第2話 何がための殺意

校内放送では、

「クワン族が侵入しました。クラスCが一機、クラスEが七機と思われます」

と、言っている。校内では大混乱が起きている。先生達も、この事態は想定していなかったようだ。先生達は、急いでこの事態に対応しようとしている。

クワン族から攻めて来るとは珍しい。しかも、こんな奥地まで来ることは、これまでほとんどなかった。しかも学校は、ガードが堅い筈だ。ここまで侵入して来るとは、ローズは何を考えている? 宣戦布告か……。

キラーが言う。

「勝負はお預けのようだな。これはこれで面白い」

僕もボーッとしている場合じゃない。しかし、学生である僕達は、実戦を全く経験していない。一年生なんか、完全に怯えている。キラーは楽しそうだが、僕は震えている。しかし、やるしかないんだ!

クワン族の兵士が言う。

「あれがカメットか。でも、所詮学生だろ」

カメットって、結構有名なんだな。父さんもいろいろと暴れまわったようだしな。僕はビームを放つ。よし、いつも通りだ。さーて、止めだ。待てよ、止めだと……。クワン族とはいえ、僕は殺すのか? 覚悟していたはずだ。いけー! しかし、的から少し外れる。かすった程度だ。

キラーが言う。

「これは戦争だぞ、カメタ。お前にはがっかりだ」

キラーが、クワン族のロボットの一機を仕留める。クワン族の小型ロボットから兵士は脱出する。しかし、キラーはそれを追撃する。そして兵士は力尽きる。

僕は言う。

「キラー、そこまでしなくてもいいだろう」

「相変わらず甘いな、カメタ。殺さなければ、また来るぞ。しかし、楽しいものだ。オレは平和になど興味はないがな。終わらないんだよ」

キラーの考えは正しいかも知れないが、何がための殺意だ。これも、母さんの言う制御なのか。

僕はキラーのようにはなりたくない。殺すのが楽しいだと! 僕もそれに慣れていってしまうのだろうか。その時、妹のアイカが駆けつける。何しに来たんだよ、こんなところへ。キラーが言う。

「カメタよ、よそ見している場合ではないぞ。バリアか……。妹に助けられるとはな」

アイカが言う。

「兄さん、私も援護します。そして、キラーさんの意見には反対ですね」

アイカも声が少し震えている。やはりアイカも怖いのか。なら、来るなよ。僕とキラーは、Eクラスのクワン族を撃破した。Cクラスは隊長機か。やや大きいぐらいで、差はあまり感じられない。

生徒達が言う。

「さすが、カメタとキラー。もう実戦に慣れてやがる」

殺意など人間にはいらないはずだ。しかし、キラーの言葉が無ければ、僕はやられていたかも知れない。キラーは何を思い、何を感じ、行動するのだろう? 殺意は何処から生まれるんだ? 何故、人とクワン族は争う? 何かが意図した世界だとでもいうのか。

さすがのキラーも、Cクラスには苦戦している。キラーは距離をとる。僕に接近戦を任せるってことか?

アイカが言う。

「私だってやれます」

アイカはあれで、結構調子に乗りやすいところがあるからな。僕が守らないといけない。キラーの言葉が無かったら、それさえも叶わなかったかも知れない。

アイカは歌を歌う。スローテンポな曲だ。Cクラスの兵士も驚いている。ロボットの動きが鈍っている。キラーが言う。

「もう少しだ。もうちょっとで、殺せる。カメタ、よくやった」

キラーがロングビームを貯めている。僕は兵士を誘導する。アイカの歌の効果で、誘導もしやすい。遂にロングビームが放たれる。

しかし、決着はつかない。僕が振りかぶったところで、キラーが割って入る。急接近を使ったな。キラーが言う。

「こいつもオレの獲物だ!」

キラー、そこまでするのかよ。しかし、少し安心している僕が、ここにはいる。こんな戦い、嫌だ。戦争何て無くなってしまえばいい。多くの人が願ったことなのだろうな。

キラーが言う。

「カメタ、見事なへたれっぷりだったな」

アイカが言う。

「兄さんは優しいからです」

アイカが反論している。惨めなだけだよ、キラーが言う。

「その優しさが戦争を長引かせる。オレの知ったこっちゃないがな」

これで全部終わったはずだ。一気に疲れが出る。さっさと帰って寝るか。

その時、また校内放送が流れる。

「えっ、もう一機侵入して来ました」

何だと? あれだけの兵士がやられながらも、まだやるのかよ。って、あれは青オニだ。学生が手を出せる相手ではない。クワン族の中でも強い部類に入ると習った。

青オニが言う。

「ローズ様もバカだな。人間のことなどどうでもいい。好きなだけ光エネルギーを浴びればいいのさ。何が三十年計画だ」

青オニが何か叫んでいる。どう考えても、三対一でさえ勝てそうもない。どうすればいいんだ。手の込んだ冗談であってくれ。しかし、今ならスキだらけじゃないか。僕は変幻をショートソードにし、一撃必殺の突撃を試みる。しかし、それはあっさりと青オニの剣に払われる。ここまで力差があるとはねぇ。青オニさまが、こんなところに何しに来たんだよ。

青オニが言う。

「カメットだと。しかし、手応えがない。レプリカか?」

青オニは、確か遠距離型だったよな。ロボットは十三メートルといったところか。機動力よりも防御に力点を置いたロボットと聞いた気がする。帰ってくれると嬉しいんだがな。しかし、青オニは気づいているのか? キラーがロングビームの準備をしているぜ。

キラーが言う。

「何だと?」

青オニのロングビームがバリアを突き抜け、サツイにヒットする。キラーへのダメージはかなりのものだ。何時の間にか、アイカがバリアを張っていてくれて助かった。しかし、高性能ロボットのサツイより、ロングビームの射程が長いとはな。助かったって、何時まで戦うんだ?

青オニが言う。

「ちっ、もうちょっと遊びたかったんだがな。挨拶はこれぐらいにしておくか」

そう言うと、青オニは去っていった。先生達がようやく到着したようだ。遅すぎるっつーの。しかし、三十年計画とは何だ? どうせ、ろくでもないことなんだろう。キラーが言う。

「なめやがって。絶対に後悔させてやる。そして死ね!」

キラーは相当悔しがっている。僕達はまだ若いんだ。力をつければいいさ。

アイカが言う。

「終わりました」

ドテッ。アイカもムチャクチャしやがって。腰を抜かしてやがる。キラーが言う。

「カメタ、きさまは殺す力はなくても、抵抗する力はあるんだな。刀を二十メートルぐらいにして、突っ込むところだったんだろ。もうちょっと遅ければ、オレ達はやられていた」

僕は答える。

「それは、褒めているのか?」

「お前次第だ。しかし、強いヤツほど殺しがいがある。更なる力が欲しいところだ」

キラーは、そればっかりだな。味を覚えてしまったというやつか。僕は戦いに向いていないのかも知れないな。今度こそ、ゆっくり休めそうだ。

僕はアイカに言う。

「アイカ、もう無茶するなよ」

アイカが答える。

「兄さんの方が無茶ですよ」

もう、笑うしかないな。それにしても、クワン族はいきなり何を考えたのだろう? 学校のガードを無視してやって来るとはな。この時の三人の戦果は、そこそこ有名になっていた。



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