第19話 決戦に向けて

僕達は、ナナに呼び出された。コマペンとのラストバトルのためではない。思いっきり私情に戻されてしまった。クワン族が、一堂に会する。ナナが言う。

「さあ、料理大会の始まりです。楽しんでいって下さいね」

ふざけるなよ、ナナ。僕はもう、コマペン戦のシミュレーションに入っていたというのにな。まあ、クワン族の制御が解けて、クワン族の料理が食べられるようになったんだ。はしゃぐのも無理はないか。

母である校長が叫ぶ。

「こっちもお願ーい。カメタ、アイカ、どんどん食べるわよ。あと、カメタは肉も食べるのよ、制御は解けたんだから」

僕は言う。

「母さん、僕は元々肉は嫌いだったみたいだ」

「そうですか。では、アイカが兄さんの分も食べちゃいます」

「アイカは食い意地がはっているからな。太るぞ」

「大丈夫です。制御は解けました」

何の関係があるんだよ?

ナナが言う。

「ムサシ、食え。私の初めての料理だぞ。それと、ローズ様へのお供えを忘れるなよ」

「はい。天国にいるローズ様、オレが責任を持って処理します」

「ムサシ、ローズ様が私の手料理を嫌がるとでも思っているのか?」

「とりあえず、ナナ様が頂いてはどうでしょうか?」

ナナは、パクッと食べる。そして言う。

「美味い。多分、この感情が美味しいということなんだな。そして、食欲とはこういうものか……」

ローズよ、さようなら。しかし、これで光エネルギーは無くなり、めぐみの光が射し込むことになった。

校長がナナに向かって言う。

「ナナちゃん、こっちこっち。私のテクニックを見せてあげるわ」

ナナは答える。

「ああ。おばさん、頼むぞ。カメタ達のおかげだな。こういうのも楽しいな。ローズ様がいれば、もっと楽しかったのだが……」

ローズは楽しくなかったと思うぞ。口には出さないけどな。クワン族に料理の文化が無かったし、まあ仕方がないか。ナナが言う。

「さっき、失礼なことを考えなかったか、カメタ?」

僕は答える。

「滅相もありません、ナナ様」

「それならよい」

「ぶーっ」

アイカが、また不機嫌になってしまった。何故だろう? ローラさんが言う。

「カメタ君、ステーキどう? 私が焼いたんだぞ。力をつけなきゃ。カメタ君はもう、兄さんと並ぶ冒険者って言われているんだからね」

ムサシウサギの気持ちが凄く解った気がする。僕は言う。

「うぐっ、美味いよ」

ローラが言う。

「カメタ君、顔がひきつっているよ。どうしたの?」

ジローが言う。

「ローラ様はなかなか料理は上手いと思うのだが……」

ハナコが言う。

「ロラン様にもご挨拶しないとね」

ジローも同感する。ロランが言う。

「その必要はない。オレのお好み焼きは絶品だ。そして、カメタとキラーよ、オレはまだ負けを認めてはいない。とりあえず、この勝負受けて貰おうか」

ローラが言う。

「兄さん、カメタ君はステーキを食べるのに忙しいんだよ」

ジローが言う。

「カメタよ、さらば!」

ハナコも言う。

「地獄へ堕ちろ、カメタ」

何かひどいことを、ジローとハナコに言われた気がする。キラーが、お好み焼きを焼いているよ。キラーさんには、まだ頭が上がらないか。本人はそう思っていないようだが、本能がそう告げている。アイカまで、お好み焼きを焼いているぞ。どうする気だ? そして、僕の明日はどっちだ?

ロランさんが言う。

「カメタ、オレはカメロウさんにかなりお世話になったからな。これがチップだ。渡しておく。カメロウさんのデータが入っているぜ」

「ロランさん、父さんのデータ……、ありがとうございます」

「オレもまだ、そのデータにすら勝てやしない。親子対決、やっておけよ。オレは更なる高みを目指す」

そう言い渡して、ロランさんは去っていった。しかし、父さんのデータか。ロランさんに渡したのもうなずける。ドラゴンウサギが蚊帳の外だ。ふて腐れてやがるな。僕は声をかける。

「どうした、ドラゴン。楽しんでこいよ」

「ふん。オレはいい。オレはいいんだ」

完全にいじけてやがる。どうしたものか……。捕まったからなあ、ドラゴンは。

「吐かなかったこと、凄いと思うぜ、僕はな」

「カメタがこれほどの器だったとはな。でも、いいんだ」

それならば、ぞっとしておこう。僕は、早速ゲーム機にソフトを差し込む。シミュレーションか。最近のゲームはよく出来ていると聞くが、殺気や威圧感などは八十パーセントぐらいしか再現出来ないらしいな。それでも、父さんのデータは気になるよな。ロランさんは、データにすら勝てなかったと言っていた。これに勝てないようなら、コマペン戦はきついだろう。

