第3話 自分という存在

あれから一ヶ月が過ぎようとしていた。僕達三人は、卒業を待たずに冒険者になることが決まった。国の判断によるものだ。戦力になる者は、誰でも早めに投入しようということだ。それほど、人間とクワン族の関係は均衡している。僕はアイカの投入はまだまだ早いと思うのだが……。

僕は言う。

「ここの給食ともお別れか。僕は偏食が凄いのだが、今思うと名残惜しいな」

それを聞いたアイカが言う。

「兄さん、言うことはそれだけですか?」

キラーが不満そうに言う。

「何故こいつらと組まなきゃならないんだ?」

母さんも忙しそうだ。校長の仕事の他に、少しでもめぐみの光を有効利用するという研究にも取り組んでいる。更に、ロボットの開発まで……。母さんがローズと接触するというのなら、青オニの言っていた三十年計画とやらが気になる。ローズは、三十年で何をしようとしているのだろうか?

とにかく、初任務は光エネルギー装置の破壊である。まずは、簡単な任務ということになるのだろうか。キラーが言う。

「どうせ破壊するなら、人の方が面白い」

アイカが答える。

「そういうの、好きじゃないです」

アイカとキラーがまた衝突しているよ。アイカの一人相撲って気もするがね。国も、さすがに今回は危険度の低い任務にしたようだ。アイカが言う。

「クワン族のロボットの反応が出ました。クラスCが二機、DとEが合わせて十機ですね」

さすがに光エネルギー装置は守っているか。キラーの顔つきが変わったよ。また殺せるってか。僕は、その考えにはついていけないね。

僕も二度目だ。確実に慣れてきている。それでも僕は、人やクワン族を殺すことを、いいことだなんて思いたくない。何時かそう考える日が来るのだろうか? 確か十二機だったよな。何処にいるんだ? 囲まれると厄介だな。しかし、待っているのがもっと厄介だとは、この時はまだ思っても見なかった。

キラーはもう敵を発見したようだ。早速、得意の急接近を使っている。相手を完全になめているようだな、キラーは。次に、アイカのクマちゃんのクローが決まる。一機撃破だ。クマちゃんは高性能だが、あまり打たれ強くない。敵がクマちゃんに集中攻撃を仕掛ける。アイカはバリアを張る。僕とキラーが、敵を次々と倒していく。クラスCは、僕達にとってはまだ厄介だな。

クワン族の兵士が言う。

「くそーっ。所詮オレ達は捨て駒なんだ。ローズ様があんなことを言うなんて……。戦いに行かないと、その子供を人体実験に使うと」

ローズが人体実験だと? マジで何を考えていやがる。それを聞かされると、倒しづらい。三十年計画とやらと関係があるのか? 母さんはローズと会って大丈夫なのか?

キラーが言う。

「だからどうしたというんだ。愚痴でも聞いて欲しいのか?」

キラーは、こんな話を聞いても変化なしか。いや、更に喜んでいるような気がする。アイカが言う。

「そんな……。酷すぎます」

僕は言う。

「アイカ、バリアを張れ! ビームが来ているぞー」

「えっ」

クマちゃんにビームがヒットする。僕達は甘すぎるのか。それでも冷静な僕がいる。喜んでいいものかな。キラーの押せ押せで決着は着いた。僕は言う。

「これが光エネルギー装置か、五メートルぐらいの大きさの箱のようだな。これを壊せばいいのか」

って、キラーがもう破壊し始めている。

……そして、一ヶ月が経過した。僕達は、それから三つの任務をこなしてきた。キラーが言う。

「退屈だな。ザコばかりしか殺せていない……」

アイカが咎める。

「キラーさんは、またそういう言い方をしますね!」

アイカは膨れっ面だ。光エネルギー装置の破壊の任務ばかりだったな。僕達はゆっくり成長していけばいいんだよ、キラー。

そして、また装置破壊の任務だ。ひまわりの畑がある。こんなに綺麗に咲いているのに、戦場になっちゃうんだな。少し悲しいぞ。そんなことを考えていると、アイカが言う。

「今回は敵の数が多いですね。三十機はいます」

キラーが不機嫌そうに言う。

「しかし、ザコばかりだな。つまらん。だが、やるしかないか」

クワン族の兵士の叫び。捨て駒、そして人体実験か。この戦いに終わりはあるのか? アイカもかなり戦いに慣れてきた。しかし、まだぎこちない。それでも、確実に人を殺すことの罪悪感が薄れていく。これも制御なのか……。今回は敵の数が多くても、すぐ決着は着く。所詮ザコばかりだ。何か僕の考え方が、キラーに近づいてないか。それはまずいぞ。

