第17話 会いたいだけ
ゴリラとの対決から一週間以上が経過した。ロボットの整備、トレーニング、休憩などを繰り返していた。ゴリラ戦でのダメージは、大分回復したようだ。
ところで、コマペンの意思とは何だろう? どんな信念を持っているのだろう。僕は、ローズを誤解していた。敵だからと言って、必ずしも敵対しないといけないのだろうか? いや、制御など許せるものではない。三十年計画すらコマペンはあらかじめ読んでいた。いや、仕掛けたのはコマペンだ。僕達はそんなヤツらと戦うのか。気が重い。
アイカが言う。
「見つかりませんね、扉を貫く絵……」
キラーも言う。
「結局、何なんだ、その絵とやらは?」
「解らない。しかし、その扉が何処にあるのか、徐々に明らかになってきた。もうすぐだよ」
キラーが言う。
「神話の中の人物か……。俺の気に食わなければ、サツイの炎の餌食となってもらうぞ」
僕はそれには賛成だ。しかし、何がこの世界を狂わせているんだ? 殺すことに馴れてしまった僕達は、何処へ向かうのだろう? 平和の意思は、きっと生命の心の中にある。それに対抗するコマペン。そして、両方許せない僕がいる。
アイカが言う。
「レーダーに反応です。カメ達のようですね。他にも、データにないロボットもいます」
カメが三十機程度か。更にウシ型ロボットもいる。ビームが飛び交う。僕は、変幻で広範囲攻撃を試みる。しかし、一撃では倒せない。しかもまずいことに、敵の予想通りの行動をとってしまったらしい。ビームがカメットに集中する。結構痛かったな。ザコのくせに、性能があがっている。ギアチェンジするしかないのか。キラーがエネルギーを貯めるスキも作りたい。
カメットの性能は上がる。ウシがこちらに突っ込んで来たが、アイカのバリアで防ぐ。僕は、精神的にかなり疲れているようだ。アイカが精霊の歌で癒してくれる。キラーが言う。
「この機体、データにあるぞ。シロクマが接近中だ。こいつは、恐らくローズより強い」
何だと? キラーにそこまで言わせるとは……。しかし、こちらにはキラーもアイカもいるんだ。勝てるさ。僕達は成長しているんだ。
ザコがおおよそ片付いたところでシロクマの登場だ。シロクマは言う。
「解っていると思うが、オレがシロクマだ。コマペン様の忠実な部下だ。ローズという男の騎士精神は凄かった。オレもコマペン様を守る義務がある。世界を守る義務がある」
キラーが言う。
「強そうだな、お前。サツイの炎に焼かれるがいい。殺してやる!」
キラーが燃えている。僕は、とりあえずビームを乱射する。全てはヒットする訳ではないか、でかい的なのだが……。三十メートルくらいだよな。僕は言う。
「きさまらは、何故コマペンにそこまで肩入れする?」
シロクマが答える。
「愚問だな、それは。コマペン様には再会して欲しいのだよ。それほど魅力的な方なのだ」
再会だと? 何だ、それは。
キラーが、急接近と距離取りを繰り返す。ヒットアンドアウェイである。でかい的だが、耐久力は凄い。機動力も結構なものだ、このシロクマは……。僕はすでに、ギア六にしてある。それでも、太刀打ち出来ない。九十メートルクラスの変幻でも、パワー負けしてしまった。どうする? 窮地に陥ったことなど何度もある。そして、何時でもキラーがいた。アイカがいた。だから、今も怖くはない。
僕は思わず叫ぶ。
「グワッ」
アイカが心配そうに声をかける。
「兄さん、大丈夫ですか?」
カメットの装甲がえぐられている。シロクマとパワーは異常だ。カメットは、僕が見てきたロボットの中で最もタフだ。それが、ここまで追い詰められるとはな。キラーは言う。
「面白い。殺意の世界は素晴らしい。お前も引きずり込むぞ、シロクマ!」
キラーは大胆に攻める。短期決戦に持ち込もうとしている。無理だろうがな。キラーって、何だかんだ言っているが、本当は優しいのかも知れないな。
シロクマのビームの威力は、大したことはない。接近戦にやたらと強いぞ、シロクマ! カメットは、遂にシロクマの腕に貫かれる。僕は、意識を失いそうになる。マリアの声が聞こえる。
「もう少しです、カメット。わが子よ。私達の未来は、すぐそこにある」
僕は怒って叫ぶ。
「ふざけるなー。このテープ音が!」
カメットは修復されていく。それを見たシロクマが言う。
「そんなバカな。そんなことがあってたまるか!」
僕は言う。
「僕も信じたくないさ。きさまを倒した後は、もう決まっている」
それを聞いたアイカが言う。
「兄さんの様子がおかしいです。どうしましょう」
キラーが言う。
「平和の意思か。俺達は、そんなものには屈しない。そうだろう、カメタ。そしてライバルよ」
アイカが言う。
「二人には何かが解っているみたいですね」
僕は言う。
「屈する訳がないだろう。シロクマも同じだ」
それを聞いたシロクマが言う。
「恐ろしいやつらだ。全力で片付ける!」
カメットは更に性能を増す。サツイ、クマちゃんも同じくだ。これがゼウスとマリアの罠か? それでも今は、それに乗ってやる。行くぞ、カメット!
