第18話 負け犬たちの歌

キラーが言う。

「まだなのかよ、いー加減にしろよ」

「キラーさん、兄さんに文句言わないで下さい」

キラーは文句を言い続ける。

「殺し足りない。シロクマにも逃げられたしな。殺意は満たされない!」

「ワンパターンだな、僕達は。しかし、この辺には扉はたくさんあるだろ」

「本当に見つかるのか、扉を貫く絵とやらは?」

「カメットがそう言っている。感じるんだよ。ぶっ飛ばしたいヤツがいるってな」

それを聞いたアイカがたしなめる。

「兄さん、キラーさんに似ちゃダメですよ」

凄い数の扉がある。この中に、絵があるはずなんだ。僕は、平和の意思にも制御にも、そして神話にも従わない。けりをつける時が来たんだ。何だ、光か? 違う……青い。ただただ青い。この絵は何だろう? 僕は言う。

「この絵は何だ?」

アイカが心配そうに言う。

「兄さんがおかしくなりました。どうしましょう。今まで、こんなこと無かったはずです」

キラーが言う。

「ライバルよ! 何寝ぼけたことを言っているんだ。ここには、扉しかねえよ」

何を言っているんだ、この二人は? マリアの声がする。

「お帰りなさい、カメット。そして、これはテープ音ではありません」

ゼウスの声もする。

「我々は、平和の意思に逆らい存在する」

ユメだよな。こんなこと、あるわけがない。僕は、制御装置をぶち壊せば、それでいいんだ。ゼウスとマリア、この二人をぶん殴りたい衝動にかられる。僕は、この二人が気に食わないのか。

キラーが言う。

「確かにある。扉を開けた向こうに絵がある。何が描いてあるんだ? 海なのか。返事をしろ、カメタ」

アイカが言う。

「これが、扉を貫く絵……。兄さんは何処にいるのですか?」

何を言っているんだ? 僕は海にいるのか?

