扉を貫く絵
大槻有哉
第1話 海からの贈り物
ここには無数の扉がある。そして、その一つに辿り着いた二人の人間がいた。二人の名は、ゼウスとマリアという。ゼウスは言う。
「見事に貫かれている。我々がまさかこんな物に制御されていたとはな……。私達は来るのが遅すぎた。人の一生とは短いものだ」
マリアが答える。
「ならば、ここに目印を付けておきましょう。何時かここへ訪れる者、それは速い存在なの? きっと、世界を制御から解放してくれるわ」
二人は、一枚の絵を描き始めた。次に訪れる者のために……。ゼウスは言う。
「私達の子供に全てを託そう」
「そうですね」
その名はカメット。カメットという名のそのロボットは、ある海へと落とされる。
そして、千年以上の時が経過した……。
僕はカメタ、十八歳だ。伝説の種族カメと人間のハーフである。ロボット学校の三年生である。カメである父さんの残したカメットというロボットを操る訓練生だ。
この世界は今、人間とクワン族が争っている。クワン族は食物を何も食べることが出来ない。その代わりとして、上空に光エネルギーを作り、それを栄養源として生きている。しかし、そのことによって、更に上にある恵みの光を、人間達から遮ってしまったのである。今では、恵みの光はあまり地上へは届かない。
人間だけでなく、他の多くの生物達も迷惑している。それが元で争っている。二つの種族は、互いを悪と決めつけている。僕達も、何時かクワン族と戦うことになる。海を挟んだ二大陸に、それぞれの種族が住んでいる。きっと、お互いを悪と決めつけなければ、戦うことは出来ないのだろう。
クワン族だって、好き好んでやっている訳ではない。きっと、こんな心のスキが命取りになるのであろう。
僕の母さんは、ロボット学校の校長をつとめている。科学者でもある。義理の父さんは、ロボットの部品ショップを経営している。しかし、儲けはあまり芳しくはないようだ。しかし、僕のために作ってくれたカメットの剣、変幻は名刀と言われる。
母である校長が言う。
「カメタは、また肉だんごを残すのね。ちゃんと食べないと、一日持たないわよ」
アイカが言う。
「兄さんが食べないなら、私がいただきます」
アイカは僕の異父妹で、カメの血は入っていない。ロボット学校の一年生である。アイカも、パイロットとして高い才能を持つと思われるが、妹までクワン族と戦わなければならないのは、僕も心が痛む。クマちゃんと呼ばれる、クマのぬいぐるみのようなフォルムのロボットを操る。十五メートル級の中型ロボットだ。
カメットは、高さ十八メートルぐらいのロボットである。カメの姿に似ている。僕は言う。
「肉だんごは苦手だ。アイカ、さっさと食っちまえ!」
「はい、兄さん」
アイカは、嬉しそうに肉だんごを頬張る。母さんは、呆れたように口を開く。
「これも制御によるものかしら。何者かが意図した世界か。でも、食べた方が力が出る……」
また、母さんの科学者魂に火がついたか。わが国は、クワン族を完全に敵視しているが、母さんはそうでもないらしい。
それにしても、カメは肉をあまり好んで食べないようだ。カメットのデータを解析していると、制御という言葉が出てきたらしい。そして父さんは、カメットを海からの贈り物と言っていたらしい。僕が肉より海草や野菜を好むのは制御によるものと、母さんは言い出したからな。ならば、クワン族も何らかの制御を受けてるってか。母さんも国の上層部と繋がっている。このロボット学校は、戦うためにあると母さんも認めているようだ。
人とクワン族の争いに終わりは来るのだろうか? どちらかが滅びれば終わるさ。しかし、それでいいのだろうか? 母さんも覚悟は決めているらしい。僕も本気で戦わなければならない。早く決着を着けないと、アイカもみんなも傷ついていくばかりだ。他の途を探すなんて言ってられない。
ローラ先輩は、もう一流の冒険者だ。先輩は、すでにクワン族と戦っているんだよな。あんな優しい人が戦わないといけない世界なんて、間違っているような気がする。
母である校長が言う。
「カメロウさんには、確かに心があった。どうして……。んっ、ただの独り言よ。気にしないで」
