第9話 復讐と愛の間で
あれから、二ヶ月近くが経過した。僕達は、あれからもかなりの任務をこなした。いまだに装置破壊の任務も来る。ローラ先輩は、本当は戦いたくないのだろう。戦争は、数々の夢さえも奪っていく。先輩は、きっと僕に味方してくれるだろう。聞くところでは、先輩はもうトップクラスの冒険者だというのに、兵士達の食事の調理までやっているらしいな。そして、兵士達の病気も面倒をみているらしい。名声を博しても、先輩らしさは変わらずか。あの人が変わるわけないよな。
アイカが言う。
「兄さん、ローラさんのことでも考えていましたか?」
「何で?」
「何となく、そう感じました」
アイカは、ちょっと不機嫌そうな顔をしている。何故だろう? キラーが叫んでいる。
「次も殺しまくってやる。俺の殺意は無限にあるぞ!」
きっと、キラーには世界を変える力がある。僕にはあるのだろうか?
次は、こっちがクワン族の鉱山を落とす番か。これほどの重要な任務が、僕達にくるとはな。僕は、好物の海藻を食べながら考える。鉱山となると、クワン族も本気だろう。しかしキラーは、実験体だったことがわかっても、両親と変わらぬ関係を保てたようだ。まだ、金持ちの御曹司のままか。キラーはそれさえも利用する。器用なやつだよ。
アイカが言う。
「クラスAも来るでしょうね。とにかく、生き残ることですね」
「そうだな」
僕達は、任務に万全を期すため、整備と休養を欠かさない。次の任務はかなり重要だぞ。僕は覚悟を決めた。そして、生き残るんだ。大切な人達を守るんだ。たとえそれが命を奪うことでも、僕は立ち止まることは出来ない。悲しみを背負うんだ。そう自分に言い聞かせた。
僕達は鉱山に辿り着いた。味方の声はない。余裕がないのだろう。キラーは嬉しそうに言う。
「これだけの数の敵を殺せるのか! くくくっ」
楽しそうなのはキラーだけか。ビームだ飛び交う。そこには、ローラ先輩の姿もあった。先輩が言う。
「カメタ君、来たんだね。優しさは、ここでは命取りになるかもしれないね」
先輩の部下のジローが、横から口をはさむ。
「ふう、ローラ様。こんなヤツに気を遣う必要はありません」
ハナコも言う。
「何時ものバカの三人組ね。こちらが圧倒的に不利。今回は素直に頼りにするわ」
ジローとハナコもいたのか。先輩は、自分にも言い聞かせているのかもしれない。激闘はすでに始まっている。それ以上、僕らは言葉を交わさない。ジローとハナコが、クラスAと互角以上に渡り合っている。ふう、かれらも成長したんだな……。先輩は、この二人に任せるか。先輩のクイーンでさえも、ビームは避けきれない。圧倒的不利っていうのは本当だな。僕も少しでも敵を落とすか。そして、僕は突撃を繰り返す。変幻を巨大化させるんだ。アイカの歌の効果を及ぼす範囲も、随分広くなったな。敵も大慌てだよ。
しかし、数が多すぎる。時間がどんどん過ぎていく。クラスAは一般兵最強と言われるだけはあるな。カメットの装甲でさえ、危うくなってきた。ローラさんが拡散ビームを放つ。先輩はこれまで、凄い戦果を上げている。常に僕の上を行く存在だ。さすが先輩だ。何時か追い越す日が来るのかな。一生、憧れ飲みに存在でもいい気もする。ローラ先輩は目標なんだ。力でも心でもそうなのだ。
その時、先輩が声をあげる。
「撤退するわ。みんな、退いて!」
ここの隊長を務めるローラ先輩の命令だ。しかし、先輩は突っ込んでいく。クワン族は、ここでナナを投入してきたのか。ナナは、パイロットとしての能力も、クワン族の中で五指に入るらしい。しかし、それ以上にローズの精神的補佐や内政で有名だ。そんなヤツを投入していいのか?
