第8話 サムライの心

僕達は鉱山へと向かう。移り変わる景色を楽しむ暇もなく進む。アイカが言う。

「そんなに急ぐことないですよ」

「これは遊びじゃない、戦争なんだよ」

「楽しみだな。また殺すことが出来るなんてな……。人生なんて、遊んで過ごせばいい。自らの心に従う。戦争も遊びだよ、俺にとってはな。ライバルにはしっかりしてもらわないと困る。潰し甲斐がない」

僕はため息をつく。殺意という言葉も、いつの間にか僕に馴染んでいる。キラーと、こんな話が出来るようになるとは……。頼りにしているぜ、キラーよ。そしてアイカもだ。僕は言う。

「花見でもしていくか?」

アイカが答える。

「もう、兄さんがこんな冗談を言うなんて、思ってもみなかったです」

鉱山は戦場と化しているだろう。こんな時ぐらい、他愛もない話をしてもいいだろう? 誰に断ることもない。僕達のきずなは揺らがないと信じている。とても強く、もろいものか。僕はこの時を大切にしたい。もっとたくさんの人達と共有したい。この先に、それは待っているのだろうか? 優しさで出来た世界などもろいものだ。きっとそうだろう。それでも僕は、戦い続けるしかないんだな。キラーも戦い続けるだろう。アイカはどうなるんだろう? 僕が考えても、意味がないことのような気がする。アイカが手にするものは何であろうと、それまで僕は守り続けるさ。それが僕のエゴでもな。

そんなことを考えていると、鉱山が近づいた。今度は味方が多いはずだ。しかし、油断は出来ない。少しずつレーダーに反応が出始める。まだ、味方のロボットの反応しかない。しかし、徐々にクワン族の反応も出始める。僕はまた、戦場に足を踏み入れたのだな。やはり、敵は少ない。しかし、クラスB

は多いな。味方が言う。

「カメタとキラーか。凄い援軍が来たな。一気に片付けるぞ」

「了解」

「アイカも相当強いらしいぞ。将来何処までいくんだ?」

みんな、そんなことを言っているが、表情は硬い。僕達より場慣れした兵士が多いのだろう。

アイカは、

「鉱山は渡しません!」

と言いながら、歌を歌い味方の士気を上げ、精神の疲労を緩和させる。クラスBを一気に倒すのは難しいな。僕はビームを中心に、戦場を駆け回る。キラーは、ミドルビームとショートビームを使い分ける。

敵が言っている。

「もう少しだ」

「そうだな。耐えるんだ」

しかし、実際は味方が圧倒的に優勢だ。クワン族達は、一体何に期待しているんだろう? 何か応援に来るのか? とにかく、鉱山は譲らないぞ。しばらく激闘が続く。僕達は、もう勝利を確信していた。

その時、レーダーにムサシウサギが映る。クワン族でも、五指に入るかもしれない強さだと聞いている。クワン族が待っていたのは、これのことか! しかし、いかにムサシでも、この数は相手に出来ないだろう。そして、ムサシがいよいよ到着した。ムサシは言う。

「卑怯者め、さしで勝負しろ!」

ムチャクチャ言ってるぞ。ここが何処だかムサシは解っているのか?

クワン族の士気は上がる。どうしてだよ。それほど強いのか、ムサシ。しかも、剣二本持っているだけで、飛道具は持っていないようだ。なめているのか? キラーが言う。

「飛道具はどうした、ムサシ!」

ムサシは答える。

「俺は刀しか扱えない。不要なんだ。しかし、サムライならば、一つ武器があればそれをとことん追究する」

僕は言う。

「大した自信だな」

そして当たり前のように、僕達は距離をとる。ビームがムサシを襲う。凄い数のビームだ。ムサシでも、これはきついだろうと思っていた。ムサシは、剣で防ぎまくりつつかわし、距離を詰めてくる。しかし、そのままでは防戦一方だろう、ムサシよ。するとムサシは、片方の剣でビームを弾きだした。小型ロボットでそのパワーか。圧倒的有利と思っていた味方の顔色が変わる。ムサシは、被弾しつつも味方を次々に落としていく。

僕は言う。

「僕達も行くぞ!」

アイカが言う。

「兄さん、気をつけて下さい。でもここは接近するんですね」

僕は、ムサシに気づかれないように頷いた。変幻を巨大化させる。ギア四は当たり前だ。ムサシの片腕でも止められればいい。僕は突っ込む。僕は大きなダメージを受けるが、ビームはムサシに命中しまくる。

ムサシが言う。

「さしでやるヤツはいないのか? サムライはもう存在しないのか。ヒルコリ様も理解が足りない。コジローガメとやらはどうだ?」

僕は答える。

「サムライだと。何時の時代だよ。ムサシはその歳で絵本の世界を夢見ているのか?」

「サムライはもういない。しかし、サムライの心は俺に受け継がれた。俺は、それをさらに次の世代に渡したい。心は生きている、肉体が砕け散ろうとも」

キラーが急接近を使う。これで、一時的だがムサシの両手は塞がれた。ビームの嵐だ。何だよ、まだ諦めていないのか! 僕とキラーは吹っ飛ばされる。味方のロボットが次々に落とされていく。これがサムライの心か……。しかも、かわすところはしっかりかわして、被害を最小限に抑えている。単純バカではないらしい。ムサシウサギは、この数に向かって来るのか。アイカは精霊の歌を歌う。更に勇気の歌も歌う。味方がムサシにひるみだしたぞ。しかし、アイカの歌で何とか踏みとどまる。焦るなよ、僕達。我々がひるまなければ、勝ちは堅い。

キラーが言う。

「くだらんな。屍の上に立ってこそ戦士だ」

ムサシが言う。

「サムライの心は、殺しを肯定しない。死の上に立つためには、悲しみ達を背負うことだ」

キラーはロングビームを放つ。ムサシは限界に近い。キラーが言う。

「サムライの心は、バカの心か?」

アイカが言う。

「キラーさん、挑発してますね」

しかし、ムサシは恐ろしいヤツだ。まともに戦ったら、まず勝てない。昼寝に懲りたウサギの最大の部下か……。昼コリが言う。

「退け、ムサシ。体勢を立て直すぞ」

「昼コリ様、仲間を見捨てろと言うのですか?」

「そうだ。オレはお前を失いたくはない」

「それでは、サムライの心を失った俺は、俺じゃない」

「ムサシ!」

敵が言う。

「俺達も退くか。それならいいですよね、ムサシ様」

ムサシは悔しそうに言う。

「くっ。迷惑をかける」

僕達は鉱山を守りきったようだ。しかし、もうムサシとは戦いたくないな。

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