カメットが言う。

「全ての始まりの場所、ここは扉を貫く絵」

何! カメットが喋っただと? カメットは何を思う。僕は言う。

「そこにいるのは、アイカなのか?」

アイカが答える。

「兄さん、遊びましょう。折角海へ来たんですから」

「勝手にしろ」

と、キラーは相手にならない。カメットは言う。

「父さん、母さん、帰ってきたよ。そして、連れて来たよ、負け犬達を」

そう、僕は負け犬だ。ゼウスが言う。

「フフ、よく戻ってきた。速いものではなかったかな」

マリアが言う。

「そうですね。この世界のかせをはずしましょう。制御装置を貫く欲望達を、ですね」

欲望か。欲望を制御している。貫いている。こんなものが、僕達を縛っていたのか。カメットの力がなければ、外すことなど出来ない。カメットが言う。

「なあ、カメタ。僕でも無理だよ、制御を外すのはね……」

「そうなのか」

アイカが言う。

「兄さんが泳いでいる。ここは何処なのでしょうか?」

キラーが言う。

「俺は眺めているだけでいい」

僕は、海を泳いでいる。この光景は何だ? カメットが言う。

「全ての人が持つものだよ、カメタ」

何を言っているんだ。もしかして、ユメ落ちなのか? マリアが言う。

「ユメ落ちなど許しません」

ゼウスが言う。

「その通りだ。この絵は全ての人が持つもの。心の元だ」

心の元だと? 全てはここから派生しているというのか。違う……。心の元を描いた絵にすぎない。目印にすぎない。全ての人が見た光景なのか。扉を貫く絵ということか。

ゼウスが言う。

「カメットよ、長旅はどうだった?」マリアが言う。

「それは聞きたいわね。いいですね、カメット」

カメットは答える。

「うん、僕に乗った、操縦した人達はみんな負け犬だったよ。面白いぐらいにそうだった。カメロウ君が一番凄かったね。平和の意思なんか完全に無視していたよ。凄いでしょ」

マリアが言う。

「いっぱい、いっぱい聞かせてね、カメット」

カメットは答える。

「うん、解った」

ゼウスが言う。

「私も聞きたいな」

マリアが言う。

「ふふふ、千年以上経ちましたからねっ」

僕は、今すぐこいつらをぶん殴りたい。負け犬的行動だ。アイカが言う。

「兄さん、聞いていますか? カメットがしゃべった」

キラーが言う。

「それだけじゃない。サツイもだ。ここは心の元なのか?」

サツイが言う。

「オレの殺意を満たしてくれない、誰も、そう誰も。そうなったら、ただの負け犬だから」

キラーが言う。

「そうだな、サツイ。殺意の火は消えることはない」

クマちゃんが言う。

「ねえ、アイカ。本当のことをカメタ君に伝えなくていいの? もう、決まっているんでしょ、アイカのユメは……」

「そうだね、クマちゃん」

戦いの中に、僕達はいる。僕は負け犬だ。僕は言う。

「僕は、負け犬なんだ」

ゼウスが言う。

「初めてだな、マリア」

「ええ、ゼウス。カメタが初めてこちらを見ました。ならば、伝えなくてはならないでしょう、私達の願いをね」

僕は言う。

「その必要はない」ゼウスが言う。

「そう言うと思っていたよ」

「ほざけ!」

マリアが言う。

「ふふふ、カメットも楽しそうに笑っていますよ、カメタ」

そう、ここで語るのは僕ではない。ゼウスでもマリアでもない。そう、キラーだ。キラーは言う。

「俺達は負け犬だ。しかし、俺だけは負け犬で終わる気はない」

僕は言う。

「ライバルよ、同じ言葉を返そう」

「私も同じですよ、兄さん」

ゼウスが言う。

「私も同じだ」

マリアが続ける。

「私だってそうですよ。平和の意思に逆らう者は、みんな負け犬ですね。負け犬がそのまま終わったりしません」

本当にぶん殴りたくなるな。負け犬だからこそ、みんな負け犬だからこそ。僕は言う。

「僕は僕の道を行く。ゼウスだろうが、マリアだろうが、指図は受けない」

そう、負け犬だから。ゼウスが言う。

「これだけの時を待った意味はあった。なあ、マリア」

「はい。私達の想像を超えていました。カメットが持ち帰ったものはね」

ゼウスが言う。

「制御装置は、カメタなら外せるはずだ」

「カメタは人の心を変え続けた。優しさの心は、全ての心に響いた」

アイカが言う。

「兄さんに言っておくことがあります。私は兄さんが大好きですよ。だから、何時までも支えていたいのです。それが、私の求めるもの。兄さんに拒絶されても貫きます」

僕は答える。

「そうか、アイカ。妹だからって遠慮することはない。ズバズバ言ってくれ。最大の負け犬に……」

「はい、兄さん。私はもう恥ずかしくないです」

キラーが言う。

「殺意の炎は消えない。世界で満ちあふれる」

僕は言う。

「そうはいかないぞ、ライバル」

マリアが言う。

「カメットは、本当に素晴らしいものを持ち帰りました。負け犬達の歌ですね」

扉を貫く絵、それはここにあった。そして、制御は外れた。しかし、これで終わりではない。これからなのだ、本当の戦いは。次の戦いが最後ではない。とりあえず、コマペンを叩いておくか。ゼウスが言う。

「私達は消える、君たちが負け犬ではなくなった時に……」

マリアも言う。

「行きましょう、ゼウス。カメタ達に祝福を……」

僕達は、振り返ることなく進む。そして、もうここには用はない。行くぞ、カメット! もう、戻ることはない!


パーツショップ店長の日記3 試煉編

店長だよ。また、日記をつけるよ。

ローズは多くの心の草を運び、力尽きた。アイカとナナはローズに、信頼するから草は伸びると教えられた。アイカは、みんなの気持ちを考えて歌うようになった。そして、カメタを慕い続けることは試煉だと知ったね。

キラー君は、殺意を必要と考え、試煉に挑む。殺意は時として大切な者を守る。それしかキラー君にはない。そうではないと私は考える。思い詰めるのは早いよ、キラー君。

コマペンは、個人として何人分ものパワーを持つ。平和の意思をくつがえすため、犠牲を良しとした。

カメタは自分に自信が持てず、さ迷う。ローラさんはみんなの元気を届け、カメタの心の草を強化させる計画を立てる。カメタがローラさんの計画を受け取るためには、自分の考えを明確にする必要がありそうだな。

扉を貫く絵とは、海を描き、見た者を初心へと帰すものだったようだ。

負け犬達の歌を、原初のロボット平和の意思は待っていた。

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