キラーがアイカに向かって言う。

「おい、カメタの妹。きさまは何故戦う?」

おい、初めてじゃないか、キラーからアイカに話しかけるなんて。アイカは答える。

「私はアイカです。名前を覚えて下さい。兄さんが無茶するから、仕方なく戦っているんですよ」

「それはひどいな。人殺しを他人のせいにするとはな。まあ、それはどうでもいいが」

アイカがムッとして言う。

「前置きはいいです」

そんなこと言われたら当然だろう。キラーが言う。

「アイカは自分というものが無いんだな。カメタがいることで誤魔化している」

「私に自分がない……。私は何を求めているのでしょうか? 兄さんの幸せ? それとも」

アイカは、それ以上は言わなかった。でも、考えたり思ったりすることはあったのだろう。僕達兄妹は、べったりだったしな。自分という存在か……。僕は何を求める? 制御されている、誰かが意図した世界だと。母さんの仮説か。

さっさと装置を探すか。僕はキラーに尋ねる。

「装置は見つかったか?」

キラーが答える。

「やばいな。まさか、こんなところに来るとはな」

キラーがそこまで言うとは、何事だ? 僕はレーダーを確認する。連戦か。しかも相手は、クワン族の中でも上位に位置するドラゴンウサギか。果たして勝ち目はあるのか? そんなヤツが、何故こんなところに来るんだ? 十メートルにも満たない小型ロボットと聞いている。凄いスピードで近づいて来る。逃げるという選択肢はないか……。問題はアイカを戦力と見なすかだな。戦うのなら戦力となる。しかし、アイカだけ逃がすことは出来ないのか。青オニほどの強さではないらしい。

アイカが言う。

「兄さんは、私が守る」

アイカは力強く言った。逃げろと言っても、聞く訳がないな、この妹は。Cクラスもかなりいるようだが、こちらも成長しているんだ。

遂に来たか。囲まれないようにしないとな。ドラゴンウサギが言う。

「こいつがカメットのレプリカか。それとも、パイロットが弱すぎるだけか。良く出来ている。試してやろう」

とりあえず、ザコからいくか。相手は十五機くらいか。僕は変幻を小型化し軽くする。そして、ギア二にチェンジだ。敵の密集地帯へ、変幻を巨大化させながら突っ込む。いい奇襲だと思ったんだが、Cクラスは一撃では無理だったか。しかし、何体かは撃破したはずだ。

キラーは後方へ下がる。僕を信用するってことか。アイカは戦いの歌で、僕達の精神を回復させる。ドラゴンが言う。

「ふーむ、思ったよりやるな。ローズ様、三十年計画など発動しなくてもよろしいのに。人間達は、ただ滅びればいい」

それを聞いた僕は言う。

「三十年計画とは何だ?」

「それは教えられないな」

アイカが言う。

「人体実験など許せませんよ!」

「ローズ様の気持ちも知らぬものが、何をほざく……」

そして、ドラゴンが遂に動く。僕を狙っているのか? ここは、ショートソードで様子を見る。動きが速いな。僕はビームを連射する。一発はヒットしたか。敵は僕にビームを集中させる。ここは、アイカのバリアでしのぐ。しかし、カメットの強靭さは凄いな。

ドラゴンは炎を吐く。ドラゴンの広範囲攻撃に、僕達は苦戦する。Cクラスはいまだ健在か。やつらを排除すれば、ドラゴン戦はもっと楽になるはずだ。ふっ、僕は殺すことにもう慣れてしまったのか。でも、残る悲しみを大事にしたいな。

ドラゴンはビームを放つ。考え事の余裕もないってか。ここは敢えてガードする。ドラゴンが言う。

「くっ、誘導か」

キラーのミドルビームがドラゴンにヒットする。しかし、効いているのだろうか。ギア三のスイッチに僕は手をかける。凄い負担が体にかかるだろうが、いくぞ!

