第10話 次の世代へ

ナナが言う。

「私は何時までもこうしていたい……」

ローズが言う。

「ナナが望むなら、そうすればいい。しかし、時代の波は待ってはくれない」

そして、遂にナナはローズから、三十年計画を告げられる。ナナほどの人物なら、当然予想通りだ。ローズは申し訳なさそうに笑う。ナナはそんな顔は見たくなかった。ナナは、人間への復讐心を心の中へ、更に心の奥底へと留める。それ以上の存在が出来たからである。

ナナが言う。

「私は何時までもローズ様の隣にいます。守り抜きます」

ローズが言う。

「それは無理だな。我々は永遠に生きることは出来ない。私は次の世代へ渡すものがある。ナナに渡すものがある」

それは一枚のただの紙切れであった。何も書かれてはいない。ナナは問う。

「これは何ですか?」

「ただの紙切れだ」

そう言って、ローズは笑っていた。ナナは、これには重要な意味があると思い考え込む、ローズの笑顔を横目で見ながら……。しかし、いくら考えてもただの紙切れだった。

……そして、現在へ戻る。キラーが言う。

「カメタ、まだか。殺すのは楽しいがな。オレは死ぬわけにはいかない」

キラーにしては、弱気な発言だな。アイカも苦しそうだ。ナナのヴァルキリーは、先輩が追い詰めて、ボロボロのはずだ。動きも鈍くなっている。自分の力不足に腹が立つな。僕はビームを放つ。しかし、かわされる。時間がない。しかし、焦っては逆効果だ。どうすれば、ナナに勝てる? ショートソードもナナの剣に払われる。スキを見せれば切り刻まれる。先輩は、さっきまでこれに耐え続けてきたのか……。僕は遂にギア五に切り替える。頭がいうことをきかない。凄まじいパワーと同時に、僕の心は不安定になる。凄い疲労も感じる。アイカが言う。

「兄さん、早くギアを戻して下さい!」

しかし、ここは行くしかないだろう

ナナが言う。

「もう終わりか? 次の世代ってこんなものか……」

ナナは何を言っている? キラーのビームが飛ぶ。ナナはかわす。僕は剣をヴァルキリーに叩き込む。ちっ、まだ終わらないか。ナナが言う。

「いいチームワークだ。三十年計画は既に発動している。きさまら人間はどうする?」

アイカは歌を歌い、僕の疲労を軽減させる。かなり有難い。

僕は言う。

「三十年計画とは何だ? きさまらは、何時までこんなことを続ける気だ?」

ナナが答える。

「時代と共に変わっていく。ローズ様は、お前達に期待しているようだな。三十年計画が何かぐらいは、自分の頭で考えろ」

くっ、そう来たか。クワン族は何を望む? ナナの言う通りなら、やつらも人間も大してかわらないのかも知れない。キラーが言う。

「敵は凄い数だ。オレはまだまだ殺せる! 生きるとはそういうことか」

キラーよ、多分それは違うぞ。ナナが言う。

「止めだ、カメット。ヴァルキリーソードを受けるがいい」

止めにさせてたまるか。何だ、この凄い剣速とパワーは。カメットの装甲は貫かれる。そしてナナが言う。

「お見事だな、次の世代達よ」

ショートソードがヴァルキリーを貫く。しかし、まだ決着は着かない。これが鬼の副官ナナか……。化け物だな。ギアを四に落とすか。これ以上は無理だ。

その時、レーダーにカメの反応が出る。今度は、五十機くらいいるぞ。ナナが言う。

「仕方ないな。ここは退こう。総員カメを狙え!」

キラーもアイカもバテバテだ。ビームが飛び交いまくる。僕はカメにビームを乱射する。やはり装甲は堅い。前より、カメのロボットの性能が上がっている。どういうことだ? まあ、深い意味はないだろう。今は逃げ切ることを考える。

ヴァルキリーは、圧倒的強さでカメを落としていく。ナナにまだこんな力が残っていたとは……。クワン族もカメに集中している。たまに、こちらも狙われるがな。キラーが言う。