ゼウスが言う。
「罠とはな……」
「はい」
と、マリアが返事する。どうせ、テープ音なんだろ。僕に介入しないでくれ。マリアが言う。
「信じています。カメットをあやつる者、カメタ」
僕は答える。
「それには答えられないな」
千年以上も前から、こいつらは仕込んでいやがった。ふざけるな。僕の意思はここにある。
……激闘は続いていく。扉に近いせいか、僕達は圧倒的に有利に戦えている。シロクマが言う。
「ゼウスとマリアがロックしたんだな、自由を求めて」
ロックか。僕には制御が通用しないという話だったな。
僕達は、シロクマを徐々に追い詰めていく。僕達は勝利を確信した。しかし、油断はしない。確実にシロクマを仕留めるんだ。シロクマが言う。
「何が起きている? 敵のロボットの性能が上がっている」
その時、五メートルクラスの超小型ロボットが現れる。ペンギン型のロボットだ。まさか、この小さいのがコマペンか? 本当に、困ったペンギンか? キラーが言う。
「少しでもきさまが動くと、シロクマが死ぬことになるぜ」
「そんなおどしが効く相手かよ、キラー」
「もうちょっとでしたのに……」
と、アイカが惜しがる。
コマペンが言う。
「シロクマを放せ。そのかわり、今回は危害を加えない」
それを聞いたシロクマは、
「なっ、何を言っているのですか、コマペン様」
「困ったな。シロクマに新たな力をやろうと思ったんだが。それで再挑戦しろ、シロクマ!」
「そんな……。何故です、コマペン様。オレは捨て駒でも構いません!」
どういうことだ? コマペンに会えたのはいいが、どれほどの力を持つ? 僕は言う。
「コマペン、きさまのやっていることはエゴにすぎない。そんなことで世界が救われても、意味がない」
「きさま!」
とシロクマ。それを制して、
「いいんだよ、シロクマ。僕は会いたいだけかも知れないな」
会いたい? どういうことだ。
「僕達は、一人じゃなかったんだよ。いっぱいの仲間がいて、いっぱいの思い出が出来た。僕のわがままなんだ。十五万年後に、僕達は再会する。その時、世界がカオスになっていてはいけないんだ。僕達は多くの仲間と出会ってきたよね。平和の意思が、再会を邪魔するんだよ。きずな達が再会した時、世界がメチャクチャじゃあ、僕は悲しい。約束したんだ、僕もみんなも死んでしまっても、再び会おうってね」
僕は言う。
「何を言っている。死んだら終りなんだよ、この世界は」
コマペンが言う。
「生き物は生きている限り、罪を犯し続ける。そして生き物はそれを許しあう。しかし、世界はどうだい? 壊れたままだろ。十五万年後、僕達は精神だけで再会するんだよ。僕の大好きな野菜も食べられないね。配合とかが面白いんだよ、野菜ってね」
僕は言う。
「だから、それがエゴだと言っているんだ」
「兄さん……」
「くっ、コマペン様」
「そうだね。僕のわがままなんだ。はるか古代の大爆発で、唯一生き残ったのは仲間の中で僕だけだった。僕は、長生きしちゃったね。僕は今もユメの続きを見ているんだ。家族のように接してくれた仲間との日常達を、ぐるぐるぐるぐるシミュレーションしちゃっているんだ。だから、会いたいだけなんだ。君たちとも仲良くしたいけど、制御によってダメなんだ。世界がないと再会出来ない。シロクマもゴリラもカバも、また会えるんだよ。時の中で取り残された僕は、寂しいよ。輝いた日々がね。平和の意思は許せないんだ、時を越えた再会を。死んだ者には制御を解いているよ。何時か、心と心で、そう精神だけで再会するんだ。その時は自由だよ。でも、平和の意思は許してはくれない、死後の魂を。だから、許してもらえるために戦うんだ、僕達は」
それを聞いた僕は叫ぶ。
「ふざけるなー」
「うん、君たちから見ればふざけているよね。だから、今度決着を着けよう。どちらが正しいじゃなくてね。我を通せるのはどちらかなっていう戦いだよ。平和の意思は、肉体を選んだ。好んだ。心よりも大切だって。世界を壊してまで、僕達は再会するんだ。僕が勝てば、みんなの精神もきずなも保障するよ」
キラーが言う。
「ふん、面白い。殺意の炎が俺を呼ぶ。精神さえも粉々にすると」
アイカは言う。
「私は戦います。平和の意思にも制御にも従いません」
僕は言う。
「よく言った、アイカ」
コマペンが言う。
「じゃあ、待っている。君たちは、まだやることがあるんだよね。僕は行くよ。シロクマも来い。強化してやる。カメタには、きっと凄い答が出せるかも知れない。でも僕は、それには従わない。制御しなければ、時とともに色々な生き物から色々なアイデアがゲット出来たかもね。それでも、僕はわがままなんだ。じゃあね」
困ったペンギン、コマペンか……。ヤツの気持ちも解らない訳でもない。コマペンは、心を残すために戦い続けた。平和の意思とは、生き物の心に根付くもの。そう、僕達が選んだのが平和の意思なのだ。だが僕は、平和の意思には断じて従わない。多数決で負けた負け犬のような存在だな、僕はね。でも、多数決をひっくり返すのは、話し合いだと思うんだ。ナナは、それをやってのけたんだ。やはり、コマペンとは戦わなくてはならない。話し合いでは済まない。ぶつけたいものがある。そんな気がした……。
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