僕とアイカの視線に気づいたのか、母さんはそう言った。父さんに心があったというのは、当たり前ではないないのか。アイカが言う。
「兄さん……」
それにしても、母さんはクワン族のリーダーであるローズに接触するつもりらしいな。国の許可が下りる訳がない。ローズはかなり厳しい人物らしい。話し合いで解決出来るものなら、戦争なんか起きていないはずだ。接触しても、どうなるものでもないだろう。
母さんはピークを過ぎたとはいえ、かなり高いパイロット能力を持つ。しかし、ローズが相手では、分が悪いんじゃないか。危ないことにならなければいいが……。校長は言う。
「カメタは今日、キラー君との模擬戦よね。あの子も、本当はいい子だと思うんだけど。まあ、頑張りなさい。しっかり準備するのよ」
キラーがいい子だとは、とても思えない。平気でクラスメイトに止めを刺そうとするほど凶暴だ。去年の模擬戦で、ローラ先輩に負けたのはいい気味だ。
それにしても、カメットの性能は凄いな。他の生徒のロボットとは桁違いだ。『校長の息子はいいねえ』とよく言われる。しかし、ロボットの性能を引き出すには、パイロットの身体能力も重要なのだ。
キラーの乗るサツイも五千万円したらしく、相当に高性能だ。あいつ、金持ちの家の坊っちゃんだからな。今日は、模擬戦の決勝戦か。僕とキラーの戦いだ。妹のアイカが言う。
「兄さん、あまり無茶しないで下さいね」
「お前もな」
僕はカメットに乗り、学校へ向かう。
ここら辺は都会だからな。卒業したら冒険者か……。いろいろなところを見てみたい気もするが、戦争に行く訳だからな。そして授業が始まる。歴史の授業が終われば、模擬戦だ。キラーとは、まだ決着がついていないからな。あいつ、何故か気に食わないんだよな。絶対勝つぞ、と気合いを入れる。タクティクスの授業では、集団戦がメインだったからな。一対一では、どんな作戦でいこうか? タクティクスとかメンタルトレーニングは、学校じゃないとなかなか出来ない。最後の年か……。
そして、午後の授業の模擬戦が始まる。キラーもサツイに乗り、準備万端のようだ。サツイは、十二メートルクラスの小型ロボットで、スピードがでる。遠距離の戦いが得意だ。生徒達が叫ぶ。
「カメター、勝ってくれー!」
キラーはかなりの嫌われものだ。全く気にしていないようだが……。僕なら、気にするだろうな。
キラーが言う。「最強はオレだ。カメタ、今日こそ決着を着けてやる!」
ついに戦いが始まる。僕は、変幻と呼ばれる剣を二メートル程度に抑える。そして、速攻で攻める。しかし、僕の変幻は空を切る。キラーは前より速くなっているな。キラーのビームには、ショート、ミドル、ロングの三種類がある。長いほど貯める時間も長い。距離的に見てショートか。ならば、変幻を五メートルまで長くする。サツイのビームを食らいながら、僕は接近する。スピードが速くても、攻撃中はスキが出来るはずだ。僕の剣はサツイにヒットする。
キラーが言う。
「ちぃ、さすがはカメット。まさに、海からの贈り物だな。カメタの力ではない」
まあ、そこは否定しないがな。かなり頑丈に出来ているのは確かだ。そのせいか、僕は強引に攻めるところがある。そこは、母さんによく注意される。
今度はキラーがかなり距離をとったな。ロングビームが来るのか? 僕はカメットのギアを一段上げる。ギアはパイロットに負担のかかるものだが、ロボットの性能が上がる。因みに六段まである。よし、攻めるぞ! えっ、あー、キラーにはこれがあったか。遠くにいたはずのキラーが、目の前にいる。急接近を使ったのだ。これも、パイロットにかなりの負担がかかる。僕は、サツイの剣による重い一撃を食らう。僕はビームを乱射する。そのうちのいくつかは、ヒットしたようだ。
見物の生徒が言う。
「学生レベルの戦いじゃないな。すげーっ」
まあ、ロボットの性能の影響がでかいんだろうがな。今日こそ決着を着ける! と思ったら警報が鳴る。何が起きたんだ? ここは学校だぞ……。
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