ドラゴンが言う。

「何だと? このスピードは何だ!」

ドラゴンが驚いている。キラーはそこを見逃さない。急接近からのソード攻撃だ。さすがのドラゴンも、これは効いただろう。僕は、その間にザコを一掃する。アイカが速いテンポの歌を歌う。ドラゴンはスピードアップしたものの、戸惑っている。強化系の歌だが、裏をかいたようだ。アイカは僕より、頭の回転がいいんだよな。キラーはチャンスと見て、溜め込んだエネルギーを一気に放出する。ミドルビームの五連射がドラゴンにヒットする。

僕はつぶやく。

「はあはあ、何だ? 体が重いぞ。しかし、まだやれる……」

アイカが言う。

「兄さん、ギアを一に戻して下さい。ギア三は、体力を消耗しすぎです」

しかし、僕はそれを聞かずにドラゴンに突っ込む。アイカは僕をたしなめる。

「兄さん、聞いてるんですか!」

僕はドラゴンに、一撃を叩き込む。しかし、ドラゴンは相当強い。捨て身じゃないと、勝てないぞ。それでも無理かもな。

キラーが、

「ふん、オレが代わってやるよ。止めを刺すのはオレだ」

そう言って、急接近と距離をとる戦法を繰り返す。しかし、それもかなり捨て身に見えるぞ、キラー。アイカが呆れた顔をして言う。

「もう。二人ともムチャクチャです。無理しないで下さい」

そして、癒しの歌を歌う。……そうだ、僕はまだやれる!

その時、ドラゴンがクマちゃんを剣で貫く。僕は動揺してしまった。ドラゴンはそのチャンスを見逃してはくれない。ギア三は僕にはきつすぎたか。もう動けないのか。ドラゴンは強すぎた。相手が悪かったんだな。僕はドラゴンに切り刻まれる。キラーは、更にビームを連射する。キラーもバテたか? 終わったな。

ドラゴンが勝ち誇って言う。

「決着は着いたようだな。んっ、何だと?」

何か来る。キャノン砲だ。キャノン砲はドラゴンを貫く。あのロボットは、クイーン! ということは、ローラ先輩だ。アイカが言う。

「あれが噂のローラさん!」

ローラ先輩が僕に向かって言う。

「カメタ君、よく頑張りましたね。ドラゴンも相当追い詰められたみたいだね。ジロー、ハナコ、行っくよー」

部下のジローとハナコが従う。凄い援軍を用意してくれたものだ。ジローとハナコも一緒か。……そして、遂にドラゴンのロボットは大破した。

ドラゴンが悔しそうに言う。

「くっ。こいつらが、最近急激に力をつけてきていると言われる冒険者達か。油断した……」

キラーが止めを刺そうとしたところを、先輩が止める。そしてキラーに言う。

「キラー君、殺してどうするの。こいつには、たっぷりと情報を吐いてもらわないとね」

ハナコが続ける。

「キラーは頭が悪い!」

ジローも言う。

「バカだな。ついでに吐かせるのも、キラーは好きそうだけどな」

僕はローラさんに言う。

「先輩、医者には成れそうですか?」

「むう、勉強中だよ。それに、こうして各地を回るのも、薬草の知識がついたりするんだよ」

「そうですか」

僕はそれしか言えなかった。ローラさんは言う。

「カメタ君は優しいね。じゃあ、またね」

三人は去っていく。キラーが言う。

「トンビに油揚げをさらわれたみたいだな」

「ぎりぎりだったくせに……」

キラーは僕の言葉を無視した。それにしても危なかったな。アイカが怖い顔をして言う。

「兄さん、言いたいことはたっぷりありますからね!」

「はい、はい、解っています」

アイカの説教が続いた。



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