僕は、カメットに乗り込む。行くよ、父さん。父さんは、ギアをいきなり六にしている。僕も望むところだ。ギア六に手をかける。カメットvsカメットか。凄まじいブレッシャーが僕を襲う。戦場を恐怖に落とし入れた、と言われる父さんのブレッシャーか。速いな。変幻は当然持っていないようだ。当たり前だ。カメットソードを使う気だな。凄まじい威圧感だ。近づけば近づくほど、それを感じる。僕はビームを連射するが、恐怖が先に立って的に当てられない。僕一人の力なんてこんなものだ。ロランさんは、この姿を、いや本物の父さんを追っていたんだな。それでも、まだ届かない。いくぞ、変幻! ショートソードで十分だ。近づいたところで、巨大化させる。百メートルぶったぎる。カメットソードに力負けする。これでも八十パーセントの力しか出せていないのか。あのロランさんが届かない世界……。僕には到底無理なのか。キラーが、アイカがいないとダメなのか。どうするんだ、僕は。カメットは切り刻まれる。カメットよ、何を思う。父さんのスタイルは攻撃的すぎる。いや、攻撃こそ最大の防御なのか。ヒルコリはどうやって、父さんを仕留めたんだよ。僕は、ショートソードで攻撃を繰り返す。かなり、後手に回っている。僕はなんて臆病なんだ。

変幻が吹っ飛ばされそうになる。そして、カメットソードの餌食と化す。僕はどうしたらいい? ロランさんでも勝てないんだ。負けても仕方がない。これはデータだ。キラーと父さんが何故か重なる。同じタイプということか。どこか違う。カメロウが言う。

「カメタに一つ言うことがあるのなら、すまなかった、の一言だろう。私のデータをここに残す」

父さんの声を初めて聞いた気がする。テープか? すまなかった、か……。何故そう思うのだろう? 死んでしまったから? それとも、カメの血を僕に入れてしまったからなのか。父さん、僕は今、仲間に囲まれているよ。

「父さん、僕はもう一人じゃない」

僕は距離をとり、ビームを乱射する。これが八十パーセントというのか? これに勝てずに、コマペンに勝てるはずがない。父さんは、ビームをかいくぐる。接近戦を得意としていたのか、考えるヒマも与えてはくれない。父さんは、キャノン砲を放つ。僕のカメットは、もうボロボロだ。僕は負けたことは多いが、カメットを撃墜されたことはない。カメットvsカメットか。相当タフだぞ。僕が動けなくなったところで、父さんはビームを連射してくる。脱出出来ない! 僕のカメットは遂に大破する。

ゲームで良かったよ。そこへやって来たキラーが言う。

「面白そうなことをやっているな。伝説のパイロット、カメロウか。今度は、殺意に満ちた俺がやる。殺す!」

殺すって、データは死なないだろ。アイカが言う。

「私も父さんと戦ってみたいです。血は繋がっていないですけど」

そして、キラーもアイカも撃墜される。キラーが言う。

「そんなバカな。化け物か。俺が墜とされたのは初めてだ」

アイカが言う。

「そう言えば、これが完全敗北ですね」

三人でいくか。いや、一人で勝ちたい気がする。僕はキラーに向かって言う。

「キラーはどうやって、殺意に満ちた世界にする気だ?」

「それは企業秘密だな。親の金を拝借することになる」

アイカが言う。

「私も兄さんと共に、それを阻止します」

キラーが言う。

「誰が最初にカメロウを倒せるか、殺せるかってことだな。データなだけに弱点はないのか?」

「さあな」

アイカが言う。

「兄さんと似ていますね。でも父さんは、それがいつも発揮されています」

どういうことだ? 僕と父さんが似ているだと。でも、スタイルは結構違うよな。僕は、あんなに攻撃的じゃない。メンタル面で負けている。キラーが言う。

「俺もそれは感じた。カメタの土壇場の決断力が、カメロウでは常に発揮されている。カメタでさえやりにくいってのに」

僕の土壇場の判断力だと。もしかしたら、いけるかもしれない、父さんの力が八十パーセントしか発揮されないのなら。僕は、再び父さんに挑む。ここには、大切な人達がいるんだ。ゲーム感覚では父さんに失礼だ。いくぞ、カメット!

カメットが言う。

「カメタは優しいんだね。だからこそ、僕は力を発揮する。行こう、カメロウ君とは違う世界へ」

僕は尋ねる。

「父さんとは違う世界だと? カメット。そうだ、僕は僕の道を歩む」

ここにはキラーもアイカもいない。いなくても、僕は守るんだ。優しさで溢れた世界にするために……。キラーにとっては、物足りない世界なんだな、何をしでかすのやら。僕からも、プレッシヤーは出ているのだろうか? 変幻の力をなめるなよ、父さん。

カメットソードがくる。かわしたが、次が来る。変幻が名刀であることを教えてやる。データにそんなこと言っても意味はないがな。僕は、巨大化した変幻でガードする。変幻だからこそ、パターンは多いはずだ。僕は、カメットはそれでも吹っ飛ばされる。父さんは攻め続ける。どんな体力してんだよ。僅かなスキを見つけて、ショートソードで突く。しかし、貫けない。さすが、相手もカメットだ。そうだ! 実戦のように戦うんだ。僕は詰めが甘い。でも、みんなを守るためなら戦える。いけー、変幻! 百十メートルの剣ならどうだ? 僕はそれを叩き込む。

アイカが言う。

「さすがです。兄さんが、いつも通りに動いています」

キラーが言う。

「ふん、カメロウのデータは俺が殺す」

カメットソードは、凄まじい攻撃を繰り出す。しかし、変幻の方が名刀なんだよ。もう一人の父さんの意思も継ぐからな。父さんの装甲はえぐられる。今度こそいけるか。

ロランさんは、素晴らしい物を託してくれてありがとう。戦いの中で得たものは全て使うんだ。空気を風を感じるんだ。ここは、空想世界ではない。そう思えてくる。父さんをいいところまで追い詰めたが、結局勝てなかった。ヒルコリはどうやってとどめを刺したんだよ。キラーもアイカも貴重な経験をしたようだ。

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