカが言う。

「兄さん、無理しないで下さい。私は、私は兄さんを失いたくない。わがままでも、私はそれを望みます」

僕は言う。

「悪いな、アイカ。僕は守りたいんだ、この世界をなんて大それたものじゃない。身近な人達を……」

「兄さん、それでも……」

キラーが言う。

「好きにするがいい。だが、俺の殺意の邪魔はするな!」

僕はヒルコリに変幻を叩き込む。もう一発だ。しかし、かわされてしまう。キラーのビームもかわされる。そこに、クマちゃんのクローが決まる。アイカが言う。

「私だって戦える。行きます!」

ヒルコリが言う。

「ふふっ、オレにはまだ役目が残っている。いいチームワークだ」

まだ、余裕を見せている。僕はもうバテバテだ。ギア五に戻すか。いや、それでヒルコリに勝てる訳がない。僕は言う。

「休ませて貰う」

それを聞いた二人は、二ッと笑う。僕はギアを二まで下げる。キラーが接近戦に持ち込む。ヒルコリが言う。

「キラーの殺意に、まだ応えてやることは出来ない」

キラーは言う。

「ほざいてろ」

キラーはショートビームを放つ。ヒルコリはかわす。クマちゃんのクローもかわす。僕は休むだけだ。二人を信頼しているから。

僕の心に、マリアと名乗る女性が話しかける。

「お帰りなさい、カメット」

そして続ける。

「制御をほどいて下さい。カメタだったわね」

これはテープの声だ。マリアなど存在しないんだ。僕は言う。

「知るか。僕は僕の道を行く。ゼウス? マリア? 世界? 知ったこっちゃないね」

もう、僕を止めるものはない。行くぞ、カメット! 僕はヒルコリを吹っ飛ばす。キラーの貯めたロングビームが冴える。もう少しで倒せるはずだ。

その時、ヒルコリが言う。

「力を貸せ、カメタ!」

「何を言っている、ヒルコリ?」

僕は理解に苦しむ。ヒルコリとは何なんだ? アイカが言う。

「兄さん、撃って下さい!」

キラーも言う。

「殺せ! 容赦はいらない。何なら俺が……」

ヒルコリは、今はスキだらけだ。倒すのも容易だろう。しかし、僕の体は動かない。頭上には、巨大な物体がある。あれは何だ? ヒルコリが言う。

「パワーボールだ。オレは、あれを止めなくてはならない。爆弾みたいなものだ」

僕は叫ぶ。

「ヒルコリ、まさか?」

その爆弾が落下していく。こんなものが爆発したら、世界の一部が壊れるぞ。目的は何だ? コマペンが仕掛けていると見ていいだろう。これは、作戦ナンバー百二十六か。あの扉で見た気がする。それとも、カメットによるものか? 解らないが、記憶にある。ローズを引きずり出すためのものか。カメットはヒルコリに力を貸す。

キラーが言う。

「どうなってやがる?」

アイカも言う。

「兄さん、とにかく無事でいて下さい」

ヒルコリが言う。

「さあ、おとぎ話の終焉だ。行けー、ウサカメキャノン!」

ヒルコリは、パワーボールへと突っ込んでいく。これが最後の役目なのか? 凄まじい威力のキャノン砲がパワーボールを襲う。そして、空中で大爆発が起こる。ヒルコリのロボットは、木端みじんと化した。そこへグシンが現れる。キョウジンを操っている。なぜヤツがここにいる? 連戦では、もう勝てないぞ。何故、カメと共にグシンがいるんだ? どうなっている。

グシンが言う。

「素晴らしい破壊だ」

謎のシロクマ型ロボットがいる。三十メートルは越えるか。何が目的だ? もう、拠点がどうとか言う段階の話しではないぞ。


ショートストーリー4 マイナスを楽しみへ

平和の意思達は勝者となりて、肉体を求め続ける。それが、平和の意思という名の原初のロボットだ。そのロボットは、心のない『形』という象徴である。

人々は『おとぎ話』に悲しみを感じていた。

負け犬達のうたとは、『本能』であり完全なる生命の心ではない。

キラーのサツイとアイカの歌は、平和の意思に届かない。

人々は勝者としてのロボットに、『おとぎ話』を求めたんだよ。『パワーボール』とは、そんな人々の悲しみさ。だから、おとぎ話の住人達は、パワーボールと戦い、『ウサギ』と『カメ』は『楽しむ心』を演じたのだ。ウサギ達の戦いは、遂に平和の意思に心を吹き込んだんだね。


パーツショップ店長の日記2 信頼編

店長だよ。ここからも、日記をつけよう。

平和の意思やロック、制御と、キーワードが出てくる。平和の意思とは、肉体を求めた原初のロボットだった。また、カメタはカメットソードの存在に気がつかない。カメロウ君の言っていたことを、私は信じ続ける。

キラー君は、カメタを支えるため、強さと殺意を意識する。それこそが、キラー君なりの思いやりだ。キラー君はアイカを認め、仲間だと強く踏み込む。

ローラさんは、心の草を求め自らのユメへと向かう。何時かそれは実を結び、ローラさんは多くの人に慕われるだろう。ローラさんは、自分を大切にすることを覚えたからだ。おとぎ話はパワーボールという人の悲しみを楽しさへと変化させた。ウサギ達はこのために命を注いだ。

アイカは本能のまま歌を歌っていた。しかし、キラー君の殺意に魅力を感じている。それは、アイカが本当の殺意でないことに気づいたから。アイカはカメタ以外の信頼も守ろうと決意する。

カメタは優しい世界を望む。カメタの穴だらけのユメを、みんなが実現しようと協力する。そして、キラー君も含まれていた。それを『信頼』と呼び、カメタが頑張ったから得ることが出来たのだと、私は誇りに思う。





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