「くう。さすがにしんどいな。だが、サツイの火は消えない!」

アイカが言う。

「キラーさん、そんなこと言わないで逃げて下さい」

キラーとアイカの距離も、昔より縮まった気がするな。まあ、いいことだろう。僕達は何とか逃げ切った。ローラ先輩が怒っている。

「カメタ君のバカ、バカ、バカ! 心配したんだよ」

やはり無茶だったんだな。僕は謝る。

「すみません」

「これは本気じゃないな。もうっ。でも、ありがとうね。私にもユメがあるから……」

ジローが言う。

「ただのバカ三人組だな」

ハナコも言う。

「こんなやつらに気を遣うことはないですよ、ローラ様」

その時、ローラが僕の方を見て言う。

「あれっ、何か紙切れがカメットに挟まっている。何だろう?」

「本当だ。何なんだ、これは?」

キラーが言う。

「そう言えば、ナナが何かしていたな。そんなことより俺のサツイの火は、何時か巨大な炎と化し世界を巻き込む!」

アイカが言う。

「止めて下さい、キラーさん。ナナさんは、何がしたかったのでしょうね?」

ナナは僕に何をしたかったんだ? 意図が全く解らない。僕はカメットから降り、紙切れをながめる。そして、何事もなかったように携帯していたキャベツをほおばる。ローラさんが興味深そうに尋ねる。

「カメタ君って何だろう? 人なのか、カメなのか? 解った。カメタ君はカメタ君だ」

ローラ先輩が笑っている。凄い笑顔だ。何がそんなに面白いのだろう? 僕が野菜ばかり食べているからなのかな。ナナは、その様子を遠くから眺めていた。そして、ナナは言う。

「頑張れ! 次の世代……」

ナナは笑っていた。ローズが言う。

「ナナよ、今かなりいい顔しているぞ。しかし、鬼の副官ナナ様にしてはしまりのない顔だな」

ナナは言う。

「ローズ様、何時の間に……。通信機を切っておけばよかった」

「私もまだまだ現役だぞ。副官の仕事はたくさん残っているよ、ナナ。私も若い者にはまだ負けないつもりだ。がんばれ、次の世代!」

「もう、ローズ様の意地悪」

「さっきのかわいいセリフも、バッチリ録音済みだ。これからも頼むぞ、ナナ」

「はい」

ナナは素直に答える。

……場所は再びカメタの所へ戻る。僕は言う。

「任務失敗かあ。まあ、失敗を前提とした任務だったんだが……」

ローラさんが言う。

「カメタ君、言い訳しない」

そばで聞いていたジローが言う。

「怒られたな」

ハナコも言う。

「そのようね。カメタはローラ様には頭が上がらないからな」

「俺達もな」

「……そのようね」

ローラ先輩の部下達が、何かいらんことを言っているな。こんな戦争、さっさと終らせなければならない。ところで、ローラ先輩と久しぶりに話し込めて、ちょっと嬉しいな。こんな日々が続けばいいと僕は思った。


ショートストーリー2 白紙のままでいたかったよ

これは、クワン族のリーダー『ローズ』が、まだ幼い頃の昔話だよ。

『マキ』という一流のパイロットに成れなかった女性を、ローズは尊敬していたんだ。マキは言う。

「フフフ、ローズ君にいいものを託そう」

「マキさんの考えることは、いつもロクなことではないって、これただの『紙切れ』じゃん」

「『ただの』だと! よく見るんだ、ローズ。なんと、白紙なのだよ。好きなことが書き込める『スペース』があるのよ」

「で、俺にはメッセージとかないの?」

「フフフ、それはメッセージを書くと悪いことが起こる『呪い』がかけてある。ローズは怖くて、メッセージを書き込めないのだ!」

ローズは言う。

「つまり、白紙のまま次の世代を励ませってか。俺も何時かって、こんなバカなことするかー!」

「私は多分ローズより先に寿命で死ぬんだ。その時は白紙じゃない。それと、知ってる、ローズ? 『カメロウ』とかいう怪物パイロットを? 出会ったらまず生きて帰れないらしいの」

「マキさんが負けるものか」

「私も負けるつもりはないの。ただ、勝負から逃げるだけ」

「逃げるのかよ!」

「でもナイトってロボットは、逃げられないケースも知っている」

「マキさんは、守るためなら死ねるんだ?」

「無理です。死ねません」

「ぼくがマキさんを守るもんね」

「それなら、五十年ぐらいその紙『白紙』のままだ。ローズが守ってくれるから」

マキは長い年月を生きようと願った瞬間の出来事であった。『ヴァルキリー』というロボットは、『ナイト』ではないということだ。ナナは、その意味を今に知るだろう。

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