最強の女性パイロットと言われるナナだが、実力はどれほどのものか……。ローラ先輩達三人が突っ込む。退路を造るためだろう。ローラが言う。
「ここで退くのが、私への優しさだよ、カメタ君」
「先輩、僕も……」
僕は、何か言いかけて言葉を飲んだ。ジローが言う。
「黙れ」
ハナコは無言だ。僕はローラ先輩の無事を祈りながら退いた。ジローとハナコが敵の一般兵を担当して、クイーンを守る。先輩とナナの戦いが始まる。
ナナが言う。
「人間など死んでしまえ。滅びてしまえ!」
ローラさんが呼びかける。
「あなたは優しいね、ナナ」
「バカにするな。ちょっと名をあげただけの小娘が」
僕達三人は、ぎりぎりの位置でローラ先輩を見守る。クイーンに拡散ビームが飛ぶ。ローラさんは回避出来ない。ナナは、凄いスピードで先輩に迫る。ヴァルキリーの剣速が凄まじい。先輩の剣が間に合わない。先輩は切り刻まれる。ナナのテクニックは凄い。斜めなど色々な角度を組み合わせ、剣の軌道を読ませない。僕は、今のうちにカメットの修理を行うことにした。キラーとアイカも同じ考えだろう。先輩は、剣では勝てないと見たようだ。距離をとろうとするが、それをナナは許さない。ジローが言う。
「くそーっ」
「数が多すぎる。少しでも削る!」
ハナコも必死だ。僕達は、傍観しているだけでいいのだろうか。ローラさんが言う。
「これはどう? ゼロ距離キャノンだよー」
ゼロ距離キャノンは、当然ナナに大きなダメージを与える。ナナが言う。
「ローズ様に頂いたこのヴァルキリーは落ちない。私の宝物だ」
ヴァルキリーの性能は、クイーンのそれを上回る。ローラが言う。
「ふーん。使わなきゃ報われないか。ローズのことが大切なんだね」
「私の魂だ。きさまに言われるまでもない。人間の情など要らない。ローズ様がいれば、それでいい。私がいなくても、ローズ様が存在すればいいのだ」
激闘が続くなか、先輩がナナに押されだしてしまう。しかも、ジローとハナコが限界だ。ローラさんが言う。
「そろそろ決着を着けないと。刺し違えても二人は守る!」
ジローとハナコが答える。
「それは私達のセリフです」
ナナが言う。
「人間どもが馴れ合いを……。私は人間を滅ぼすんだよ」
ローラさんが言う。
「嘘はよくないよ。とくに自分への嘘はね」
「知った口を!」
ローラが反発する。ヴァルキリーのビームと先輩のキャノンが、同時に発射される。クイーンはもう限界だ。ヴァルキリーの方も大打撃だ。ローラさんが言う。
「ジロー、ハナコ、もう行って……」
「それは、ローラ様のことです」
何時の間にか、僕達三人が出ていた。ローラさんが問いかける。
「カメタ君達……。隊長命令、ちゃんと聞いてた?」
キラーが答える。
「俺がそんなもの聞くと思うか?」
僕も言う。
「今回ばかりは、キラーと同じくです」
アイカも続ける、
「私もです」
ローラさんが言う。
「どんどん来るよ。早く去って!」
僕は言う。
「僕達の方がダメージが少ない。替わって下さい、先輩。それに先輩は、あのナナを追い詰めた」
ローラさんが言う。
「優しさは命取りよ。危なくなったら私が出るよ」
僕は答える、
「解りました」
キラーが言う。
「ナナを譲ってやる、今回だけはな」
アイカが言う。
「私達が一般兵を担当します」
僕はうなずく。先輩達は、ロボットの修理をしながら退く。先輩の言葉は、何時もより重く厳しかった。しかも、優しさのこもったものだった。
僕は変幻を五十メートルまで拡大する。どんなにテクニックが凄くても、パワーには勝てないだろう。僕は突撃する。何だと? こいつ本当に女か? テクニックだけじゃなく、疲労が貯まった状態でこのパワーかよ、ナナは。
ナナは言う。
「思い出す、あの日々を……」
……時は、十年以上前までさかのぼる。ナナは、目の前で両親を人間に殺された。戦争のさ中、珍しいことではない。ナナが言う。
「きさまがローズか。お前も同罪だ。この独裁者が!」
この時が、ローズとナナの出会いである。ローズは言う。
「力が欲しいのか、復讐のための」
ナナが言う。
「ふん。頂いておこう。何をくれる? 力では命は復活しない」
ローズは言う。
「私の剣となれ。ナナだったな。最新のロボットだ。後で取りに来い、それだけの意思があるなら……」
そのロボットは、ヴァルキリーと名付けられた。ナナは本当は解っていた、ローズがどれほどの優しさを持っているか。厳しさの中に隠れたものを。ナナとヴァルキリーの名は、二年も経たずして世界にとどろくことになる。ナナは人間を殺しまくった。しかし、その心が向いたのは人間へのものではなかった。ナナは気づいた、ローズの優しさは人間にも向けられていることを。復讐の心は、ローズの心へと向かう。ナナの矛盾した想いは、さ迷う。ナナは、ローズの優しさにいやされていた。あの怒りは確かに、そして同じようにあの悲しみも、確かに残る。全てに向けられるローズの想いに、ナナは惹かれていく。復讐の心はさ迷い続ける。ナナは、生命を操れるものは力だけではないと知った。ローズが言う。
「ナナ、人は、生命は、心を操ることなど出来ない。意図的には無理だ。ナナはどうしたい?」
ローズはナナに、そう問いかけた。ナナは少し考えて答える。
「ローズ様の心を操りたい」
そう答えていた。それを聞いたローズは、
「私はだまされやすいからな」
と笑う。この時から、ナナはローズの副官となる。クワン族の実質ナンバー二である。その内政能力は素晴らしかった。
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